著者の所属・活動拠点の国は、ペルー、イタリアです。
掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
油だけでなく、種子全体を資源として見る
トウガラシやピーマンなどのトウガラシ属(カプシカム属)の果実は、乾燥や粉砕、ソースや香辛料の製造、色素や辛味成分の抽出などに加工されます。その過程で種子は分離され、副産物として扱われがちです。しかし種子には脂質、たんぱく質、食物繊維のほか、フェノール類、カロテノイド、辛味成分のカプサイシノイド、トコフェロール(ビタミンEの仲間)などが含まれています。
著者らによると、これまでの種子の利用は主に油の回収に偏っていました。研究も、油の抽出、個別成分の回収、特定の画分の分析といったテーマごとに分かれています。そのため、同じ原料から複数の成分を順番に取り出す方法については、十分に比較されていないといいます。そこで本論文は、複数の成分を段階的に回収して使い切る「カスケード型バイオリファイナリー」の考え方に立ち、高度な分離技術をどう組み合わせれば回収量、品質、活用の幅を最大化できるかを検討した総説です。
どのように文献を集めて整理したか
著者らはScopusとWeb of Scienceの二つの文献データベースを使いました。2022〜2026年に発表されたオープンアクセスの原著論文を対象に、トウガラシ属の種子、抽出・分離技術、価値ある製品への利用という三つの観点を組み合わせて検索しています。重複を除いた507件から、題名と要旨による選別、本文の確認を経て、最終的に82本の論文を分析対象としました。
文献の選別過程を透明にするため、PRISMA 2020という報告の枠組みを参考にしています。ただし著者らは、本研究を数値を統計的に統合するメタ分析としては設計していません。対象とした研究の間では、品種、処理条件、分析方法、報告の単位が大きく異なります。そのため数値を一つにまとめず、処理条件と結果の関係、各技術の利点と限界、工程を組み合わせる可能性を質的に比較しています。
種子の成分と、取り出しにくさの要因
整理された文献から、種子が多様な成分を含むことが示されています。九種233系統を調べた研究では、種子の油分は10.8〜35.9%と幅がありました。主要な脂肪酸のうち、平均76.0%を必須脂肪酸のリノール酸が占めていました。また、加工で廃棄されたピーマン類(Capsicum annuum)の種子では、たんぱく質18.30%、油11.04%、食物繊維60.96%と報告されています。著者らはこれらの結果から、油を搾った後の残りも、たんぱく質や繊維を回収できる資源として扱えると論じています。
抽出方法による違いも整理されています。圧搾(コールドプレス)の油と、超臨界二酸化炭素(高圧で液体と気体の中間の状態にした二酸化炭素)で抽出した油とでは、リノール酸の割合はほぼ同程度でした。このため著者らは、技術を油の収量や脂肪酸組成だけで評価せず、油を除いた後の残さからさらに成分を回収できるかという点も合わせて評価すべきだと指摘しています。たんぱく質については、超音波処理によって機能的な性質が変わるという報告が紹介されています。その分解物には試験管内で抗酸化活性が見られたとされています。一方、たんぱく質の機能は脂肪酸組成よりも加工の影響を受けやすく、処理を強めることには利点と負担の両面があると述べています。
微量成分にも注目しています。圧搾したパプリカ種子の油には、2シーズンにわたりγ-トコフェロールが100gあたり53.5〜57.4mg含まれていました。量は少なくても製品の品質を左右しうる成分であり、精製をしすぎるとこうした望ましい成分まで失われるおそれがあると著者らは指摘しています。フェノール類の抗酸化性は複数の測定法で評価されていますが、測定法ごとに見ている性質が異なるため、結果の比較は慎重に行う必要があるとしています。
成分を取り出しにくい理由として、種子の構造が挙げられています。ハバネロの種子では、セルロースを主体とする複合体が組成の43%以上を占めていました。セルロース分解酵素(セルラーゼ)を使った抽出では、60℃・150分の条件で回収量が73.5%増えました。一方、45℃・30分の条件では1.42%の増加にとどまりました。粒の大きさ、水分、乾燥や焙煎などの前処理も成分の回収や品質に影響するため、著者らは前処理を単なる準備工程ではなく、結果を左右する重要な要素として扱うべきだとしています。
抽出技術の比較から見えること
従来の溶媒抽出について、著者らは比較の基準として有用だと位置づけています。それは最も効率的で環境に優しいからではありません。溶媒の性質を変えることで、どの成分が溶け出しやすいかを調べられるからです。たとえば同じ溶媒系でも、緑のピーマン類の種子と赤いものの種子ではフェノール類の回収量が大きく異なりました。原料の性質がそろっていないと、技術同士を直接比較するのは難しいことが示されています。
溶媒を使わない方法としては機械的な圧搾が取り上げられています。四種のトウガラシ属の種子を圧搾した研究では、得られた油は100gあたり4.0〜5.4g、脂質の回収率は43.1〜45.1%でした。
