著者の所属・活動拠点の国は、ラトビアです。

掲載誌:Gels

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

捨てられてきた搾りかすを生かす試み

ブラックカラント(カシス、学名Ribes nigrum)は、ビタミンCや、植物に含まれる抗酸化成分の一群であるポリフェノールを多く含む果実です。ジュースやジャムに加工されることが多く、その際に出る搾りかすはこれまで産業廃棄物として捨てられることが多くありました。研究チームは、この搾りかすを有用成分の供給源として活用することに着目しました。

研究の目的は、搾りかすのエタノール抽出物を含むハイドロゲルを開発し、その性質を調べることです。ハイドロゲルとは、水を多く含んだ立体的な網目状の高分子材料で、肌の潤いを保ちながら有効成分を局所に届ける外用剤として注目されています。著者らは、ゲルを作る天然高分子であるアルギン酸とイヌリンを組み合わせた基材を用いました。論文によれば、カシスの搾りかす抽出物をこのアルギン酸–イヌリン系の外用ハイドロゲルへ直接組み込んだ報告は、著者らの知る限りこれが初めてです。

搾りかす抽出物は果実やジュースよりも成分が豊富

研究チームはまず、搾りかす、果実全体、ジュースからそれぞれエタノール抽出物を作り、含まれる成分を比べました。渋みのもとになるポリフェノールの一種であるタンニンの含有率は、搾りかす抽出物が21.8%と最も高く、果実抽出物は4.6%、ジュース抽出物は9.3%でした。著者らは、タンニンが果肉よりも皮や種に多く蓄積するため、搾りかすに豊富に残ると説明しています。

総ポリフェノール量も搾りかす抽出物が最も多く、乾燥抽出物1グラムあたり没食子酸換算で71.0ミリグラムでした。成分を分離して調べる分析(HPLC)では、3種類の抽出物に含まれるポリフェノールの種類はほぼ同じで、主な違いは量にありました。果実の色素であるアントシアニンは、ピークの強さからみて搾りかす抽出物で最も多く、ジュース抽出物で最も少ないと報告されています。アントシアニンのうち、デルフィニジン-3-O-グルコシドとシアニジン-3-O-グルコシドが確認されました。

ハイドロゲルの性質と成分の放出

次に著者らは、アルギン酸とイヌリンの混合物に搾りかす抽出物を加え、表面に塩化カルシウム溶液を吹き付けて固めることでハイドロゲルを作りました。抽出物がゲル内にとどまった割合(封入効率)は91.6%でした。ゲルを塩化カルシウム溶液に浸す一般的な方法ではなく吹き付けを用いたことで、抽出物が溶液中へ逃げ出しにくくなったと著者らは説明しています。赤外分光分析の結果からは、抽出物を加えてもゲルの網目構造は大きく損なわれていないと考えられました。

健康な皮膚に近い弱酸性(pH5.5)の液体中、37℃でポリフェノールの放出を調べたところ、最初の1分以内に約30%が放出され、24時間以内に80%に達し、その後48時間まで増えませんでした。抽出物を加えたゲルは、加えないゲルに比べて水を吸ってふくらむ性質(膨潤)が高まり、変形後に構造が回復する性質が改善し、粘度は低下したと報告されています。一方、切断したゲルの断面を合わせて自然につながるかを目で見て確かめる簡易な試験では、抽出物の有無にかかわらず、明確な自己修復は確認されませんでした。

抗菌性については、抽出物そのものは、増殖を抑える最小濃度で比べると大腸菌(6.3mg/mL)より黄色ブドウ球菌(3.1mg/mL)に対して強く働きました。ところがハイドロゲルにした場合、大腸菌の菌数は抽出物なしのゲルや対照より少なかった(それぞれ519×10⁶、1310×10⁶、1560×10⁶ CFU)のに対し、黄色ブドウ球菌では抽出物入りのゲルの方が菌数が多い結果(94×10⁶対56×10⁶ CFU)となりました。著者らは、抽出物そのものの結果をゲルにそのまま当てはめることはできず、この試験だけではゲルの抗菌効果について確定的な結論は出せないとしています。

研究が示すこと

この研究は、食品加工で出るカシスの搾りかすが、果実やジュースよりもタンニンやポリフェノールを多く含む抽出物の原料になり得ること、そしてその抽出物を安定したハイドロゲルに組み込み、徐々に放出させられることを示しました。著者らはこれを、食品廃棄物を医療用素材の候補へとつなげる循環型の取り組みの一例と位置づけています。

ただし、放出試験は実験室内の単純な条件で行われたもので、実際の皮膚や傷の複雑な環境を再現していません。著者らは、この結果から皮膚への浸透や治療効果を直接予測することはできず、ゲルとしての抗菌性も限られていたと述べています。安全性や傷の治癒への効果はまだ調べられておらず、今回の成果は搾りかす由来の成分を外用材料に生かすための基礎的な一歩といえます。

原著論文の著者・所属:Diāna Brūvere(Department of Applied Pharmacy, Faculty of Pharmacy, Rīga Stradiņš University, LV-1007 Riga, Latvia)、Ance Bārzdiņa(Baltic Biomaterials Centre of Excellence, Riga Technical University, P. Valdena Str. 3, LV-1048 Riga, Latvia; Department of Applied Pharmacy, Faculty of Pharmacy, Rīga Stradiņš University, LV-1007 Riga, Latvia)、Renārs Broks(Department of Biology and Microbiology, Rīga Stradiņš University, LV-1007 Riga, Latvia)、Rudīte Koka(Department of Biology and Microbiology, Rīga Stradiņš University, LV-1007 Riga, Latvia)、Renāte Teterovska(Baltic Biomaterials Centre of Excellence, Riga Technical University, P. Valdena Str. 3, LV-1048 Riga, Latvia; Department of Applied Pharmacy, Faculty of Pharmacy, Rīga Stradiņš University, LV-1007 Riga, Latvia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Diāna Brūvere, Ance Bārzdiņa, Renārs Broks, et al. Blackcurrant (R. nigrum) Pomace Extract-Loaded Hydrogels: A Sustainable Alginate–Inulin Matrix for Polyphenol Delivery. Gels 2026-10-15. DOI: 10.3390/gels12100929. 原著ライセンス:CC BY.