近年、腸内に住むたくさんの細菌(腸内細菌叢)が、消化だけでなく脳の働きにも関わっているのではないかという「腸脳相関」の考え方が注目されています。アルツハイマー病や、その前段階とされる軽度認知障害(MCI)についても、腸内細菌の構成に何らかの特徴があるのではないかと考えられてきました。しかし、こうした腸内細菌叢のデータはヒスパニック系の集団ではこれまで乏しく、地域や食習慣によって腸内細菌の傾向が異なる可能性を踏まえると、検証されていない集団が数多く残されています。今回紹介する研究は、ドミニカ共和国において、アルツハイマー病、軽度認知障害、健康な対照群の3グループの便に含まれる細菌を比較したものです。

どのように調べたのか

研究チームは、60歳以上の参加者88名を対象に前向きの研究を行いました。参加者には臨床評価や認知機能・日常生活動作の評価を実施したうえで便検体を採取し、16S rRNA遺伝子シーケンシングという手法で腸内細菌の種類と量を解析しています。得られたデータはQIIME2やRといった解析ソフトを用いて処理され、細菌の多様性(アルファ多様性・ベータ多様性)、どのような分類群がどれくらいの割合で存在するか、グループ間で量に差がある細菌がいないかを検討しました。また、食事内容が腸内細菌叢に与える影響についてもPERMANOVAという統計手法で解析されています。

わかったこと

まず、アルツハイマー病群・軽度認知障害群・対照群の間で、腸内細菌の多様性そのものには統計的に有意な差は見られませんでした(アルファ多様性を示すShannon指数は4〜5、Simpson指数は0.94〜0.99の範囲で、いずれもp値は0.05を超えていました)。細菌の組成が全体としてどれだけ異なるかを示すベータ多様性についても、グループ間で明確な違いは確認されませんでした。

腸内細菌全体の構成を見ると、Firmicutes門が51.9%、Bacteroidota門が34.1%を占め、この2つの門が主要な構成要素であることが示されています。一方で、特定の細菌の量に注目すると、Desulfobacterota属の存在割合が、軽度認知障害群で0.54%、アルツハイマー病群で0.61%となっており、対照群の0.34%と比べて高い値であったことが報告されています。

この研究をどう読むか

著者らは、ヒスパニック集団における腸内細菌叢のデータがこれまで乏しかった中で、本研究がこの分野における先駆的な取り組みに位置づけられるとしています。ただし、この研究は横断研究であるため、腸内細菌の違いが認知機能の低下の原因なのか結果なのか、あるいは単なる関連にとどまるのかという因果関係までは明らかにできません。著者ら自身も、今後は同じ参加者を長期間追跡する縦断研究や、複数の生体情報を組み合わせたマルチオミクス研究が必要であると述べています。

今回の結果から、腸内細菌の多様性そのものには3グループ間で大きな違いはなかったものの、Desulfobacterota属という特定の細菌の量に差がみられたことが示唆されています。これは腸内細菌叢と認知機能の関連を考えるうえでの一つの手がかりですが、この研究だけで因果関係や健康への影響を結論づけることはできず、今後のさらなる研究の積み重ねが待たれます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Medrano M, Pacheco-Herrero M, Borges Z, et al. Characterization of the intestinal microbial profile in mild cognitive impairment and Alzheimer's disease. デメンチア・エ・ネウロプシコロジア (2026). DOI: 10.1590/1980-5764-dn-2025-0440.