著者の所属・活動拠点の国は、ポーランドです。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

栄養と安全を別々に考えない

ピーナッツバターは世界で広く食べられている食品です。植物性たんぱく質、主に不飽和の脂肪酸、食物繊維、ビタミンやミネラルを含み、栄養価の高い食品とされています。一方で、水分が少なく微生物が増えにくい食品であるにもかかわらず、サルモネラ菌による食中毒の原因に繰り返しなってきました。また、原料のピーナッツは、かびがつくる毒素「アフラトキシン」に汚染されることがあります。

これまで、食品の栄養と安全性は、おおむね別々の分野として研究されてきました。この総説の著者らが注目したのは「フードマトリックス」という考え方です。栄養素や微生物、汚染物質を個別の成分として見るのではなく、食品全体の構造の中で捉えようとする見方を指します。著者らは、ピーナッツバターの水分の少なさ、脂質の多さ、半固形の構造といった同じ性質が、栄養面の働きと危害要因のふるまいの両方を左右していると考えました。

そのうえで、三つの目的を掲げています。ピーナッツバターを栄養上重要な食品構造として整理すること、その構造が栄養素の放出、サルモネラ菌の生存と熱への強さ、アフラトキシンの残り方や分布にどう影響するかを説明すること、そしてこれらの関係を、生産の各段階でのリスク管理の優先事項につなげることです。

どのように調べたか

この研究は、新たな実験を行ったものではありません。既存の文献を整理して統合する「ナラティブレビュー(叙述的総説)」です。著者らは複数の学術データベースで、ピーナッツバターと食品構造、栄養価、サルモネラ菌などの病原菌、アフラトキシン、熱への耐性、リスク管理などに関する文献を検索しました。規制機関や国際機関の報告書も対象に含めています。最終的に90件の資料をもとに、栄養、食品構造、微生物による危害、かび毒による危害、リスク管理という五つのテーマに分けて考察しました。

資料の扱い方にも区別を設けています。ピーナッツバターそのものを対象にした研究や食中毒事例の調査は、この製品に関する結論の根拠として使いました。粉乳やチョコレート、小麦粉など他の低水分食品の研究は、仕組みを理解するための比較材料にとどめています。試験管内で消化を再現した実験なども、人や工場規模で確かめられたものでない限り、仕組みを示す段階の証拠として扱っています。

主な報告内容

栄養面について、著者らは、ピーナッツバターが一般に100gあたりたんぱく質22〜30g、脂質45〜55g、食物繊維4〜8gを含むと整理しています。ピーナッツをすりつぶすと細胞の構造が壊れ、粒のままのピーナッツより消化酵素が届く面が広がります。ただし、栄養素の出やすさは粒の細かさだけでは決まらないとしています。消化を模擬した実験では、粘りの強いピーナッツバターほど胃からの排出やたんぱく質・脂質の消化が遅くなったと報告されています。一方で著者らは、こうした実験が示すのは消化管内で溶け出しうる量であり、実際に吸収される量や健康への効果ではないと注意を促しています。

食品安全の面で中心となるのがサルモネラ菌です。水分が少ないと菌は増えませんが、死ぬわけではありません。乾燥にさらされた菌は身を守る反応を起こし、その結果、熱にも強くなることがあります。脂質の多い環境もこの保護に関わります。総説では、ピーナッツバター中でサルモネラ菌が感染力を保ったまま最長24週間生き残ったという研究が紹介されています。また、90℃で菌を10分の1に減らすのに要する時間は、水分活性(食品中で微生物が利用できる水分の指標)0.20〜0.80の範囲でおよそ2〜7分と報告され、水分活性が最も低いときに最も長くなっていました。このため、水分の多い食品で決めた加熱条件をそのまま当てはめることはできないとしています。

実際の食中毒事例として、2008〜2009年に米国で起きた大規模なサルモネラ菌集団感染が挙げられています。46州で714人の確定患者、166人の入院、9人の死亡が報告されました。著者らは、こうした事例から共通する失敗の型として、加熱後の工程での再汚染、工場環境への菌の定着、陽性結果への対応の不備を読み取っています。ほかに、大腸菌O157:H7が実験条件でピーナッツバター中に生き残ることや、リステリア菌がナッツ、種子、豆類のバター類の中で長期間生き残ることも紹介されています。また、2024年に英国で、生後6か月の乳児とその乳児が食べたピーナッツバターから一致するボツリヌス菌株が見つかった事例も取り上げています。著者らは、これは乳児ボツリヌス症に特有の事例であり、製品中で毒素ができた証拠でも、成人一般に同じ危険があることを示すものでもないと位置づけています。

アフラトキシンは、性質の異なる危害要因として整理されています。多くの場合、製造前の栽培、収穫、乾燥、保管の段階で生じ、かびそのものが死んでも毒素は残ります。汚染は一部の粒に偏りやすく、すりつぶすことでロット全体に広がることがあります。そのため著者らは、見た目の検査や加熱に頼るのではなく、原料の管理、選別、代表性のあるサンプリングと分析が重要だと述べています。

この総説が示すこと

著者らは、現場で根強い三つの思い込み、すなわち「保存がきけば微生物的に安全」「成分表示から加熱の殺菌効果を予測できる」「焙煎すれば汚染原料を補える」を検討しました。そして、いずれも製品や危害要因を問わず当てはまるものではないと結論づけています。

ピーナッツバターの構造は、栄養素を取り出しやすくも出にくくもし、同時に病原菌を守ったり汚染を広げたりもします。栄養と安全を同じ食品構造の結果として捉えることで、加熱条件は実際の製品で確かめること、アフラトキシン対策はすりつぶす前に重点を置くこと、加熱後の衛生管理が欠かせないことが説明できる、というのがこの総説の示す見方です。

原著論文の著者・所属:Wojciech Gaworowski(Department of Toxicology and Bromatology, Faculty of Pharmacy, Ludwik Rydygier Collegium Medicum in Bydgoszcz, Nicolaus Copernicus University in Toruń, A. Jurasza 2 Street, 85-089 Bydgoszcz, Poland)、Jakub Ostrzycki(Department of Toxicology and Bromatology, Faculty of Pharmacy, Ludwik Rydygier Collegium Medicum in Bydgoszcz, Nicolaus Copernicus University in Toruń, A. Jurasza 2 Street, 85-089 Bydgoszcz, Poland)、Beata Sperkowska(Department of Toxicology and Bromatology, Faculty of Pharmacy, Ludwik Rydygier Collegium Medicum in Bydgoszcz, Nicolaus Copernicus University in Toruń, A. Jurasza 2 Street, 85-089 Bydgoszcz, Poland)、Marcin Gackowski(Department of Toxicology and Bromatology, Faculty of Pharmacy, Ludwik Rydygier Collegium Medicum in Bydgoszcz, Nicolaus Copernicus University in Toruń, A. Jurasza 2 Street, 85-089 Bydgoszcz, Poland)、Katarzyna Mądra-Gackowska(Department of Geriatrics, Faculty of Health Science, Ludwik Rydygier Collegium Medicum in Bydgoszcz, Nicolaus Copernicus University in Toruń, Skłodowska-Curie 9 Street, 85-094 Bydgoszcz, Poland)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Wojciech Gaworowski, Jakub Ostrzycki, Beata Sperkowska, et al. Balancing Nutritional Value and Food Safety in Peanut Butter: The Role of Food Matrix Characteristics in Hazard Behavior and Risk Management. Foods 2026-08-13. DOI: 10.3390/foods15162827. 原著ライセンス:CC BY.