著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Archiv für Lebensmittelhygiene
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
キヌアはアンデス地域原産の穀物に似た作物で、栄養価の高い食品として知られています。穀物を発芽させると栄養面や機能面の性質が変わることがあり、発芽は食品の栄養を高める手法の一つとして研究されています。一方、穀物に含まれるフィチン酸はカルシウムなどのミネラルと結びつき、体内での利用されやすさを下げる可能性がある成分とされています。
著者らは、塩化カルシウム溶液を使ってキヌアを発芽させると、カルシウムがどの程度蓄積するかを調べました。あわせて、フィチン酸の量、植物由来のフェノール類の量、抗酸化能がどう変わるかも検討しました。論文によると、これらの変化をまとめて調べた研究はまだ少ないといいます。
何を調べたか
研究チームは市販の白いキヌアの種子を消毒し、0(対照)から60ミリモーラー(mM)まで7段階の濃度の塩化カルシウム溶液に2時間浸しました。その後、同じ溶液で湿らせた状態で、25℃、相対湿度95%の条件で発芽させました。試料は6時間ごとに24時間まで採取しました。
測定項目は、芽の長さ、カルシウムをはじめとする6種類のミネラル、フェノール類の総量、フィチン酸の量です。抗酸化能は、試験管内で行う2種類の化学的な測定法で評価しました。一つは、ABTSと呼ばれる不安定な分子(ラジカル)を消去する力を見る方法です。もう一つは、鉄イオンを還元する力を見る方法(FRAP)です。また、フィチン酸とカルシウムの量の比(PA/Ca比)も算出しました。この比が低いほど、フィチン酸がカルシウムを妨げる度合いが小さいことを示す指標とされています。
主な結果
カルシウムの量は、塩化カルシウムの濃度が高いほど増えました。発芽前の種子は乾燥重量100グラムあたり約43.5ミリグラムでした。これに対し、60mMで24時間発芽させた試料は約304ミリグラムで、発芽前の約7倍に達しました。論文が中国の栄養表示基準に基づいて計算したところ、24時間の時点で40mMと50〜60mMの試料は、カルシウムの栄養素等参照値に占める割合が30%を超えました。これは「カルシウムが豊富」と表示できる基準に当たると報告されています。一方で、30〜60mMの試料は24時間後の芽が対照より有意に短くなりました。60mMでは対照より37.6%短くなっています。カリウムも、塩化カルシウムで処理した試料では対照より少ない傾向がありました。
フィチン酸は、塩化カルシウムを使わない発芽だけでも減少しました。24時間後には乾燥重量1グラムあたり2.45ミリグラムとなり、発芽前の約5.29ミリグラムから半分以下になっています。塩化カルシウムで処理すると、さらに減りました。最も少なかったのは40mMの試料で、対照より84%少ない値でした。PA/Ca比も40mMの24時間試料で最も低く、対照より97%以上低下しました。
フェノール類の総量は、40mMの24時間試料で最も多く、対照より約9.7%高くなりました。一方、50mMと60mMでは対照より低くなり、60mMでは7.65%の減少でした。ABTSを消去する力は、すべての塩化カルシウム処理で対照より有意に高くなりました。鉄を還元する力は40mMの24時間試料で最も高く、対照より13.1%高い値でした。
研究が示すこと
著者らは、塩化カルシウムの濃度を上げるとカルシウムの蓄積は増えるものの、フィチン酸の減少や抗酸化に関わる指標は濃度に比例して良くなるわけではないと指摘しています。カルシウム量を最優先するなら50〜60mMが向いています。一方、フィチン酸の少なさやフェノール類、抗酸化能とのバランスを考えると、40mM程度が適しているという整理です。カルシウムを増やすことと他の品質指標との間には、トレードオフがあるといえます。
論文はこれらの結果を、カルシウムを強化した発芽キヌア食品を開発するための基礎データと位置づけています。なお、芽の伸びが抑えられた仕組みなどについて著者らが示した説明は、可能性として挙げられたものです。その一部は今回の研究で直接測定されていないと、論文自身が述べています。
原著論文の著者・所属:Di Wang(College of Food Science and Light Industry, Nanjing Tech University, 211816 Nanjing, Jiangsu, China)、Mengdie Yao(College of Food Science and Light Industry, Nanjing Tech University, 211816 Nanjing, Jiangsu, China)、Haifeng Zhang(College of Food Science and Light Industry, Nanjing Tech University, 211816 Nanjing, Jiangsu, China)、Yichen Lu(College of Food Science and Light Industry, Nanjing Tech University, 211816 Nanjing, Jiangsu, China)、Xiaohui Xiong(College of Food Science and Light Industry, Nanjing Tech University, 211816 Nanjing, Jiangsu, China)、Lixia Lu(College of Food Science and Light Industry, Nanjing Tech University, 211816 Nanjing, Jiangsu, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Di Wang, Mengdie Yao, Haifeng Zhang, et al. Effect of Calcium Chloride Treatment on the Accumulation of Calcium and Phenolics and the Estimation of Antioxidant Capacity in Germinated Quinoa. Archiv für Lebensmittelhygiene 2026-08-18. DOI: 10.31083/jfsfq53442. 原著ライセンス:CC BY.