著者の所属・活動拠点の国は、バングラデシュ、オーストラリアです。
掲載誌:MicrobiologyOpen
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:腸と脳のつながりに植物成分はどう関わるか
腸と脳は離れた臓器ですが、迷走神経(腸と脳を結ぶ主要な神経)、ホルモン、免疫、代謝物を介して互いに情報をやり取りしています。この双方向のつながりは「腸脳相関」と呼ばれます。腸内細菌のバランスの乱れ(ディスバイオシス)は脳の働きの異常や神経の炎症と関連することが報告されており、アルツハイマー病(AD)やパーキンソン病(PD)との関係も注目されています。ただし著者らは、腸脳相関の乱れがどのような仕組みで神経変性を進めるのかは、まだ十分に解明されていないと述べています。
一方、野菜や果物などに含まれるポリフェノールやフラボノイドといった植物由来成分(ファイトケミカル)は、抗酸化作用や抗炎症作用などを持つことで知られます。最近では、脳に直接働くだけでなく、腸内細菌を介して作用する可能性も指摘されています。この総説で研究チームは、腸内細菌と植物成分の相互作用について仕組みの研究が比較的進んでいるADとPDに対象を絞りました。そのうえで、植物成分が腸内細菌や腸脳相関の信号を通じて病気の成り立ちや進行にどう関わりうるかを、既存の研究から整理することを目的としました。
どのように調べたか
著者らは、PubMed、Scopus、Web of Science、Google Scholarといった論文データベースを2026年1月まで検索しました。「腸脳相関」「腸内細菌」「ポリフェノール」「アルツハイマー病」「パーキンソン病」などの語を組み合わせ、見つかった論文の参考文献も手作業で調べています。
対象としたのは、植物成分を扱い、腸内細菌やその代謝物、腸脳相関に関わる仕組みを評価し、ADまたはPDについて調べた研究です。培養細胞を使った研究、動物実験、臨床研究のいずれも含めました。総説や学会抄録などの二次的な文献と、腸内細菌に関する結果を含まない研究は除外しています。また、研究デザインや試料数、偏りの可能性も評価しました。扱う成分の種類や実験モデル、測定項目がばらばらだったため、数値を統合する解析(メタ解析)は行わず、共通する仕組みを文章で整理する方法をとっています。
主な報告内容
著者らはまず、ADとPDに共通する特徴を整理しています。異常な形に折りたたまれたタンパク質が脳にたまることです。ADではアミロイドβとタウ、PDではα-シヌクレインがこれにあたります。これに加えて、脳の免疫細胞であるミクログリアの過剰な活性化による慢性的な炎症と、活性酸素による酸化ストレスも共通の特徴として挙げられています。腸内細菌は、セロトニン、ドーパミン、GABAといった神経伝達物質の産生や調節に関わります。さらに、食物繊維を発酵させて短鎖脂肪酸(酢酸、酪酸など)を作り出します。その一方で、一部の細菌の細胞膜に含まれるリポ多糖(LPS)という物質は炎症を引き起こします。腸内細菌はこうした経路を通じて病態に関わりうると整理されています。
集めた研究からは、次のような傾向が報告されています。植物成分は、乳酸菌(ラクトバチルス)、ビフィズス菌、アッカーマンシア・ムシニフィラなどの細菌を増やし、炎症に関わるとされる一部の細菌群を減らしました。その結果として短鎖脂肪酸が増え、LPSが減ることが示されています。短鎖脂肪酸は、炎症を促す信号経路を抑え、腸のバリア(細胞同士の密着)を強めてLPSが体内に入り込むのを防ぐ方向に働くとされます。
著者らはさらに、こうした腸内環境の変化がその先の複数の働きにつながりうると整理しています。具体的には、神経細胞の生存を支えるタンパク質であるBDNFの働きを高めること、細胞内の不要物を分解する仕組みである「オートファジー」によって異常タンパク質の除去を促すこと、ミクログリアの過剰な活性化や酸化ストレスを抑えることです。ADについては、アミロイドβのもとになるタンパク質の減少や、記憶に関わるアセチルコリン系の調節を示す報告も紹介されています。PDについては、α-シヌクレインの凝集の抑制に関わる可能性が報告されています。これらの多くは細胞実験や動物実験を含む研究に基づくもので、著者らは評価の際に動物モデルの限界や試料数の少なさにも注意を払ったとしています。
この総説が示すこと
この総説は、植物由来成分がADやPDに関わりうる経路として、脳への直接の作用だけでなく、腸内細菌の構成とその代謝物を介した腸脳相関という道筋を示しています。そして、関連する研究を一つの枠組みにまとめています。腸内細菌、短鎖脂肪酸、炎症、腸のバリア、異常タンパク質の除去といった要素が互いにつながっているという見取り図は、両疾患と食事由来成分の関係を考えるうえでの整理として役立ちます。一方で著者らは、腸脳相関の乱れが神経変性を引き起こす詳しい仕組みは、まだ解明の途上にあることも示しています。
原著論文の著者・所属:Md. Emon(Department of Pharmacy Gopalganj Science and Technology University Gopalganj Bangladesh)、Md. Mizanur Rahaman(Australian Institute of Tropical Health and Medicine, James Cook University Townsville Queensland Australia; Biomedical Sciences and Molecular Biology, College of Medicine and Dentistry, James Cook University Townsville Queensland Australia)、Dhrubo Sarder(Department of Pharmacy Gopalganj Science and Technology University Gopalganj Bangladesh)、Md. Shadin(Department of Pharmacy Gopalganj Science and Technology University Gopalganj Bangladesh)、Shamima Akter Neela(Department of Pharmacy Gopalganj Science and Technology University Gopalganj Bangladesh)、Phurpa Wangchuk(Australian Institute of Tropical Health and Medicine James Cook University Cairns Queensland Australia; College of Science and Engineering, James Cook University Cairns Queensland Australia)、Subir Sarker(Australian Institute of Tropical Health and Medicine, James Cook University Townsville Queensland Australia; Biomedical Sciences and Molecular Biology, College of Medicine and Dentistry, James Cook University Townsville Queensland Australia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Md. Emon, Md. Mizanur Rahaman, Dhrubo Sarder, et al. Microbiome‐Phytochemical Crosstalk Along the Gut‐Brain Axis in Alzheimer and Parkinson's Disease. MicrobiologyOpen 2026-08-01. DOI: 10.1002/mbo3.70374. 原著ライセンス:CC BY.