日本関連:この研究は海外機関を中心とする国際共同研究で、日本の研究機関に所属する共著者が参加しています。参加国はブラジル、日本です。

掲載誌:Frontiers in Sustainable Food Systems

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

アグロフォレストリーとは、樹木や複数の作物を意図的に組み合わせて育て、森林に近い生態的なはたらきを保ちながら生産を行う農業のやり方です。ブラジル東部アマゾンでは、この方法でアサイーやカカオといった在来の果実が栽培されています。

研究チームは、管理の仕方が異なる農園で育った果実が、含まれる元素、代謝物(植物が体内でつくる多様な化学物質)、遺伝子の働き方の点でどう違うのかを調べました。これまでアサイーやカカオの成分や遺伝子発現はそれぞれ別々に調べられることが多く、実際の農園で長く続いてきた管理の違いが、これらの特徴にまとめてどう表れるかはあまり分かっていなかったと著者らは述べています。

何を調べたか

対象は、パラー州トメアスにある隣り合う2つの農園です。AFS19は約19年続く農園で、主に家畜ふん尿などの有機肥料を使い、石灰(土の酸性度を調整する資材)の散布は少なめです。AFS27は約27年続く農園で、化学肥料を使い、定期的に石灰を散布しています。どちらの農園にもアサイーとカカオが植えられています。

研究チームは2023年12月、収穫期の終わりに、各農園の複数の木からアサイーの果実とカカオの果実を採取しました。アサイーは食用となる果肉、カカオは種子とその周りに付着した果肉状の組織を分析に使いました。

分析は三つの観点から行われました。一つ目は、リン、銅、カルシウム、マグネシウムなど12種類の元素の濃度測定です。二つ目は、果実に含まれる化合物を幅広く検出する網羅的な代謝物分析です。三つ目は、果実の中でどの遺伝子がどれだけ働いているかを、RNAの配列を読み取ることで調べるトランスクリプトーム解析です。

著者らは、この研究が対照実験ではなく、既存の2つの農園を比べた観察研究である点を強調しています。両農園は肥料の使い方だけでなく、農園そのものや経過年数なども異なるため、見つかった違いを特定の管理方法の効果と見なすことはできないとしています。

主な結果

元素の組成は、アサイー、カカオともに2つの農園でおおむね似ていました。そのうえでアサイーの果肉では、AFS19の試料の方が銅が38%、リンが35%高く、統計的に差が認められたのはこの二つの元素だけでした。カカオでは、AFS27の試料の方がカルシウム、マンガン、マグネシウム、硫黄の濃度が17〜30%高く、一方でカリウムはAFS27の方が低いという結果でした。

代謝物の分析では、アサイーとカカオのどちらも、AFS19の試料でより多くの種類の化合物候補が検出されました。たとえばアピゲニンやエスクリンといった化合物の候補は、AFS19の試料でのみ見つかりました。ただし、これらの同定は標準物質で確認したものではなく暫定的なものであり、一方の農園の試料で検出されなかったことは、その化合物が本当に存在しないことを意味しないと著者らは注意しています。また、この分析は各農園2本の木の試料に基づく探索的なものと位置づけられています。

遺伝子の働きについては、アサイーの果肉では、AFS19で酸化を抑える働きやストレスへの耐性に関わる遺伝子の発現が高く、AFS27では成熟、たんぱく質の分解、フラボノイド(植物がつくる色素などの化合物群)の合成に関わる遺伝子の発現が高くなっていました。カカオの種子では、AFS19で種子の保護や、蓄えた栄養を利用するための炭水化物代謝に関わる遺伝子が、AFS27で病原体への抵抗性、種皮の形成、成熟に関わる遺伝子がより強く働いていました。なお、アサイーには利用できる高品質なゲノム情報がないため、近縁のアブラヤシのゲノムを基準に解析しており、この点も結果の解釈で考慮すべき制約として挙げられています。

研究が示すこと

著者らは、元素、代謝物、遺伝子発現を組み合わせて調べたことで、2つのアグロフォレストリー農園の間でアサイーとカカオの果実の特徴に違いがあることが示されたとまとめています。違いの表れ方は作物によって異なっていました。

この研究は、管理方法が果実の性質を変えたと結論づけるものではなく、実際の生産現場にある対照的な2つの農園で育った果実の特徴を、複数の視点から並べて記録した比較データを提供するものだと、論文は位置づけています。

著者:R. B. Dextro(Cellular and Molecular Laboratory, Centre for Nuclear Energy in Agriculture (CENA), University of São Paulo (USP), Piracicaba, Brazil)、A. Virgilio(Cellular and Molecular Laboratory, Centre for Nuclear Energy in Agriculture (CENA), University of São Paulo (USP), Piracicaba, Brazil)、S. M. Alencar(Laboratory of Food Sciences, Superior School of Agronomy “Luiz de Queiroz” (ESALQ), University of São Paulo (USP), Piracicaba, Brazil)、A. F. Cruz(Laboratory of Microbial Ecology, Graduate School of Life and Environmental Sciences, Kyoto Prefectural University (KPU))、N. Ono(Laboratory of Data Sciences, Nara Institute of Science and Technology (NAIST))、S. M. Tsai(Cellular and Molecular Laboratory, Centre for Nuclear Energy in Agriculture (CENA), University of São Paulo (USP), Piracicaba, Brazil)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):R. B. Dextro, A. Virgilio, S. M. Alencar, et al. Comparative biochemical and transcriptomic profiling of açaí and cacao fruits from Eastern Amazon agroforestry systems. Frontiers in Sustainable Food Systems 2026-10-16. DOI: 10.3389/fsufs.2026.1970644. 原著ライセンス:CC BY.