著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。
掲載誌:Molecular Nutrition & Food Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:脂質・炎症と鉄の状態を同時に調べる
研究チームによると、出産年齢の女性の肥満は世界的に増えており、軽い慢性的な炎症、鉄の調節の乱れ、代謝の異常を伴いやすいとされています。食事から鉄を十分にとっていても、肥満の女性には鉄不足がよく見られます。その一因として、炎症によって肝臓が「ヘプシジン」というホルモンを多く作ることが挙げられています。ヘプシジンは腸からの鉄の吸収を抑え、体内の鉄を使いにくくする働きを持ちます。
エピガロカテキンガレート(EGCG)は緑茶に最も多く含まれるカテキンです。これまでの研究で、抗酸化作用や抗炎症作用、脂質を下げる作用などが報告されてきました。一方で、EGCGには鉄と結びつく性質があり、食品中の鉄の吸収を妨げる可能性があります。もともと鉄不足になりやすい肥満の女性では、この点が懸念されます。
そこで著者らは、肥満の女性がEGCGを1日400mg、8週間とった場合に、血液中の脂質、炎症の指標、鉄に関する指標、そして血液中の代謝物の全体像がどう変わるかを、一つの試験でまとめて調べました。
どのように調べたか
試験は、本格的な試験に先立って小規模に行う「パイロット試験」として実施されました。対象は20〜44歳でBMIが30以上40未満の女性17人です。参加者はくじ引きに相当する方法で、EGCG群8人と、見た目が同じで有効成分を含まないカプセルを飲むプラセボ群9人に分けられました。参加者も研究者も、誰がどちらのカプセルを飲んでいるか分からない「二重盲検」の形で行われています。
EGCG群は、高度に精製した緑茶葉抽出物を1日1回朝に2カプセル飲みました。この量にはEGCGが約400mg含まれます。参加者は普段の食事と運動を続けるよう求められ、カフェインを含む製品、緑茶、他のサプリメントをとらず、ベリー類やコーヒーなどポリフェノールの多い食品も控えるよう指示されました。
開始時と8週間後に空腹時の血液を採り、総コレステロール、LDL・HDLコレステロール、中性脂肪、IL-6やTNF-αなどの炎症に関わる物質(サイトカイン)とCRP、そしてヘモグロビン、血清鉄、フェリチン(体内の鉄の貯蔵量の目安)、ヘプシジンなどの鉄の指標を測りました。さらに、血液中の多数の代謝物を特定の物質に絞らず網羅的に測る「ノンターゲット・メタボロミクス」も行いました。
主な結果:統計的に明確な差はなく、鉄の状態は安定
17人全員が試験を終えました。カプセルの服用率は両群とも90%を超え、有害事象は報告されませんでした。体重にも目立った変化はありませんでした。
脂質では、EGCG群でプラセボ群より総コレステロールが約11mg/dL、LDLコレステロールが約10mg/dL下がる方向の変化が見られました。ただし、どちらも統計的に意味のある差ではありませんでした。HDLコレステロールと中性脂肪には差がありませんでした。
炎症の指標でも、群間に統計的に意味のある差はありませんでした。最も大きな変化はIL-6の低下傾向でしたが、これも有意には至りませんでした。空腹時血糖にも変化はありませんでした。なお、血清クレアチニンは両群で同程度にわずかに上がりました。著者らは、群間に差がなく値も正常範囲内だったことから、これをEGCGの作用ではなく時間経過による変化と解釈しています。
鉄の状態は試験期間を通じてほぼ安定していました。EGCG群ではフェリチンとヘプシジンがやや下がる傾向がありましたが有意ではなく、血清鉄や、鉄を運ぶたんぱく質トランスフェリンの飽和度、ヘモグロビンなどにも群間の差はありませんでした。
メタボロミクスでは、通常の統計処理の段階で、脂質の作り替え、ミトコンドリアでの脂肪酸の分解(β酸化)、プラズマローゲンと呼ばれるリン脂質の合成、アラキドン酸の代謝などに関わる29の代謝物の特徴が変化候補として挙がりました。しかし、多数の比較を同時に行ったことを補正すると、どれも有意ではなくなりました。そのため著者らは、これらの結果をあくまで探索的な、仮説を立てるための手がかりと位置づけています。
この研究が示すこと
この小規模試験では、精製EGCGを1日400mg、8週間とっても、脂質、炎症、鉄の指標に統計的に明確な効果は確認されませんでした。著者らは、参加者が17人と少なく、小さな効果を見つけるだけの検出力が不足していたことを限界として挙げています。参加者が全員白人の非ヒスパニック系女性だったことや、採血が服用から約24時間後で、血中のEGCG濃度が高い時間帯の変化はとらえられていない可能性があることも挙げています。
一方で、EGCGの鉄と結びつく性質が懸念されるなかで、この用量と期間では鉄の状態が損なわれなかったことについて、著者らはこの集団における短期的な安全性を支持する結果だとしています。ただし、より高い用量や長い期間、鉄不足がより重い人に当てはめる際には慎重さが必要だとも述べています。肥満の女性を対象に、精製EGCGが脂質・炎症・鉄・代謝全体に及ぼす影響を一度に調べた試みとして、今後の検証の出発点となる結果といえます。
原著論文の著者・所属:Sixtus Aguree(Department of Applied Health Science Indiana University School of Public Health Bloomington Indiana USA; Department of Food Science and Human Nutrition Iowa State University Ames Iowa USA)、Kedir N. Turi(Department of Epidemiology and Biostatistics Indiana University School of Public Health Bloomington Indiana USA)、Alexandra R. Handt(Department of Food Science and Human Nutrition Iowa State University Ames Iowa USA)、Marian Kohut(Department of Kinesiology Iowa State University Ames Iowa USA)、Manju B. Reddy(Department of Food Science and Human Nutrition Iowa State University Ames Iowa USA)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sixtus Aguree, Kedir N. Turi, Alexandra R. Handt, et al. Effect of Epigallocatechin Gallate Supplementation on Inflammation, Iron Status, and Metabolomic Profiles in Women With Obesity: A Pilot Randomized Controlled Trial. Molecular Nutrition & Food Research 2026-08-01. DOI: 10.1002/mnfr.70575. 原著ライセンス:CC BY.