この総説が示しているのは、トウガラシ類の種子残さを「油の原料」としてだけでなく、油、たんぱく質、繊維、微量の機能性成分を順番に取り出せる複合的な資源として捉える視点です。どの技術が優れているかは収量だけでは決まりません。原料のばらつき、成分の壊れやすさ、後に続く工程との組み合わせまで含めて評価する必要がある、というのが著者らの整理から読み取れる要点です。
原著論文の著者・所属:Rodríguez G(Instituto de Investigación Tecnológica Agroindustrial (IITA), Universidad Nacional del Santa, Av. Universitaria s/n, Nuevo Chimbote 02712, Ancash, Peru.)、Rodríguez-Yparraguirre AJ(Department of Agroindustry and Agronomy, Faculty of Engineering, Universidad Nacional del Santa, Chimbote 02712, Ancash, Peru.)、Rodríguez-Yparraguirre CD(Doctoral Program in Science and Engineering, Graduate School, Universidad Nacional de Trujillo, Trujillo 130101, La Libertad, Peru.)、Aguirre E(Instituto de Investigación Tecnológica Agroindustrial (IITA), Universidad Nacional del Santa, Av. Universitaria s/n, Nuevo Chimbote 02712, Ancash, Peru.)、López-Rodríguez WE(Instituto de Investigación Tecnológica Agroindustrial (IITA), Universidad Nacional del Santa, Av. Universitaria s/n, Nuevo Chimbote 02712, Ancash, Peru.)、Muñoz-Agreda JE(Instituto de Investigación Tecnológica Agroindustrial (IITA), Universidad Nacional del Santa, Av. Universitaria s/n, Nuevo Chimbote 02712, Ancash, Peru.)、Berru SQ(Faculty of Engineering, Universidad César Vallejo, Chimbote 02712, Ancash, Peru.)、Moreno-Rojo C(Department of Agroindustry and Agronomy, Faculty of Engineering, Universidad Nacional del Santa, Chimbote 02712, Ancash, Peru.)、Carbajal-Romero GP(Instituto de Investigación Tecnológica Agroindustrial (IITA), Universidad Nacional del Santa, Av. Universitaria s/n, Nuevo Chimbote 02712, Ancash, Peru.)、Arevalo-Oliva MF(Instituto de Investigación Tecnológica Agroindustrial (IITA), Universidad Nacional del Santa, Av. Universitaria s/n, Nuevo Chimbote 02712, Ancash, Peru.)、Muñoz-Saenz J(Servicio Nacional de Adiestramiento en Trabajo Industrial (SENATI), Independencia 15311, Lima, Peru.)、Hidalgo A(Departamento de Ciencias de la Alimentación, Medio Ambiente y Nutrición (DeFENS), Università degli Studi di Milano, Via Celoria 2, 20133 Milan, Italy.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rodríguez G, Rodríguez-Yparraguirre AJ, Rodríguez-Yparraguirre CD, et al. Advanced Separation Technologies for Cascade Biorefinery Valorization of <i>Capsicum</i> Seed Residues. Foods (Basel, Switzerland) 2026-10-17. DOI: 10.3390/foods15203699. 原著ライセンス:CC BY.