7月も下旬、土用を迎えるこの時期は、冷たいめん類のつゆや浸し物など、だしのうまみが料理の決め手になる場面が増える季節でもある。澄んだ一番だしを仕込む家庭も多いが、実は同じ「昆布」でも産地によってうまみの濃さがまるで違うことは意外と知られていない。羅臼昆布は100gあたり2290〜3380mg、真昆布は1610〜3050mgのグルタミン酸を含むとされるのに対し、りしりこんぶ 素干しは1490〜1900mgと、実はこの中でいちばん控えめな数値になる(うま味成分の参考値)。

うまみの絶対量なら羅臼や真昆布に軍配が上がる。だが料亭が椀物や吸い物の一番だしにこぞって利尻を選ぶのは、この「控えめさ」こそが理由とされる。うまみが強すぎないぶん雑味が出にくく、澄んだ透明な出汁が引ける。昆布は足し算で語られがちな食材だが、利尻の個性は引き算の美学にある。なお成分表に「北海道昆布(利尻・羅臼)」の個別収録はないため、ここでは一般的なりしりこんぶ素干しの値で見ていく。

だしがら以上の実力、ミネラルの濃縮度

りしりこんぶが数値で際立つのはうまみだけではない。100gあたりカリウムは5300mgと非常に多く、女性30〜49歳の目安量2000mg/日を大きく上回る量が含まれる。カリウムは細胞内の浸透圧を保ち、血圧を正常に保つ方向に働くとされ、水溶性のため出汁を汁ごと使う料理は理にかなった食べ方といえる。

マグネシウムも540mgと豊富で、女性30〜49歳の推奨量290mg/日の186%にあたる。骨をつくり、多くの酵素やエネルギー代謝に関わる栄養素だ。カルシウムは760mgで女性30〜49歳の推奨量650mg/日の117%、骨や歯の主要な構成要素として知られる。ビタミンB1も0.8mgと女性30〜49歳の推奨量0.9mg/日の89%を占め、糖質などの代謝を助ける補酵素として働く。なお、これらはいずれも昆布を100g丸ごと食べた場合の数値で、だしとして使う分量なら摂れる量はわずかだ。だからこそ、うまみを引き出したあとの昆布そのものをどう扱うかが効いてくる。基準値の詳細は日本人の食事摂取基準で確認できる。

だしを引いた後も、まだ終わらない

利尻昆布のうまみを最大限に引き出すコツは意外にシンプルだ。表面の白い粉を洗い流さず、サッと拭くだけでいい。この白い粉こそがうまみの一部だからだ。水に浸けて低温でじっくり抽出すれば、雑味のない一番だしが仕上がる。

そして見落とされがちなのが、だしを引いた後の昆布だ。だしがらになっても栄養成分は昆布そのものに残っているとされ、そのまま捨ててしまうのはもったいない。冷凍でストックしておき、ある程度たまったら細切りにして佃煮や煮物にすれば、食物繊維31.4gという昆布本来の持ち味も無駄なく食べきれる。昆布は「よろこぶ」に通じる縁起物としても親しまれてきた食材でもあり、だしがら一枚まで使い切る姿勢は、この素材への敬意の表れとも言える。

控えめだからこそ、また会いたくなる

羅臼でも真昆布でもなく利尻を選ぶ理由は、うまみの多寡ではなく引き算にある。突出した数値を持たないことが、かえって澄んだ一杯を生む——この逆説にこそ、利尻昆布の個性が凝縮されている。だしを引いた後の昆布まで食べきってこそ、この一枚の物語は完結する。次に土鍋で昆布だしを引くときは、その静かな透明感の奥に、控えめな数字がもたらす引き算のうまみを思い出してみてほしい。

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。

栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準e-ヘルスネット「カリウム」(厚生労働省)e-ヘルスネット「カルシウム」(厚生労働省)e-ヘルスネット「マグネシウム」(厚生労働省)