唐辛子の仲間なのに、辛くない。京都万願寺とうがらしの面白さは、まずその矛盾から始まる。夏が旬のこの野菜は、実の先端がくぼんで獅子の口のように見えることから「ししとう」の名で呼ばれる仲間の一種で、ナス科トウガラシに連なる血筋を持ちながら、辛み成分のカプサイシンをほとんど持たない甘味種として育てられてきた。今出回っているのは、赤く熟す前の青い段階で収穫されたもの。ピーマンやパプリカと同じ品種違いの親戚だと知ると、あの肉厚でつややかな緑の姿にも、また違った見方ができる。

辛くない代わりに持っている、栄養の顔

辛みを引き算した万願寺とうがらしが何を持っているかといえば、それはビタミンCだ。100gあたり83mgというのは、女性30〜49歳の推奨量100mg/日(日本人の食事摂取基準)の83%にあたる量で、1本や2本を刻んで炒め物に加えるだけでも、その日の食卓に確かな彩りを足してくれる。ビタミンCは水に溶けやすく熱に弱いため、買ってきたその日のうちに手早く調理するのが、この栄養を活かす一番の近道になる。さらに緑黄色野菜としての顔も持ち、β-カロテンカリウムといった成分も含む。エネルギーは100gで26kcalと軽やかで、夏の食卓に取り入れやすい一品でもある。

まれに混じる、当たり外れという名の楽しみ

そしてこの野菜には、栄養データだけでは語り尽くせないもう一つの顔がある。基本的には辛くないはずの万願寺とうがらしに、ごくまれに驚くほど辛い一本が混じることがあるのだ。明確な原因は分かっていないが、育つ過程での乾燥などのストレスや、受粉がうまくいかなかったことが関係しているのではないか、という説がある。八百屋の店先でも料理人の間でも、この「当たり外れ」は昔からちょっとした話の種になってきた。一口食べて思わず顔をしかめる瞬間まで含めて、旬の食卓の醍醐味として楽しむ人も多い野菜なのである。

爆ぜを防ぐひと手間と、食べ方のコツ

選ぶときは、緑色が鮮やかでハリとツヤがあり、ヘタの切り口が黒ずんでいないものを目安にするとよい。調理の際に忘れたくないのが、包丁で軽く切れ目を入れることだ。皮に覆われた実の中で汁や空気が膨張すると、加熱中に爆ぜて油がはねることがあるため、切れ目はそれを防ぐための実用的な知恵になっている。焼き浸しにして出汁を含ませても、油で素揚げにして塩を振っただけでも、青々とした香りと肉厚な食感がこの時期らしいごちそうになる。

辛くないはずの野菜に、時折混じる一本の辛さ。その予測できなさもまた、旬の短い夏野菜が見せてくれる表情の一つだ。今年の当たりに出会えるかどうか、食卓で確かめてみるのも一興だろう。

栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。