著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:International Journal of Molecular Sciences

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

メラトニンは、アミノ酸の一種トリプトファンから作られる生理活性物質です。脳の松果体のほか、消化管、肝臓、乳腺などでも作られます。合成の途中では、AANATと呼ばれる酵素が作られる速さを左右する重要な段階を担っています。AANATの働きは夜に高まり、光の影響を受けやすいことが知られています。

乳にもメラトニンが含まれており、夜間や暗い条件で搾った乳ほど多い傾向が報告されてきました。乳牛やヤギでは、メラトニン合成に関わる遺伝子の個体差と、乳中メラトニン量との関連を調べた研究があります。一方、中国南部で乳用・役用の家畜として重要な水牛については、乳中メラトニンのばらつきと遺伝子の関係を体系的に調べた研究がありませんでした。

そこで研究チームは、水牛の乳に含まれるメラトニンの量が品種や搾乳条件によってどう違うかを調べました。あわせて、AANAT遺伝子の領域にある塩基配列の個人差(SNP)がメラトニン量と関連するかを検討しました。

何をどのように調べたか

研究チームは2025年5月、中国・広西チワン族自治区の水牛飼育場で125頭から1頭1検体ずつ乳を採取しました。水牛はすべて同じ飼料と管理条件で飼われていました。搾乳は通常の作業に合わせて午前4時30分から7時30分の間に行われ、当日の日の出は午前6時8分でした。乳は光を遮る容器に入れて保存し、液体クロマトグラフィー質量分析法という高感度の分析法でメラトニン量を測定しました。

品種、搾乳時刻、泌乳期(出産後の乳を出している期間のどの段階か)、産次(何回目の出産か)の4つの要因を統計モデルに同時に組み込み、それぞれとメラトニン量の関連を分析しました。さらに全ゲノム配列のデータを使い、集団の遺伝的な構成を確認しました。そのうえで、AANAT遺伝子の領域にあるSNPとメラトニン量の関連を、上記の要因を考慮しながら調べました。最後に、新たに集めた56頭の乳で結果を確かめました。

主な結果

乳中メラトニン量には大きな個体差があり、1ミリリットルあたり0.80〜132.67ピコグラムの幅がありました。100ピコグラムを超えたのは全体の8.8%でした。著者らはこの結果から、もともとメラトニンを多く含む乳を出す個体が集団内に存在すると述べています。

要因別に見ると、品種、搾乳時刻、泌乳期はメラトニン量と有意に関連していましたが、産次では差が見られませんでした。品種では、マーラ種と交雑種の乳が、ニリ・ラビ種と地中海種より多く含んでいました。搾乳時刻では午前4時30分〜5時30分の乳が最も多く、それより後の2つの時間帯を有意に上回りました。後の2つの時間帯の間には有意な差がありませんでした。泌乳期では、出産後1〜3か月の乳が7か月を超えた時期より多く含んでいました。

遺伝子の分析では、AANAT遺伝子の領域から8つのSNPが見つかりました。このうち2つがメラトニン量と有意に関連していました。2つはいずれもイントロン(たんぱく質の設計情報に直接は使われない区間)にあり、常にセットで受け継がれる関係にありました。そのため、同じ一つの信号を示していると考えられます。

この2つのSNPについて、片方の型を2つ持つ個体(GG型またはCC型)の乳には平均57.98ピコグラムのメラトニンが含まれていました。両方の型を1つずつ持つ個体(GA型またはCT型)の39.11ピコグラムより有意に多い値です。ただし、もう一方の型を2つ持つ個体との間には有意な差がありませんでした。56頭を使った確認でも同じ傾向が見られ、前者が72.87ピコグラム、後者が50.24ピコグラムでした。

研究から分かること

この研究は、水牛の乳に含まれるメラトニンの量が、搾乳時刻や泌乳期、品種によって異なることを示しました。さらに、AANAT遺伝子の個体差とも関連していることを報告しています。著者らは、早朝の暗い時間帯と泌乳初期が、メラトニンの多い乳を得るうえで重要な時期になりうると述べています。

ただし、見つかったのはあくまで遺伝子の型とメラトニン量の「関連」です。これらのSNPがどのような仕組みでメラトニン量に関わるのかは、この研究では解明されていません。著者らも仕組みの解明は今後の課題だとしています。それでも本研究は、水牛の乳に含まれるメラトニンの個体差に遺伝的な要因が関わっている可能性を示す手がかりとなっています。

原著論文の著者・所属:Songyuan You(Guangxi Zhuang Autonomous Region Buffalo Milk Quality and Safety Control Technology Engineering Research Center, Guangxi Buffalo Research Institute, Nanning 530001, China)、Yiheng Fu(Guangxi Key Laboratory of Animal Reproduction, Breeding and Disease Control, College of Animal Science and Technology, Guangxi University, Nanning 530004, China)、Yanghua Li(Guangxi Zhuang Autonomus Region Center for Analysis and Test Research, Nanning 530022, China)、Jiaqi Jiang(Guangxi Zhuang Autonomous Region Buffalo Milk Quality and Safety Control Technology Engineering Research Center, Guangxi Buffalo Research Institute, Nanning 530001, China)、Eng Huan Hau(Guangxi Zhuang Autonomous Region Buffalo Milk Quality and Safety Control Technology Engineering Research Center, Guangxi Buffalo Research Institute, Nanning 530001, China)、Xingqi Wei(Guangxi Key Laboratory of Animal Reproduction, Breeding and Disease Control, College of Animal Science and Technology, Guangxi University, Nanning 530004, China)、Zhixiang Long(Guangxi Zhuang Autonomus Region Center for Analysis and Test Research, Nanning 530022, China)、Qingkun Zeng(Guangxi Zhuang Autonomous Region Buffalo Milk Quality and Safety Control Technology Engineering Research Center, Guangxi Buffalo Research Institute, Nanning 530001, China)、Qingyou Liu(College of Animal Science, South China Agricultural University, Guangzhou 510640, China)、Ling Li(Guangxi Zhuang Autonomous Region Buffalo Milk Quality and Safety Control Technology Engineering Research Center, Guangxi Buffalo Research Institute, Nanning 530001, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Songyuan You, Yiheng Fu, Yanghua Li, et al. Analysis of Melatonin Secretion Patterns in Buffalo Milk and Its Association with AANAT Polymorphisms. International Journal of Molecular Sciences 2026-10-16. DOI: 10.3390/ijms27209178. 原著ライセンス:CC BY.