著者の所属・活動拠点の国は、ウクライナ、アメリカです。

掲載誌:Medicina

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)は、肝臓に脂肪がたまることから始まる病気で、炎症や線維化、肝硬変、肝がんへ進むこともあります。世界で最も多い肝臓病の一つとされ、患者数は今後も増えると見込まれています。肥満や2型糖尿病と関係が深い一方、標準的な体重の人でも見つかるようになっています。

著者らは、腸内細菌と肝臓のつながりである「腸–肝軸」に注目しました。食生活などで腸内細菌のバランスが崩れると、腸のバリアが弱まり、細菌由来の成分が門脈を通って肝臓に届きます。これが慢性的な炎症を保ち、病気の進行に関わると考えられています。

生きた菌を使うプロバイオティクスには、菌の生存性や安定性、高リスク患者での安全性に課題があります。そこで近年は、生きていない菌体の成分や代謝産物を使う「ポストバイオティクス」が関心を集めています。研究チームは、乳酸菌ラクトバチルス・ラムノーサス(DV-NRRL B-68023株)を酵素で分解した菌体破砕物(ライセート)の製品「Del-Immune V Extra」を試験しました。MASLD患者で短期間使ったときの効果と安全性を、プラセボ(有効成分を含まない偽薬)と比べることが目的です。

どのように調べたか

試験には、MASLDと診断された18〜70歳の成人52人が参加しました。参加者は無作為に26人ずつ2群に分けられ、一方は破砕物入りカプセル(100mgを1日2回)を、もう一方は見た目の同じプラセボを12週間服用しました。服用終了後も3か月間経過を追いました。参加者も、カプセルを渡すスタッフや検査担当者も、どちらを飲んでいるか分からない「二重盲検」で行われています。

両群とも、試験前から食事指導と毎日60分の軽い運動の指示を受けました。このため、どちらの群の変化にも生活改善の影響が含まれうると著者らは述べています。食事や運動を守れたかどうかは自己申告で、客観的には測っていません。

主な評価項目は、肝臓の脂肪のたまり具合を推定する「脂肪肝指数(FLI)」と「肝脂肪化指数(HSI)」、インスリンの効きにくさを反映する「TyG指数」の三つです。いずれも、血液検査の値や体格の測定値から計算する指標で、画像検査や組織検査で肝臓の脂肪を直接測ったものではありません。このほか、腹囲、内臓脂肪、肝機能を示す酵素(ALT、AST)、コレステロールや中性脂肪、炎症の目印であるhs-CRPなども探索的に調べました。

主な結果

三つの主要指標のうち、FLIだけが、時間の経過に伴う変化の仕方に群間の差を示しました。ただし統計的には境界線上の結果でした。服用3か月の時点で、FLIの変化は破砕物群がプラセボ群より7.20ポイント大きく低下しました。一方、6か月時点では群間の差は統計的に明らかではなくなりました。HSIは両群とも低下しましたが群間の差はなく、TyG指数にも群間の差は見られませんでした。

探索的な解析では、腹囲が破砕物群でより減少し、プラセボ群との差は3か月時点で1.40cm、6か月時点で1.62cmでした。著者らは、この差は統計的には検出できたものの絶対値としては小さく、臨床的な意味は確認が必要だとしています。また、FLIは腹囲・BMI・中性脂肪などを組み込んで計算する指標です。そのため、FLIと腹囲の結果は互いに独立した証拠とは見なせないと注意しています。

肝機能の指標であるALTとASTは、破砕物群の中では3か月時点で低下しました。しかし、プラセボ群との比較では統計的な差はなく、論文はこれを治療特有の肝保護効果の証拠とは解釈できないとしています。体重、BMI、総コレステロール、中性脂肪、hs-CRPにも群間の差はありませんでした。

安全性については、両群とも重い有害事象はありませんでした。破砕物群では腹痛や腹部膨満、便秘、一時的な下痢などの軽い症状が4人に、プラセボ群では吐き気や胸やけ、一時的な頭痛が3人に見られました。いずれも自然に治まり、発生頻度に群間の差はありませんでした。

研究が示すこと

この試験では、乳酸菌の破砕物を3か月間服用することは良好に受け入れられました。ただし、効果を示す結果は、推定指標の一つであるFLIの境界線上の差と、小さな腹囲の差にとどまりました。著者らは、参加者数が少ないこと、追跡期間が短いこと、肝臓を直接測っていないこと、生活習慣の遵守を客観的に測っていないことなどを限界として挙げています。

論文は、今回の結果は臨床での使用を勧めるものではないとしています。肝臓を直接評価する十分な規模の研究で、このポストバイオティクスをさらに検討する根拠になる、という位置づけです。

原著論文の著者・所属:Maryana Savytska(Physiology Department, Danylo Halytsky Lviv National Medical University, 79010 Lviv, Ukraine)、Yeva Ilkiv(Endocrinology Department, Bogomolets National Medical University, 01601 Kyiv, Ukraine)、Olena Baka(Center for Innovative Medical Technologies, National Academy of Sciences of Ukraine, 04053 Kyiv, Ukraine)、Elina Christian(Endocrinology Department, Bogomolets National Medical University, 01601 Kyiv, Ukraine)、Viktoriia Yerokhovych(Endocrinology Department, Bogomolets National Medical University, 01601 Kyiv, Ukraine)、Dmytro Kyriienko(Kyiv City Clinical Endocrinology Center, 01601 Kyiv, Ukraine)、Tetyana Falalyeyeva(Educational and Scientific Centre “Institute of Biology and Medicine”, Taras Shevchenko National University of Kyiv, 01601 Kyiv, Ukraine; Medical Laboratory CSD, Scientific, 02000 Kyiv, Ukraine)、Pavlo Petakh(Department of Biochemistry and Pharmacology, Uzhhorod National University, 88000 Uzhhorod, Ukraine; KSE Health, Aging and Diseases Center, Kyiv School of Economics, 02000 Kyiv, Ukraine)、Iryna Halabitska(Department of Therapy and Family Medicine, I. Horbachevsky Ternopil National Medical University, 46001 Ternopil, Ukraine)、Oleksandr Kamyshnyi(Department of Therapy and Family Medicine, I. Horbachevsky Ternopil National Medical University, 46001 Ternopil, Ukraine; KSE Health, Aging and Diseases Center, Kyiv School of Economics, 02000 Kyiv, Ukraine)、Liubov Sichel(MirImmunoPharm, 04111 Kyiv, Ukraine; Stellar Biotics, Rockleigh, NJ 07647, USA)、Nazarii Kobyliak(Endocrinology Department, Bogomolets National Medical University, 01601 Kyiv, Ukraine; Medical Laboratory CSD, Scientific, 02000 Kyiv, Ukraine)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Maryana Savytska, Yeva Ilkiv, Olena Baka, et al. Lactobacillus rhamnosus Lysate for Metabolic Dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease: A Randomized Controlled Trial. Medicina 2026-09-30. DOI: 10.3390/medicina62101893. 原著ライセンス:CC BY.