著者の所属・活動拠点の国は、マレーシアです。

掲載誌:Journal of Smart Farming and Food Security

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:検査室に頼らず、その場でカビ毒を測る

ゼアラレノン(ZEA)は、フザリウム属のカビがつくる毒素(マイコトキシン)の一つです。熱に強く、女性ホルモンに似た働き(エストロゲン様作用)を持ちます。穀物や家畜の飼料をしばしば汚染し、食品の安全、家畜の健康、農業経済への深刻な脅威とされています。

研究チームは、検査室での分析法は精度が高い一方で時間がかかり、現場ですぐに結果を得たいスマート農業の用途には向かないと指摘しています。そこで著者らは、生のトウモロコシ粒と加工済みの家禽用飼料について、検査室に送らずに現地でZEAの量を素早く測れる携帯型のセンサーシステムの開発を目指しました。

センサーの仕組みと性能

研究チームが使ったのは、炭素の電極を印刷技術で作ったセンサー片(スクリーン印刷カーボン電極)です。その表面を、電気を通す高分子のポリアニリンと金のナノ粒子を組み合わせた材料で覆いました。この層は表面積が大きく、ZEAを見分けて結合する抗体を安定して固定でき、電子のやり取りも速くなるとされています。測定には、微分パルスボルタンメトリーという、電圧を段階的に変えながら電流の変化を読み取る電気化学的な手法を用いました。

穀物や飼料から得た試料液には、ZEA以外にも測定を邪魔する成分が含まれます。この影響を抑えるため、著者らは試料液と緩衝液を1対5の割合で薄める条件を最適な条件として用いました。

論文によると、このセンサーは1キログラムあたり0〜200マイクログラム(µg/kg、ppbと同じ単位)の範囲で直線的な測定ができました。検出できる最小の量(検出限界)は、緩衝液中で36.88 ppb、実際の試料成分を含む液中で57.66 ppbでした。著者らは、これらの値が国際的な規制基準値に見合う水準だと報告しています。

正確さを確かめるため、既知の量のZEAを試料に加えて測る試験(添加回収試験)も行われ、加えた量の80.19〜93.92%を測定できたと報告されています。また、表面処理をしたセンサー片は、室温で14日間保存しても安定した性能を保ちました。

現場向けのシステムと実試料での検証

センサー片は、手で持って使える読み取り装置「MARDIsense」とスマートフォンのアプリと組み合わせて使います。アプリがデータを自動で処理し、結果をリアルタイムでクラウドに記録する仕組みです。

研究チームは、実際の農業現場から集めた52試料(生の穀物37試料、飼料や穀粒15試料)で性能を確かめました。比較の基準には、抗体を使う検査法であるELISA法を用いました。その結果、試料を汚染の程度で区分した判定はELISA法と100%一致し、測定値どうしにも強い相関がみられました(相関係数r=0.931、p<0.001)。

測定結果からは、汚染の分布の違いも見えてきました。収穫前の畑の穀物は汚染が少なく、94.6%が50 ppb未満でした。これに対し、加工済みの家禽用飼料では半数が100 ppbを超え、汚染が深刻だったと報告されています。

研究が示すこと

この研究は、表面を工夫したセンサー片と携帯型の読み取り装置、スマートフォンを組み合わせ、カビ毒ゼアラレノンを現地で測る仕組みを示しました。今回の検証では、結果がELISA法とよく一致しました。

さらに、畑の穀物よりも加工後の飼料で汚染が目立つという結果から、著者らは、収穫後の飼料工場での監視を優先するうえでこのシステムが重要な役割を果たしうると述べています。食品供給の流れの中で、どこを重点的に調べるべきかを考える手がかりを示した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Nur Azura Mohd Said(Biotechnology & Nanotechnology Research Centre, Malaysian Agricultural Research & Development Institute (MARDI) Headquarter, 43400 Serdang, Selangor, Malaysia)、Norhafniza Awaludin(Biotechnology & Nanotechnology Research Centre, Malaysian Agricultural Research & Development Institute (MARDI) Headquarter, 43400 Serdang, Selangor, Malaysia)、Erna Mutiara Masdek(Biotechnology & Nanotechnology Research Centre, Malaysian Agricultural Research & Development Institute (MARDI) Headquarter, 43400 Serdang, Selangor, Malaysia)、Sahira Akmar Zulkepli(Biotechnology & Nanotechnology Research Centre, Malaysian Agricultural Research & Development Institute (MARDI) Headquarter, 43400 Serdang, Selangor, Malaysia)、Syah Noor Muhammad Ramli(Biotechnology & Nanotechnology Research Centre, Malaysian Agricultural Research & Development Institute (MARDI) Headquarter, 43400 Serdang, Selangor, Malaysia)、Mohd Afendy Abdul Talib(Biotechnology & Nanotechnology Research Centre, Malaysian Agricultural Research & Development Institute (MARDI) Headquarter, 43400 Serdang, Selangor, Malaysia)、Mohd Effendi Mohamed Nor(2 Industrial Crop Research Centre, MARDI Headquarter, 43400 Serdang, Selangor, Malaysia)、Halimah Hashim(2 Industrial Crop Research Centre, MARDI Headquarter, 43400 Serdang, Selangor, Malaysia)、Nurul Afza Karim(Industrial Crop Research Centre, MARDI Bachok, 16310 Bachok, Kelantan, Malaysia)、Mohammad Rejab Ismail(MARDI Arau, Lot PT3747 Tambun Tulang, 02600 Arau, Perlis, Malaysia)、Hazana Razali(Biogenes Technologies, Jalan Maklumat, Universiti Putra Malaysia, 43400 Serdang, Selangor, Malaysia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Nur Azura Mohd Said, Norhafniza Awaludin, Erna Mutiara Masdek, et al. Portable electrochemical biosensing platform for rapid, on-site detection of zearalenone mycotoxin in grain corn and animal feed. Journal of Smart Farming and Food Security 2026-09-28. DOI: 10.51200/jsffs.v2i2.7498. 原著ライセンス:CC BY.