著者の所属・活動拠点の国は、アメリカ、中国です。
掲載誌:Food Bioscience
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的
プロバイオティクスとは、体に良い働きが期待される生きた菌のことです。口から摂ると胃酸や消化酵素、胆汁にさらされるため、腸に届く前に多くが死んでしまうことが知られています。この弱点を補う方法として、菌を微小なカプセルに閉じ込める「マイクロカプセル化」の研究が進んできました。また、腸に届いた菌が腸の粘膜表面に付着することは、腸内にとどまる時間を延ばすうえで重要な性質と考えられています。
しかし著者らによると、次の三つを、実際の体内に近い条件でまとめて直接評価する方法は限られていました。カプセル化した菌が消化を生き延びるか、目的の腸の部位で放出されるか、その後に粘膜へ付着できるかです。そこで研究チームは、乳酸菌の一種であるラクトバチルス・ラムノーサスGG(LRGG)を対象に、豚の腸粘膜組織に試料を流しかける簡略化した評価モデルをつくりました。そして、消化の前後でカプセルの保護・放出・付着の働きを調べることを目的としました。
何を調べたか
研究チームは、乳化技術を使った3種類のマイクロカプセルを比較しました。1つ目は、大豆タンパク質を壁材とし、水の中に油、さらにその油の中に菌を含む水を包み込んだ二重乳化型(MD)です。2つ目は、大豆タンパク質と海藻由来のアルギン酸ナトリウムを使い、カルシウムで外側を固めてゲル化した型(ME)です。3つ目は、この二つを組み合わせた型(MDE)です。
消化の模擬では、試料を人工的な胃液(pH2.5)に2時間浸した後、人工的な腸液(pH8.1)に4時間浸しました。この間に生き残った菌の数を調べています。並行して、消化前、胃の段階の後、腸の段階の後のそれぞれの試料を、豚の回腸(小腸の末端部分)から切り出した粘膜片に流しかけました。そして、粘膜にとどまった生きた菌の量を測りました。粘膜は、食肉処理の副産物として3頭の豚から得たものです。流す条件は腸の動きを再現するためのものではありません。比較のための簡便な選別手法として設定されています。
さらに研究チームは、二種類の顕微鏡を用いて、カプセルの形の変化や付着の様子も確かめました。一つは、蛍光色素で菌・タンパク質・油を色分けして観察する共焦点レーザー顕微鏡です。もう一つは、粘膜表面を拡大して見る走査型電子顕微鏡です。
主な結果
カプセルに入れていない菌は、人工胃液に入れてから1時間以内に、検出できる生菌がいなくなりました。一方、3種類のカプセルはいずれも菌の生存を高めました。胃の段階の終わりの生菌数は、1グラムあたりの対数値で、外側をゲル化したMEが7.26、MDEが7.14でした。大豆タンパク質だけのMD(4.22)より有意に多い結果です。対数値が1違うと、菌数は10倍違います。腸の段階では、いずれのカプセルでも生菌数は徐々に減少しました。
粘膜への付着でも同じ傾向が見られました。消化前に粘膜1平方センチメートルあたりにとどまった生菌の量(対数値)は、MEが7.82、MDEが7.43、MDが6.81でした。胃の段階の後では、MEが6.02、MDEが6.11を保ったのに対し、MDは2.39まで大きく下がりました。消化の最後まで終えた時点でも、MDE(3.21)とME(2.90)はMD(2.06)を有意に上回っています。カプセルに入れていない菌は、胃の段階で付着した生菌が検出されなくなりました。
著者らは、ゲル化したカプセルが優れていた理由を次のように考察しています。アルギン酸のゲルと大豆タンパク質が酸から菌を守ったこと、そしてアルギン酸自体が粘膜に付着しやすい性質を持つことが関わっている可能性があるとしています。
顕微鏡観察では、MDの乳化構造は胃の段階で部分的に崩れ、腸の段階ではタンパク質の信号が消えました。一方、MEとMDEは胃の段階でもはっきりした形を保ち、粘膜の上にとどまっていました。腸の段階でアルカリ性の腸液にさらされると完全に溶け、放出された少数の菌が粘膜に付着している様子が観察されました。
著者らはいくつかの注意点も示しています。MDにはアルギン酸が含まれていないため、カプセルの構造の違いと壁材の違いを切り分けられていません。また、流した後に回収されなかった菌を「付着した菌」とみなしているため、測定値は見かけ上の保持量として解釈すべきだとしています。電子顕微鏡では、生菌が検出されなくなった後でも棒状の菌体が粘膜上に見えました。ただし、この方法では生きた菌と死んだ菌を区別できません。
研究から見えること
この研究は、豚の腸組織モデルを使って、三つの過程を一つの実験の流れの中で評価できることを示しました。消化による菌の生存、カプセルの崩壊と菌の放出、その後の粘膜への付着です。外側をゲル化したカプセルでは、胃では形を保って菌を守りながら粘膜にとどまり、腸の条件で溶けて菌を放出するという振る舞いが見られました。著者らは、粘膜上の生菌量と付着の指標という二つの数値指標を顕微鏡観察と組み合わせることで、カプセルの種類ごとの届け方の違いを比較できたとまとめています。
原著論文の著者・所属:Toshifumi Udo(Department of Food Science and Technology, The University of Georgia, Athens, GA, 30602, USA; Department of Industrial and Systems Engineering, University of Washington, Seattle, WA, 98195, USA)、Gopinath Mummaleti(Department of Food Science and Technology, The University of Georgia, Athens, GA, 30602, USA)、Jinru Chen(Department of Food Science and Technology, The University of Georgia, Griffin, GA, 30223, USA)、Rakesh K. Singh(Department of Food Science and Technology, The University of Georgia, Athens, GA, 30602, USA)、Yang Jiao(College of Food Science and Technology, Shanghai Ocean University, Shanghai, 201306, China)、Fanbin Kong(Department of Food Science and Technology, The University of Georgia, Athens, GA, 30602, USA)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Toshifumi Udo, Gopinath Mummaleti, Jinru Chen, et al. Ex vivo evaluation of digestion-triggered release and mucoadhesion of microencapsulated Lactobacillus rhamnosus GG using a porcine mucosal model. Food Bioscience 2026-08-14. DOI: 10.1016/j.fbio.2026.109751. 原著ライセンス:CC BY.