著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。

掲載誌:Molecules

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

膠芽腫(こうがしゅ)は、大人の脳に最初から発生する腫瘍の中で最も多く、最も悪性度が高いタイプです。増殖が速く、周りの脳組織へ広がっていくため、手術で取り切ることが難しく、手術の後に抗がん剤(主にテモゾロミド)と放射線を組み合わせた治療が行われます。それでも再発が多く、論文によると米国で5年生存する患者は5〜10%にとどまります。

こうした背景から、研究チームは抗がん作用が報告されてきた植物由来成分に注目しました。対象は、日本ではゴーヤやニガウリとして知られるツルレイシ(学名Momordica charantia)です。これまでの細胞実験などで、ゴーヤの抽出物には乳がんや胃がん、大腸がん、肺がんの細胞に対する作用が報告されていましたが、細胞の中で遺伝子全体にどのような変化が起きているのかは、よく分かっていませんでした。

そこで著者らは、ゴーヤ果実に含まれる成分を調べたうえで、ゴーヤの抽出物を膠芽腫の培養細胞(U87 MGという研究用の細胞株)に加え、細胞の生存と遺伝子の働きがどう変わるかを網羅的に調べました。

何を調べたか

研究チームはまず、市場で購入したゴーヤの生の果実組織を、ガスクロマトグラフィー質量分析という手法で調べ、含まれる代謝物(生物の中で作られたり使われたりする小さな分子)を洗い出しました。

次に、乾燥させたゴーヤの粉末を70%エタノールで抽出し、得られた抽出物を膠芽腫細胞に濃度を変えて加え、24時間、48時間、72時間後に生きている細胞の割合を測定しました。比較のため、抽出物を溶かすのに使ったエタノールだけを同じ濃度で加えた細胞も用意しています。

さらに、抽出物を加えて24時間たった細胞と、加えていない対照の細胞からRNAを取り出し、どの遺伝子がどれだけ使われているかを一度に測るRNAシーケンシングという方法で比較しました。変化した遺伝子が、細胞内のどのような働きや仕組み(経路)に関わるかもデータベースを使って分析しています。

主な結果

成分分析では、ゴーヤ果実から107種類の代謝物が見つかりました。糖類、アミノ酸、有機酸、脂肪酸、ステロール、ビタミンなど多様な成分が含まれており、その中にはスチグマステロールやβ-シトステロール、カフェ酸、フェルラ酸、α-リノレン酸、アスコルビン酸(ビタミンC)など、ほかの研究でがん細胞の増殖を抑える作用などが報告されてきたものも含まれていました。

細胞実験では、抽出物の濃度が高いほど、また加えてからの時間が長いほど、生きている膠芽腫細胞の割合が下がりました。24時間では1ミリリットルあたり280〜560マイクログラムの濃度で目立った影響はありませんでしたが、48時間では560マイクログラムで、72時間では420マイクログラムでも生存率の低下が見られました。細胞の半数の生存を抑える濃度は1ミリリットルあたり659マイクログラムと算出され、この濃度が遺伝子の解析に使われました。

遺伝子の解析では、抽出物を加えた細胞で908個の遺伝子の働きがはっきり変化しており、380個が増え、528個が減っていました。働きが強まった遺伝子には、DNAの傷や酸化ストレスに反応して細胞の増殖にブレーキをかけるp53という仕組みや、細胞の自死(アポトーシス)、細胞が分裂をやめた状態になる細胞老化、ストレスへの反応に関わるものが多く含まれていました。

一方で働きが弱まった遺伝子には、炎症を伝えるサイトカインという物質のやり取り、膠芽腫でしばしば活発になっているPI3K-AKTという増殖のシグナル、細胞の周りの足場となる構造の作り替え、自然免疫に関わる仕組み、脂肪酸の代謝に関わるものが含まれていました。鉄が関わる細胞死(フェロトーシス)に関連する遺伝子の上昇も見られましたが、著者らは、これだけでフェロトーシスが起きたとは確認できず、強い酸化ストレスを示すものだと説明しています。

この研究が示すこと

著者らは、ゴーヤ抽出物は一つの仕組みだけに作用するのではなく、ストレス反応や細胞死に関わる仕組みを強め、炎症や増殖のシグナルを弱めるといった複数の変化を同時に引き起こすことで、膠芽腫細胞の増殖を抑えていると考えられると報告しています。

ただし、この結果は培養細胞での実験に基づくもので、仕組みの推定は主に遺伝子の働きの変化と、そのデータの解析から導かれています。論文でも、遺伝子の読み取り量の変化がそのままタンパク質の量や働きの変化に結びつくとは限らないことが限界として挙げられています。また、成分分析は生の果実組織で行われたもので、抽出物のどの成分が細胞への作用に関わっているのかは、まだ特定されていません。

この研究は、ゴーヤ抽出物が膠芽腫細胞に対してどのような遺伝子の変化をもたらすのかを、細胞全体の規模で描き出した点に意味があります。ゴーヤに由来する成分が脳腫瘍細胞にどう働きかけるのかを理解するための、分子レベルの手がかりを示した報告といえます。

原著論文の著者・所属:Chinreddy Subramanyam Reddy(Department of Biology, Gus R. Douglass Institute, West Virginia State University, Institute, WV 25112, USA)、Dilip Nagisetty(Department of Biology, Gus R. Douglass Institute, West Virginia State University, Institute, WV 25112, USA)、Aishwarya Gaikwad(Department of Biology, Gus R. Douglass Institute, West Virginia State University, Institute, WV 25112, USA)、Nicole Tendayi Mashozhera(Department of Biology, Gus R. Douglass Institute, West Virginia State University, Institute, WV 25112, USA)、Virender Kumar(Department of Biology, Gus R. Douglass Institute, West Virginia State University, Institute, WV 25112, USA)、Gwonjin Lee(Department of Biology, Gus R. Douglass Institute, West Virginia State University, Institute, WV 25112, USA)、Robert T. Harris(Department of Biology, Gus R. Douglass Institute, West Virginia State University, Institute, WV 25112, USA)、Gerald R. Hankins(Department of Biology, Gus R. Douglass Institute, West Virginia State University, Institute, WV 25112, USA)、Umesh K. Reddy(Department of Biology, Gus R. Douglass Institute, West Virginia State University, Institute, WV 25112, USA)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Chinreddy Subramanyam Reddy, Dilip Nagisetty, Aishwarya Gaikwad, et al. Exploring the Phytochemical Composition of Bitter Melon Fruit and Molecular Responses to Its Extract in U87 MG Glioblastoma Cells. Molecules 2026-10-16. DOI: 10.3390/molecules31203714. 原著ライセンス:CC BY.