著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:International Journal of Molecular Sciences

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜメロンの苦味を調べるのか

メロンは甘さと香りで知られる果物です。しかし遺伝的な要因や環境、栽培条件によっては果実に苦味が残り、品質や商品価値が大きく下がることがあります。研究チームによると、ウリ科植物の苦味は主に「ククルビタシン」と呼ばれる化合物によるものです。メロンでは、そのうちククルビタシンB(CuB)が中心的な苦味成分です。

ククルビタシンBを作る遺伝子群や、その働きを調節する遺伝子の候補は、これまでにも報告されてきました。それでも、メロンの果実の苦味を左右する遺伝的な違いがどこにあるのか、どの遺伝子が原因なのかはまだ分かっていません。小さなRNA分子による調節がどう関わるのかも同様で、著者らはこれらが体系的に調べられていないと指摘しています。この研究は、果実の苦味の遺伝的な仕組みと、それを取り巻く調節のしくみを明らかにすることを目的としています。

苦い系統と苦くない系統を交配して原因の場所を絞り込む

研究チームは、皮の薄いメロンの2系統を使いました。A54は葉も果実も苦い系統、B15は葉は苦いものの果実は苦くない系統です。苦味は、受粉3日後の若い果実を複数の評価者が試食し、「苦い」か「苦くない」かで判定しました。

両者を交配した雑種第1代(F1)20株は、すべて苦い若い果実をつけました。その次の世代(F2)2653株では、苦い果実の株が1995株、苦くない果実の株が658株で、3対1の比率に合っていました。論文は、果実の苦味がただ一つの遺伝子座(染色体上の特定の場所)によって決まり、苦味が苦くない性質に対して優性であることを示す結果だと報告しています。

次に研究チームは、苦い株と苦くない株のDNAをそれぞれまとめて比較する手法(BSA-seq)を用いました。さらに多数の株を使った詳細な遺伝子地図づくりを組み合わせ、原因となる場所を第9染色体上の約13万3000塩基(133kb)の範囲まで絞り込みました。この範囲の候補遺伝子のうち、苦味成分の合成を調節するとされる遺伝子CmBr(MELO3C005610)は、若い果実での発現量がA54ではB15の25.5倍でした。著者らはCmBrを最も有力な候補遺伝子と位置づけています。ただし論文自身は、CmBrはあくまで染色体上の位置から見た有力候補であり、原因遺伝子であることを証明するには今後の機能検証が必要だとしています。

苦い果実では苦味成分を作る遺伝子がまとめて活発に

研究チームはまず、F1にB15を7世代続けて交配し、さらに4世代自家受粉させました。こうして、B15とほぼ同じ遺伝的背景を持ちながら果実も苦くなった系統(準同質遺伝子系統、B15 NIL)を作りました。そのうえで、この系統と元のB15の若い果実について、どの遺伝子がどれだけ働いているかを網羅的に比べています。

その結果、絞り込んだ範囲にある候補遺伝子そのものには、この解析で有意な発現差は見られませんでした。一方で、苦いB15 NILの果実では、ククルビタシンBを作る経路に関わる12個の遺伝子の発現が有意に高くなっていました。この中には、苦味成分の骨格を作る酵素の遺伝子CmBiや、シトクロムP450と呼ばれる酸化酵素の遺伝子が複数含まれます。CmBrに発現差が見られなかった理由について、著者らはいくつかの可能性を挙げています。そのひとつが、ククルビタシンBの蓄積やCmBrの発現が胎座などの特定部位に限られているかもしれないという点です。もしそうなら、果実全体をまとめて分析したことで、そうした部位ごとの差が見えにくくなった可能性があるとしています。

小さなRNAによる調節の候補

遺伝子の働きは、マイクロRNA(miRNA)という短いRNAによっても調節されます。miRNAは、特定の遺伝子から作られたRNAを切断するなどして、その働きを弱めることがあります。研究チームは、小さなRNAの網羅的な解読と、切断されたRNAの断片を調べる「デグラドーム解析」を組み合わせました。これにより、どのmiRNAがどの遺伝子を標的にしているかを探っています。

