著者の所属・活動拠点の国は、ロシアです。

掲載誌:Molecules

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:飼料のカビ毒と「炭」の吸着力

カビの一部は、マイコトキシン(カビ毒)と呼ばれる有害物質をつくります。家畜の飼料に混入すると、飼料の安全性や動物の健康、生産性に影響し、畜産物を通じて人の健康や経済、国際取引にも関わる問題になります。著者らによると、予防策はいくつかあるものの、必ずしも十分な効果が得られるわけではありません。本研究が対象としたのは、こうしたカビ毒の一つであるゼアラレノン(ZEN)です。

注目したのは、植物などを酸素の少ない状態で加熱分解(熱分解)してつくる炭状の素材「バイオ炭」です。著者らは、ZENの吸着を専門に調べたバイオ炭の研究はまだ少ないと指摘しています。そのうえで、植物廃棄物から得た未活性化のバイオ炭について、燃え残りの無機成分である灰分(ミネラル分)が、消化管を模した条件でのZEN結合能力と関係しているかを調べました。

何を調べたか:4種類の植物素材を同じ条件で炭に

研究チームは、2種のアマランサス(Amaranthus cruentus と Amaranthus retroflexus)の植物体と、穀物の製粉工場で出た米のもみ殻、ソバの殻の計4種類を原料にしました。いずれも窒素雰囲気の中で、毎分10℃ずつ550℃まで加熱する同じ条件でバイオ炭にしています。得られたバイオ炭の割合は原料重量の約30〜41%で、もみ殻が最も多くなりました。

続いて、灰分や炭素の量、含まれる元素、結晶の種類、表面の微細な構造、窒素ガスの吸着から求める表面積や細孔(微細な穴)の量などを測定しました。ZENの吸着試験は37℃で行い、胃を想定した酸性条件(pH2.0)で毒素を吸着させた後、腸を想定した弱アルカリ性条件(pH8.0)で再び離れてしまう量(脱着)を調べました。毒素とバイオ炭の重量比は1対1000です。さらに、繊毛虫の一種スティロニキア・ミティルスを使い、バイオ炭に一般的な毒性がないかを予備的に確認しました。

主な結果:灰分の「量」より「種類」が関わる可能性

アマランサス由来の2種のバイオ炭は、灰分が約28〜34%で、カリウムとカルシウムが主成分でした。結晶としては炭酸カルシウムの鉱物である方解石(またはマグネシウムを含む方解石)が見られました。もみ殻のバイオ炭は灰分が約44%と最も多く、その大半が非結晶のシリカ(ケイ素の酸化物)でした。ソバ殻のバイオ炭は灰分が約7%と少なく、炭素分が最も多い素材でした。どのバイオ炭も表面積は1グラムあたり0.45〜2.30平方メートルと非常に小さく、ごく小さな細孔はほとんどありませんでした。

ZENの除去率は、A. cruentus由来が90.5%で最も高く、A. retroflexus由来が77.3%、もみ殻由来が65.8%と続き、ソバ殻由来は10.6%にとどまりました。腸を想定した条件で再び離れた量は、結合した毒素の1.5%以下でした。繊毛虫の試験では、どのバイオ炭でも生存率が70%を超え、毒性は認められなかったと報告されています。

著者らは、この順位を、炭酸塩を含むカルシウム・カリウム系の灰分、シリカ系の灰分、灰分の少ない素材という移り変わりに対応するものと解釈しました。最も炭化が進んだ低灰分のソバ殻由来が最も効果が低く、表面積が最も大きいもみ殻由来もアマランサス由来には及びませんでした。また、結合したZENの量は、窒素で測れる表面を分子一層で覆う量のおよそ45〜96%に相当すると見積もられました。著者らは、表面積がこれほど小さいことを踏まえると、こうした細孔への物理的な吸着だけでは素材ごとの差を説明できないとしています。

この研究が示すこと

著者らは、灰分(ミネラル分)が重要な役割を果たすという仮説が、定性的には3つの観点すべてで満たされたとしています。ただし、試料は4種類と少なく、相関はいずれも統計的に有意ではありませんでした。灰分、炭素量、表面積が互いに連動していて影響を切り分けられないこと、吸着の段階で液のpHを管理していなかったことも挙げ、仮説は「暫定的に支持された」にとどまると結論づけています。

そのうえで、調べた中ではA. cruentus由来のバイオ炭が、高い除去率、少ない脱着、繊毛虫の高い生存率をあわせ持っていました。その試験管内での効率は市販の吸着剤で報告されている範囲に収まりますが、試験方法が異なるため直接の比較には限りがあると著者らは述べています。この研究は、植物廃棄物から得たバイオ炭がカビ毒を吸着する力は、表面積や炭化の程度だけでなく、含まれる鉱物の種類とも関わっている可能性を、試験管内の実験から示したものといえます。

原著論文の著者・所属:Svetlana Islamova(Institute of Power Engineering and Advanced Technologies, FRC Kazan Scientific Center, Russian Academy of Sciences, 420111 Kazan, Russia)、Julia Karaeva(Institute of Power Engineering and Advanced Technologies, FRC Kazan Scientific Center, Russian Academy of Sciences, 420111 Kazan, Russia)、Svetlana Timofeeva(Institute of Power Engineering and Advanced Technologies, FRC Kazan Scientific Center, Russian Academy of Sciences, 420111 Kazan, Russia)、Evgeny Marfin(Institute of Power Engineering and Advanced Technologies, FRC Kazan Scientific Center, Russian Academy of Sciences, 420111 Kazan, Russia)、Mikhail Marfin(Institute of Computational Mathematics and Information Technologies, Kazan Federal University, 420008 Kazan, Russia)、Nailya Mishina(Federal Center for Toxicological, Radiation and Biological Safety, 420075 Kazan, Russia)、Svetlana Tanaseva(Federal Center for Toxicological, Radiation and Biological Safety, 420075 Kazan, Russia)、Eduard Semenov(Federal Center for Toxicological, Radiation and Biological Safety, 420075 Kazan, Russia)、Danil Mingaleev(Federal Center for Toxicological, Radiation and Biological Safety, 420075 Kazan, Russia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Svetlana Islamova, Julia Karaeva, Svetlana Timofeeva, et al. Biochar-Based Materials from Plant Waste: Physicochemical and Structural Characteristics, Zearalenone Binding In Vitro. Molecules 2026-10-16. DOI: 10.3390/molecules31203717. 原著ライセンス:CC BY.