著者の所属・活動拠点の国は、ドイツ、ガーナです。
掲載誌:Agroforestry Systems
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:カカオ畑の炭素と収穫を気候の違いから比べる
カカオ(チョコレートの原料)は世界で4000万人以上の暮らしを支える作物です。年間400万〜500万トン程度生産されるカカオ豆の約95%は小規模農家によるもので、栽培面積の約7割は西アフリカにあります。需要が増えるにつれて栽培地が森林へ広がり、森林破壊や生物多様性の損失につながることが懸念されています。
そこで注目されているのが「アグロフォレストリー(森林農法)」です。カカオの木と、日陰をつくるさまざまな樹木(被陰樹)を同じ畑で育てる方法で、生産を続けながら樹木や土壌に炭素を蓄え、気候変動の緩和に役立つ可能性があるとされています。一方、被陰樹とカカオが水や養分を奪い合うと、乾燥した気候ではカカオの生育が妨げられるおそれも指摘されています。
研究チームは、ガーナのカカオ栽培地帯を乾燥・中間・湿潤の三つの気候帯に分け、小規模農家のアグロフォレストリーが蓄える炭素の量と、カカオの収量が気候によってどう異なるかを調べました。
調べたこと:150の農場で樹木と土壌を測る
調査地は、乾燥帯がアシャンティ州アクマダン周辺、中間帯がブロング・アハフォ州ゴアソ周辺、湿潤帯が西部州アサンクラグア周辺です。乾燥帯は11月から3月まで乾季が続き、中間帯と湿潤帯の乾季は11月から2月までです。
研究チームは計150の農場で、被陰樹すべての樹高と胸の高さの幹の太さを測りました。カカオの木は畑の中央に設けた一定面積の範囲で測定しています。被陰樹は合計2447本、85種にのぼりました。測定値をもとに樹木が蓄える炭素量を推定し、深さ30センチまでの土壌に含まれる有機炭素も調べました。さらに、気候帯ごとの炭素量を統計的に比較し、カカオの収量と炭素量との関係を分析しました。
主な結果:炭素の総量は気候帯で変わらず、内訳と収量には違い
被陰樹、カカオの木、土壌の炭素を合わせた農場全体の炭素量は、三つの気候帯の間で差がありませんでした。一方、カカオの収量は乾燥帯で中間帯や湿潤帯より低くなっていました。
炭素の大部分を占める被陰樹の炭素量も、気候帯の間でほぼ同じでした。ただし、木の構成は大きく異なっていました。乾燥帯では一本一本の木は比較的小さいものの、本数や種類が多く日陰も多くなっていました。中間帯では本数は少ないものの大きな木が多く、湿潤帯はその中間で背の高い木が目立ちました。著者らは、こうした「数と大きさの釣り合い」によって炭素量が同程度に保たれたと考えています。また、被陰樹の量はカカオの収量に有意な影響を与えていませんでした。
カカオの木そのものの炭素量は1ヘクタールあたり22〜41トンで、気候帯によって有意に異なりました。最も多かったのは、幹が太く農園の樹齢も高い中間帯です。乾燥帯はカカオの木の炭素量(1ヘクタールあたり約22トン)、収量(1ヘクタールあたり年約282キログラム)とも最も低い値でした。カカオの植栽密度は気候帯の間で大きく変わらなかったため、差は主に木の大きさや農園の樹齢などによるものと考えられています。
土壌の有機炭素は、乾燥帯で中間帯や湿潤帯より少なくなっていました。乾燥帯は砂質で有機物や窒素の少ない土壌が多く、水分や養分を保ちにくいことが関係していると著者らは考えています。また、土壌の有機炭素が多いほどカカオの収量も高いという関係が見られました。
収量を樹木の炭素量で割った比率は、乾燥帯から湿潤帯へ向かって高くなりました。著者らはこの結果から、湿潤帯が多くの炭素を蓄えつつ高い収量を得るのに最も適した条件だったとみています。
この研究が示すこと
この研究は、気候条件が異なっても、小規模農家のカカオ・アグロフォレストリーが被陰樹を中心にまとまった量の炭素を蓄えていることを示しました。被陰樹は気候の影響を受けにくい炭素の蓄え場所として働き、しかもカカオの収量を下げていませんでした。
一方で、乾燥帯では炭素の蓄えは他の地域と同程度でも収量は低く、著者らはこれが農家にとって経済的な課題になりうると指摘しています。なお、土壌の調査は深さ30センチまでに限られているため、著者らはこの結果をより広い地域へ当てはめることには慎重であるべきだとしています。
原著論文の著者・所属:Raphael Manu(Organic Plant Production and Agroecosystems Research in the Tropics and Subtropics (OPATS), University of Kassel, Witzenhausen, Germany; Soil Science of Tropical and Subtropical Ecosystems, University of Göttingen, Göttingen, Germany)、Munir Hoffmann(Centre of Biodiversity and Sustainable Land Use (CBL), University of Göttingen, Göttingen, Germany; Tropical Plant Production and Agricultural Systems Modelling (TROPAGS), University of Göttingen, Göttingen, Germany)、Obed Alegyisu Manu(Faculty of Forest and Environment, Eberswalde University for Sustainable Development, Eberswalde, Germany)、Winston Adams Asante(Faculty of Renewable Natural Resources, Kwame Nkrumah University of Science and Technology, Kumasi, Ghana)、Reimund P. Rötter(Centre of Biodiversity and Sustainable Land Use (CBL), University of Göttingen, Göttingen, Germany; Tropical Plant Production and Agricultural Systems Modelling (TROPAGS), University of Göttingen, Göttingen, Germany)、Issaka Abdulai(Tropical Plant Production and Agricultural Systems Modelling (TROPAGS), University of Göttingen, Göttingen, Germany)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Raphael Manu, Munir Hoffmann, Obed Alegyisu Manu, et al. Carbon stocks and yields in smallholder cocoa agroforestry systems along a climatic gradient in Ghana. Agroforestry Systems 2026-08-19. DOI: 10.1007/s10457-026-01593-6. 原著ライセンス:CC BY.