著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。

掲載誌:World s Veterinary Journal

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

研究の目的:アヒル卵にもともといる乳酸菌を探す

アヒルの卵はインドネシアで重要な動物性たんぱく源です。加工していない新鮮な状態のほか、塩漬け卵などの加工品としても広く食べられています。一方で、微生物に汚染されやすい食品でもあります。

乳酸菌は、乳酸をつくって周囲を酸性にし、腐敗菌や病原菌が増えにくい環境をつくる細菌の仲間です。食品を自然な方法で長持ちさせる「バイオプリザベーション(生物的保存)」への利用が注目されています。乳製品や塩漬け卵などの加工品から乳酸菌を見つけた報告はあります。しかし、新鮮なアヒル卵の殻の内側、卵殻膜、中身といった部位ごとに調べた研究はほとんどありませんでした。

研究チームは、新鮮なアヒル卵にもともとすみついている乳酸菌を分離して、その性質を調べました。そのうえで、天然の保存剤として使える候補になるかを検討しました。

何をどう調べたか

研究チームは2024年、インドネシア・南スラウェシ州シドラップ県の4か所の農場で卵を集めました。内訳は、集約的な飼育を行う農場が2か所、粗放的な飼育を行う農場が2か所です。各農場から、産卵後3〜5時間以内の洗っていない卵を5個ずつ、計20個集めました。

卵は殻の内側、卵殻膜、中身に分け、乳酸菌が育ちやすい培地で培養しました。培地には炭酸カルシウムを加えてあります。菌が酸をつくると周りが透明になるため、酸をつくる菌を見分ける目印になります。

得られた菌が乳酸菌かどうかは、いくつかの方法で判定しました。顕微鏡で形を観察し、染色も行いました。染色には、細菌を大きく二つに分けるグラム染色や、耐久性の高い胞子をつくるかどうかの確認などが含まれます。あわせて、カタラーゼという酵素の有無や、糖を発酵させるときにガスが出るかどうかも調べました。

さらに、乳酸菌の培養液から菌体を取り除いた上澄み液を用意しました。これを寒天培地にあけた穴に入れ、大腸菌と黄色ブドウ球菌の増殖をどれだけ抑えるかを調べました。効果は、穴の周りにできる増殖阻止の輪の直径で測っています。上澄み液は、もとの酸性のままのものと、中性に調整したものの両方を試しました。抑制が酸によるものか、それ以外の抗菌物質によるものかを見分けるためです。

主な結果:7株の乳酸菌と、相手によって異なる抑制のしくみ

20個の卵から35の菌株が得られ、そのうち7株が乳酸菌と確認されました。この7株はいずれも、殻の内側または卵殻膜から得られたものでした。7株はすべてグラム陽性で、カタラーゼをもたず、胞子をつくりませんでした。また、糖からガスを出さずに主に乳酸をつくる「ホモ発酵型」でした。

形や性質の特徴から、7株は暫定的にラクトバチルス属(2株)とペディオコッカス属(5株)に分類されました。

抗菌試験では、酸性のままの上澄み液で、7株すべてが大腸菌と黄色ブドウ球菌の両方の増殖を抑えました。最も大きな効果を示したのは大腸菌に対する1株です。阻止の輪の直径は27.5mmで、この値には穴そのものの直径13mmが含まれています。

上澄み液を中性にすると、黄色ブドウ球菌への抑制はすべての株で見られなくなりました。研究チームは、黄色ブドウ球菌への抑制は乳酸などの有機酸によるものだったと解釈しています。

一方、大腸菌への抑制は、中性にしても一部の株で残りました。先ほどの株では25.5mmでした。著者らはこれを、酸以外の抗菌物質である「バクテリオシン様抑制物質」がつくられていることを示すものと考えています。ただし、その物質の正体や作用の範囲を確かめるには、さらなる精製と分析が必要だとしています。

この研究が示すこと

この研究は、新鮮なアヒル卵の殻や膜に、酸を盛んにつくる乳酸菌がもともとすんでいることを示しました。著者らは、アヒル卵が食品の自然な保存に役立つ乳酸菌の供給源になりうると結論づけています。

ただし、今回の分類は菌の形や性質にもとづく暫定的なものです。遺伝子による種レベルの確認は行われておらず、著者ら自身もこれを研究の限界として挙げています。この研究は、身近な食材の中に、食品の安全を支える性質をもつ微生物が潜んでいることを示した基礎的な報告といえます。

原著論文の著者・所属:Muhammad Irham(Master's Program in Animal Science and Technology, Faculty of Animal Science, Hasanuddin University, Makassar, Indonesia)、Wahniyathi Hatta(Department of Animal Production, Faculty of Animal Science, Hasanuddin University, Makassar, Indonesia)、Fatma Maruddin(Department of Animal Production, Faculty of Animal Science, Hasanuddin University, Makassar, Indonesia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Muhammad Irham, Wahniyathi Hatta, Fatma Maruddin. Isolation, Phenotypic Characterization, and Functional Potential of Indigenous Lactic Acid Bacteria from Fresh Duck Eggs. World s Veterinary Journal 2026-09-25. DOI: 10.54203/scil.2026.wvj79. 原著ライセンス:CC BY.