著者の所属・活動拠点の国は、タイ、ドイツです。

掲載誌:Plants

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

米は世界の主要な主食作物です。タイは米の主要輸出国の一つで、香りや柔らかな食感で知られる品種も国際市場で高く評価されています。一方で、集約的な稲作を続けると、土壌の養分が減ったり、酸性化が進んだり、土壌有機物が失われたりします。研究チームは、これが長期的な土壌の肥沃さや米の品質を脅かすと指摘しています。

研究チームが注目したのは二つの土壌改良資材です。一つは、稲作の副産物であるもみ殻からつくる「もみ殻バイオ炭」です。もう一つは、腐植物質(土壌中で有機物が分解・変化してできる物質)から得られる塩である「フミン酸カリウム」です。これまでの研究は、どちらか一方の資材の効果を調べたものが中心でした。また、土壌の性質、作物の生育、収量などを個別に評価する例が多く、両者を併用したときに土壌・植物・米粒がまとめてどう反応するかについては、情報がほとんどありませんでした。

そこで研究チームは、湛水した水田で、二つの資材を単独で使った場合と組み合わせた場合を比べました。調べた対象は、土壌の化学的性質、地上部(茎葉)に蓄積した養分、収量、米粒の成分と品質です。これらを同じ圃場試験の中で一体的に評価することを目指しました。

どのように調べたか

試験は2024年7月から12月上旬にかけて、タイ北部チェンマイ県サンパトンの水田で行われました。この圃場は、10年以上にわたり有機管理のもとで稲作が続けられてきた場所です。

処理は、もみ殻バイオ炭もフミン酸カリウムも施用しない対照区、もみ殻バイオ炭のみの区、フミン酸カリウムのみの区、両方を併用した区の4種類です。それぞれ4反復、計16区画を設けました。収穫後に、土壌の酸性度(pH)や窒素・リンなどの養分量を測りました。あわせて、穂を除いた茎葉に蓄積した窒素・リン・カリウムの量も求めました。収量は、もみの状態と精米後の両方で評価しています。

米粒については、色、炊飯特性、栄養成分、アミノ酸組成、抗酸化活性などを分析しました。炊飯特性には、炊飯時間、炊飯による重さの増え方(吸水)、体積の膨らみや粒の伸び、冷めたご飯の硬さの目安となるゲル硬度が含まれます。統計解析では、二つの資材それぞれの効果に加え、片方の効果がもう片方の有無で変わる「交互作用」があるかどうかも調べました。

主な結果

土壌では、もみ殻バイオ炭によってpHが対照区の5.4から5.6へ上がりました。研究チームは、バイオ炭に含まれるアルカリ性の灰分が酸性を和らげる作用と一致する結果だとしています。フミン酸カリウムは資材そのもののpHが約10.8と高いものの、土壌のpHに有意な変化はありませんでした。研究チームはその理由として、施用量が1ヘクタール当たり6.3キログラムと比較的少なかったことが関係している可能性を挙げています。

土壌の可給態リン(植物が利用しやすい形のリン)は、資材を加えたすべての区で対照区より低くなりました。対照区は土壌1キログラム当たり106.2ミリグラムでした。これに対し、バイオ炭のみの区は33.5ミリグラム、フミン酸カリウムのみの区は48.7ミリグラム、併用区は47.2ミリグラムでした。土壌の全窒素は併用区で最も高く、フミン酸カリウムのみの区では全窒素とアンモニウム態窒素が多く残っていました。

収量の反応は、もみと精米後とで異なりました。フミン酸カリウムはどちらの収量も増やしました。バイオ炭は精米後の収量を増やしましたが、もみの収量には有意な影響がありませんでした。併用区はもみの収量を増やしたものの、精米後の収量には有意な増加が見られませんでした。研究チームは、併用の収量反応は相乗効果を示す証拠にはならないと述べています。

米粒の外観では、併用区で最も明るい色の米粒が得られました。また、フミン酸カリウムでは黄色みが最も弱く、バイオ炭ではやや黄色みが強くなりました。炊飯特性のうち、統計的に有意な効果が確認されたのは、バイオ炭による炊飯時の体積の膨らみだけでした。ゲル硬度はすべての区で硬いタイプの範囲にとどまり、処理による有意な違いは見られませんでした。

研究チームのまとめは次のとおりです。バイオ炭は主に土壌pH、茎葉の窒素・リン・カリウム蓄積、精米後の収量を高めました。フミン酸カリウムは土壌の窒素状態、茎葉の窒素・リン蓄積、もみと精米後の両方の収量、米粒のタンパク質含量と一部のアミノ酸濃度を高めました。土壌養分、米粒の成分、アミノ酸組成などでは交互作用も多く見られ、併用の効果は一貫して単純な足し算にはなりませんでした。

この研究が示すこと

この研究は、もみ殻バイオ炭とフミン酸カリウムが、それぞれ異なるかたちで水田の土壌、稲の茎葉、米粒に影響したことを示しています。ただし、米の成分や品質への影響は項目ごとに異なり、すべての指標が一様に良くなったわけではありません。また、二つを組み合わせても、単独で使った場合より常に大きな反応が得られたわけでもありませんでした。

著者らは、土壌・茎葉・米粒で同時に変化が見られたことは、養分が土壌から米粒へ移る因果的な経路を証明するものではないと注意を促しています。さらに、この試験は1か所・1作期で行われ、一般的な化学肥料や農家の慣行との比較も含まれていません。そのため、結果はこの試験の環境と管理条件の範囲で解釈すべきだとしています。資材の効果を評価する際には、もみの収量だけでなく精米後の収量まで含めて見ることの価値も、研究チームは強調しています。

原著論文の著者・所属:Thidarat Rupngam(Department of Environmental Engineering, Faculty of Engineering, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand; Office of Research Administration, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand)、Patchimaporn Udomkun(Department of Environmental Engineering, Faculty of Engineering, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand; Office of Research Administration, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand)、Joachim Müller(Institute of Agricultural Engineering, Tropics and Subtropics Group, University of Hohenheim, 70599 Stuttgart, Germany)、Thirasant Boonupara(Living Soil Co., Ltd., Chiang Mai 50100, Thailand)、Puangrat Kaewlom(Department of Environmental Engineering, Faculty of Engineering, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Thidarat Rupngam, Patchimaporn Udomkun, Joachim Müller, et al. Linking Soil Properties to Grain Quality: Individual and Combined Effects of Rice Husk Biochar and Potassium Humate in Paddy Rice Systems. Plants 2026-10-09. DOI: 10.3390/plants15203086. 原著ライセンス:CC BY.