チーズの味や品質は、熟成の過程で生まれるさまざまな有機酸によって左右されると考えられています。乳酸や酢酸といった有機酸は、発酵や熟成の進み具合を示す指標になり得るため、これらを正確に測定する技術は、チーズの品質管理や研究にとって重要な意味を持ちます。今回紹介する論文は、ブラジルの職人技(伝統的な手法)で作られるヤギ乳の「コアリョチーズ」を対象に、含まれる有機酸を同時に分析するための手法を検証したものです。
研究でわかったこと
この研究では、コアリョチーズに含まれる8種類の有機酸を同時に定量するため、イオン交換樹脂を用いた前処理とHPLC-DAD(高速液体クロマトグラフィー・ダイオードアレイ検出)という分析法を組み合わせた手法が、既存の方法をもとに調整・検証されました。乳のたんぱく質を多く含む複雑な試料であっても、イオン交換樹脂による前処理によって高い選択性が確保されたとされています。
検証の結果、この方法は直線性(決定係数R²が0.998を上回る水準)、精度(相対標準偏差が4.5%未満)、回収率(70%から107%の範囲)のいずれにおいても良好な性能を示したと報告されています。
さらにこの手法は、実際のチーズ分析にも応用されました。具体的には、熟成期間が1日・20日・40日・60日と異なるチーズ、生乳または低温殺菌乳から作られたチーズ、そして乳酸菌の一種であるLimosilactobacillus mucosae CNPC007を添加したものとしていないものを比較する形で、有機酸のプロファイル(構成パターン)が調べられました。その結果、乳酸が最も多く検出される代謝物であり、水分含量とは負の相関関係(一方が多いと他方が少なくなる傾向)が見られたことが示されています。また、酢酸についてはチーズの収率(できあがる量の割合)と負の相関があったとされています。論文では、これらの相関関係は、使用された自家培養株(土着の乳酸菌)の影響を受けた生化学的・製造技術的な変化を反映していると考察されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、有機酸を分析するための手法そのものの検証と、その手法を用いた品質評価の一例を示したものです。得られた相関関係は今回調べられたチーズや条件のもとで観察されたものであり、ヤギ乳チーズ全般や他の製法にそのまま当てはまるとは限りません。また、この研究結果が健康効果や安全性を保証するものではない点にも注意が必要です。一つの研究であり、結論が確定したものではないことを踏まえて読んでいただければと思います。
まとめ
本研究では、ヤギ乳の職人技コアリョチーズに含まれる有機酸を同時に測定できる分析手法が調整・検証され、良好な直線性・精度・回収率が確認されました。この手法を用いることで、熟成期間や乳の処理方法、乳酸菌添加の有無によって有機酸のプロファイルが変化する様子が観察され、乳酸と水分含量、酢酸と収率との間にそれぞれ負の相関があることが示されました。論文では、この手法が職人技チーズの品質管理や生化学的理解のための、実用的でコストパフォーマンスに優れたツールになり得るとされ、ヤギ乳乳製品の評価の可能性を広げるものと位置づけられています。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:職人技によるヤギ乳コアリョチーズ中の有機酸同時分析のためのイオン交換HPLC-DAD法の検証と適応(ブラジル食品技術ジャーナル・2026年07月)