この研究は、インドの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の背景と目的

大腸がんは世界で3番目に多く診断されるがんであり、がんによる死亡原因としては2番目に位置づけられています。著者らは、GLOBOCAN 2022の報告として、新規症例が1,926,425件、死亡が904,019件にのぼると紹介しています。

近年注目されているのが、腸内に住む膨大な微生物の集まり(腸内細菌叢)との関わりです。この細菌のバランスが崩れた状態は「ディスバイオシス(腸内細菌の乱れ)」と呼ばれ、有害な細菌が増えて有益な細菌の多様性が失われます。論文では、こうした乱れが慢性的な炎症を招き、免疫による監視を弱め、大腸がんの発生や進行、さらには治療後の再発と関わりうる状態として説明されています。

そこで研究チームは、植物由来の抽出物とプロバイオティクス(有用菌)を組み合わせた免疫刺激性の配合物を開発し、腸内細菌のバランスを整えることが大腸がんの管理に役立つ可能性を検討することを目的としました。

何をどう調べたか

配合物はパセリ、リンゴ、オオアザミ(シリバム)、ブドウ種子、ニンニク、緑茶、ザクロの各抽出物に、4種の有用菌(ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ラムノサス、ラクトバチルス・カゼイ、ビフィドバクテリウム・ラクティス)などを加えた粉末です。植物成分の配合比を変えたF3A〜F3Dの4種類を用意し、それぞれの働きを比べました。

検討は複数の段階で行われました。まず質量分析(LC-MS/MS)で配合物に含まれる有効成分を同定し、コンピュータ上で成分とタンパク質の結合をシミュレーションしました。次に、培養したマウス由来およびヒト由来の大腸がん細胞と、比較対象となる正常なヒト細胞(ヒト胎児腎細胞)に配合物を加えて、細胞の生存率や細胞死(アポトーシス)、関連タンパク質の変化を調べました。さらに、抗生物質を投与して腸内細菌の乱れを人為的につくったマウスに配合物を14日間与え、16S rRNA遺伝子の解析によって細菌構成の変化を確認するとともに、血液検査や組織の観察も行っています。

主な報告結果

成分分析では、パセリ由来のアピゲニン、リンゴ由来のケルセチン、オオアザミ由来のシリマリン、ブドウ種子由来のアントシアニジン、ニンニク由来のアリシン、緑茶由来のEGCG、ザクロ由来のエラグ酸が同定されました。コンピュータ解析では、ケルセチンが細胞死や炎症、増殖に関わる複数のタンパク質と結合しうることが示され、100ナノ秒の分子動力学シミュレーションでもその結合状態は安定していたと報告されています。

細胞を用いた試験では、4種類の配合物すべてが、濃度と時間に応じて大腸がん細胞の生存率を低下させました。なかでもF3Bが最も強い増殖抑制作用を示し、マウス大腸がん細胞に対する72時間後のIC50(半数の細胞の増殖を抑える濃度)は0.062% w/vでした。一方、正常なヒト胎児腎細胞では、試験した最高濃度(0.250% w/v)でも生存率はほぼ100%を保ち、未処理の対照と同等でした。著者らはこれを、がん細胞に対する選択的な作用と説明しています。細胞死の測定でもF3Bの反応が最も強く、アポトーシスを起こした細胞は全体の57.33%に達しました。タンパク質の解析では、がん関連タンパク質であるK-RASとB-RAFの発現が明らかに低下し、免疫に関わるIL-10は増加したと報告されています。

有用菌が産生する二次代謝産物も単独でがん細胞の増殖を抑え、ビフィドバクテリウム・ラクティス由来のものが最も強い作用を示しました(IC50は2.639% w/v)。これらの代謝産物と植物由来の配合物を組み合わせると、作用はさらに高まりました。

この研究が示すこと

この研究は、植物由来の成分と有用菌を組み合わせた一つの配合物が、実験室レベルで大腸がん細胞の増殖を抑え、細胞死を促し、さらに動物モデルで腸内細菌のバランスに働きかけうることを、複数の手法を組み合わせて示したものです。

なかでも、正常な細胞にはほとんど影響を与えずにがん細胞に作用したという報告は、腸内環境という側面から大腸がんを捉え直す研究の一つの手がかりといえます。著者らは、腸内細菌の乱れを整えることが大腸がんの管理に寄与しうるという考えのもとで、この配合物を評価しています。

著者:Kumar A(Laboratory of Molecular Medicine, Department of Biological Sciences, Birla Institute of Technology and Science Pilani, Hyderabad Campus, Hyderabad, India.; Department of Pharmacy, Birla Institute of Technology and Science Pilani, Hyderabad Campus, Hyderabad, India.; Esperer Institute of Oncology and Metabolic Sciences (EIOMS), Mumbai, India.)、Dhiman C(Laboratory of Molecular Medicine, Department of Biological Sciences, Birla Institute of Technology and Science Pilani, Hyderabad Campus, Hyderabad, India.)、Nimbarte VD(Department of Pharmacy, Birla Institute of Technology and Science Pilani, Hyderabad Campus, Hyderabad, India.)、Erukulla P(Laboratory of Molecular Medicine, Department of Biological Sciences, Birla Institute of Technology and Science Pilani, Hyderabad Campus, Hyderabad, India.)、Bharati MR(Laboratory of Molecular Medicine, Department of Biological Sciences, Birla Institute of Technology and Science Pilani, Hyderabad Campus, Hyderabad, India.)、Chattopadhyay R(Esperer Institute of Oncology and Metabolic Sciences (EIOMS), Mumbai, India.)、Mukherjee A(Esperer Institute of Oncology and Metabolic Sciences (EIOMS), Mumbai, India.)、Chaurasiya A(Department of Pharmacy, Birla Institute of Technology and Science Pilani, Hyderabad Campus, Hyderabad, India.)、Narayan KP(Laboratory of Molecular Medicine, Department of Biological Sciences, Birla Institute of Technology and Science Pilani, Hyderabad Campus, Hyderabad, India.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kumar A, Dhiman C, Nimbarte VD, et al. A polyherbal and probiotic-based immunostimulatory formulation for managing gut dysbiosis in colorectal cancer. Frontiers in nutrition 2026-09-09. DOI: 10.3389/fnut.2026.1854998. 原著ライセンス:CC BY.