苦いB15 NILと苦くないB15の間では、13種類のmiRNAの量に差がありました。そのうち8種類はB15 NILで多く、5種類は少なくなっていました。また、苦味成分を作る12遺伝子のうち8遺伝子は、17種類のmiRNAの標的になりうることが示されました。特に、あるシトクロムP450遺伝子は7種類のmiRNAの標的となっていました。著者らは、苦味成分の合成経路が複雑な調節を受けている可能性を示すとしています。ただし、これらの標的関係は慎重に解釈すべきで、どれが実際に生物学的な意味を持つかは今後の機能検証で確かめる必要があるとも述べています。

一方で、量に差があったmiRNAと、苦味成分の遺伝子を標的とするmiRNAとの間には重なりが見られませんでした。このため論文は、この集団で苦味の有無の違いを主に生み出しているのはmiRNAではない可能性があるとしています。

研究が示すこと

この研究により、メロンの果実の苦味は、遺伝のうえでは一つの優性遺伝子座で決まることが確かめられました。さらに、その場所が第9染色体上の狭い範囲に絞り込まれ、最も有力な候補遺伝子としてCmBrが示されました。苦い果実では苦味成分を作る多くの遺伝子が協調して活発になっており、miRNAについても転写後の調節に関わる候補となる組み合わせが得られました。著者らは、こうした成果がククルビタシンの合成の理解を深め、苦味を抑えたメロンの品種改良に向けた候補を示すものだとまとめています。

原著論文の著者・所属:Ligong Liu(Key Laboratory of Vegetable Biobreeding, Beijing Vegetable Research Center, Beijing Academy of Agriculture and Forestry Sciences, Beijing 100097, China)、Guoliang Yuan(Key Laboratory of Vegetable Biobreeding, Beijing Vegetable Research Center, Beijing Academy of Agriculture and Forestry Sciences, Beijing 100097, China)、Mengqing Lu(College of Horticulture Science and Technology, Hebei Normal University of Science and Technology, Qinhuangdao 066000, China; Key Laboratory of Vegetable Biobreeding, Beijing Vegetable Research Center, Beijing Academy of Agriculture and Forestry Sciences, Beijing 100097, China)、Weiqi Han(College of Horticulture Science and Technology, Hebei Normal University of Science and Technology, Qinhuangdao 066000, China; Key Laboratory of Vegetable Biobreeding, Beijing Vegetable Research Center, Beijing Academy of Agriculture and Forestry Sciences, Beijing 100097, China)、Haijun Zhang(Key Laboratory of Vegetable Biobreeding, Beijing Vegetable Research Center, Beijing Academy of Agriculture and Forestry Sciences, Beijing 100097, China; School of Life Science, Huaibei Normal University, Huaibei 235000, China)、Jianshe Wang(Key Laboratory of Vegetable Biobreeding, Beijing Vegetable Research Center, Beijing Academy of Agriculture and Forestry Sciences, Beijing 100097, China)、Huijun Zhang(Key Laboratory of Vegetable Biobreeding, Beijing Vegetable Research Center, Beijing Academy of Agriculture and Forestry Sciences, Beijing 100097, China; School of Life Science, Huaibei Normal University, Huaibei 235000, China)、Congcong Li(Biotechnology Research Institute, Chinese Academy of Agricultural Sciences, Beijing 100081, China)、Jian Ma(Key Laboratory of Vegetable Biobreeding, Beijing Vegetable Research Center, Beijing Academy of Agriculture and Forestry Sciences, Beijing 100097, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ligong Liu, Guoliang Yuan, Mengqing Lu, et al. Integrated Genetic Mapping, Transcriptomic, and Small RNA Analysis of Fruit Bitterness in Melon. International Journal of Molecular Sciences 2026-10-15. DOI: 10.3390/ijms27209141. 原著ライセンス:CC BY.