著者の所属・活動拠点の国は、ポーランドです。

掲載誌:Food Chemistry

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:腸に関わる有機酸をまとめて測る

短鎖脂肪酸は、炭素が1〜6個つながった小さな脂肪酸のなかまで、酢酸、プロピオン酸、酪酸などが含まれます。炭素の鎖が枝分かれした分岐鎖短鎖脂肪酸や、これらの材料となる乳酸、コハク酸、ピルビン酸と合わせて、腸内細菌が作り出す代謝物として腸の働きとの関わりが注目されています。著者らは序論で、こうした有機酸が漬物やキムチ、ザワークラウトのような発酵食品にも含まれていると説明しています。

これまで食品中の有機酸の分析には、主にガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィーが使われてきました。しかし著者らによれば、これらの小さな酸は水になじみやすく揮発しにくいため、前処理として化学的な変換が必要になったり、検出しにくかったりする課題がありました。そこで研究チームは、細い管の中で電気の力を使って物質を分ける「キャピラリー電気泳動」に注目しました。直鎖と分岐鎖の短鎖脂肪酸、およびその前駆体をまとめて測定できる方法を作り、その性能を確かめて、市販の発酵野菜ジュースに応用することを目的としました。

既存の手順を別の装置に移し、改良する

研究チームは、ある機器メーカーが公開している有機酸分析の手順を出発点にしました。ただし、その手順は別メーカーの装置向けでした。研究チームが使う装置にそのまま当てはめても、満足な結果は得られなかったと報告しています。対象の酸は紫外線をほとんど吸収しないため、検出には「間接検出」を用いています。これは、紫外線を吸収する成分を溶液に加えておき、分析対象が通過するときに吸収が減る様子を読み取る方式です。

最初に問題となったのは、測定信号のノイズが大きいことでした。研究チームは温度と電圧の組み合わせを調べ、かける電圧を−30 kVから−20 kVに下げ、管を収める部分の温度を20 °Cにしました。これでノイズが抑えられたと報告しています。次に、酪酸とイソ酪酸のように同じ原子の組み合わせで形だけが異なる酸は、分離が難しいという課題がありました。これについては、筒状の分子であるメチル-β-シクロデキストリンを1%加えることで分離が改善しました。著者らは、直鎖の酸と分岐した酸とでこの分子への取り込まれやすさが異なり、移動の速さに差が生じるためと考えています。

さらに、測定ごとの信号の大きさのばらつきが大きいという問題も見つかりました。その主な原因は、試薬の調製に使う水の質にあったといいます。研究室で精製した超純水を使ったときは、ばらつきの指標である変動係数の平均が11.9%でした。これを市販の高純度な分析用水に替えると、4.0%に改善しました。著者らは、水の質が結果を大きく左右する場合があることを示した点にも触れています。

性能の確認と発酵野菜ジュースへの応用

改良後の方法では、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、イソ酪酸、イソ吉草酸、イソカプロン酸、乳酸、コハク酸、ピルビン酸の12種類を、14分以内に互いに分離できたと報告されています。研究チームは国際的な指針(ICH Q2(R2))に沿って性能を確かめました。その結果、定量できる最低濃度は1ミリリットルあたり1.53〜5.76マイクログラムで、そこから100マイクログラムまでの範囲で濃度と信号が比例していました。繰り返し測定のばらつきは変動係数7.6%以下、真の値からのずれは7.5%以内でした。食品に含まれる塩化物や硝酸、リン酸などの成分が測定の妨げにならないことも確認されています。

次に、ポーランドの生産者による発酵野菜ジュース11種類を分析しました。対象は、ビーツ、ブロッコリー、キャベツ、ニンジン、カリフラワー、セロリ、根セロリ、キュウリ、トマトなどです。ジュースに含まれる他の成分が測定値に与える影響は80〜121%の範囲で、著者らは許容できる水準と判断しています。分析の結果、ギ酸、コハク酸、酢酸、乳酸、プロピオン酸、イソ酪酸、吉草酸の7種類が定量されました。どの酸がどれだけ含まれるかは、野菜の種類によって大きく異なっていました。

この研究が示すこと

この研究は、腸内細菌の代謝物として関心を集める短鎖脂肪酸や分岐鎖短鎖脂肪酸、その前駆体を、1回の短時間の分析でまとめて測定する方法を示しました。著者らは、これまで報告された方法と比べて、より幅広い種類の酸を分析時間を延ばさずに扱える点を強調しています。既存の分析法との比較評価でも、発酵食品に含まれる有機酸を日常的に調べる用途に適した方法であると結論づけています。

著者:Joanna Pluta(Jagiellonian University, Faculty of Chemistry, Department of Analytical Chemistry, Laboratory for Forensic Chemistry, Gronostajowa 2, 30-387 Kraków, Poland; Jagiellonian University, Doctoral School of Exact and Natural Sciences, prof. St. Łojasiewicza 11, 30-348 Kraków, Poland)、Aleksandra Bazan(Jagiellonian University, Faculty of Chemistry, Department of Analytical Chemistry, Laboratory for Forensic Chemistry, Gronostajowa 2, 30-387 Kraków, Poland)、Michał Woźniakiewicz(Jagiellonian University, Faculty of Chemistry, Department of Analytical Chemistry, Laboratory for Forensic Chemistry, Gronostajowa 2, 30-387 Kraków, Poland. Electronic address: [email protected])

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Joanna Pluta, Aleksandra Bazan, Michał Woźniakiewicz. Capillary electrophoresis with diode array detection for the determination of organic acids in fermented food samples. Food Chemistry 2026-10-08. DOI: 10.1016/j.foodchem.2026.151500. 原著ライセンス:CC BY.