日本関連:この研究は海外機関を中心とする国際共同研究で、日本の研究機関に所属する共著者が参加しています。

掲載誌:Microorganisms

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref

研究の目的と背景

おなかの調子の悩みは、必ずしも病気と診断される段階だけに生じるものではありません。研究チームは、便が軟らかく排便回数が多いものの、下痢と診断される基準には当てはまらない人がいることに着目しました。こうした状態は医学的な診断がつかなくても、本人が感じる生活の質を下げることがあると論文は説明しています。

この研究で使われたのは「ポストバイオティクス」と呼ばれるものです。国際的な学術団体の提案によれば、ポストバイオティクスとは「生きていない微生物やその構成成分の調製物で、宿主に健康上の利益をもたらすもの」を指します。生きた菌を摂るプロバイオティクスとは異なり、菌は加熱などで不活化されています。

今回の対象は、Limosilactobacillus fermentum CNCM I-2998 と Lactobacillus delbrueckii subsp. lactis CNCM I-4831 という2種の菌を共培養し、加熱して不活化した製品(Lactobacillus LB と呼ばれてきたもの)です。著者らによれば、この製品はこれまでに、消化器の病気と診断された子どもや成人の急性・慢性の下痢を和らげ、成人の腹痛を減らす効果が報告されてきました。そこで研究チームは、病気の診断はないけれども排便回数が多く便が軟らかいと自覚している健康な日本人において、このポストバイオティクスが排便回数を減らせるかを確かめることを目的としました。

何をどのように調べたか

研究チームは、無作為化二重盲検プラセボ対照試験という方法をとりました。参加者をくじ引きのように無作為に2つのグループに分け、一方には本物のポストバイオティクス、もう一方は見た目が区別できない偽薬(プラセボ)を摂ってもらいます。そして参加者も評価する側も、どちらを摂っているのか分からない状態で進める方法です。プラセボと比べることで、「摂ったつもり」による変化と本当の効果を切り分けられます。

対象となったのは健康な日本人の成人100人です。参加の条件は、1週間の排便回数が10回以上20回以下と多く、かつ便の半分以上がブリストル便形状スケールでタイプ5(境界がはっきりした軟らかい塊)またはタイプ6(ふぞろいな縁のふわふわした便)に当たることでした。消化器の病気や排便に大きく影響する病気がある人、ローマIV基準で過敏性腸症候群と診断されている人、薬やおなかに働く食品・サプリメントを使っている人などは除かれています。

参加者は4週間にわたり、1日2回、1回1カプセルを水で服用しました。ポストバイオティクス群では1日あたり200億個(20 billion)の不活化菌体を摂ることになります。主要な評価項目は4週間後の1週間あたりの排便回数です。副次的な項目として、1週間のうち排便があった日数、すっきり感、便の形・色・におい・水分量、消化器症状、便中の腸内細菌の構成などが調べられました。参加者は毎日の排便記録をつけ、消化器症状についてはGSRSと出雲スケールという2つの質問票に回答し、便のサンプルも提出しました。安全性については血液検査と尿検査が行われています。

100人のうち97人が4週間の介入を終え、最終来院に参加しました。両グループは性別、年齢、BMIのバランスがとれていたと報告されています。

主な報告結果

開始前の1週間の排便回数は、ポストバイオティクス群が12.3回、プラセボ群が12.5回とほぼ同じでした。介入期間中、排便回数は両グループで徐々に減りましたが、1週目から3週目までは差がありませんでした。4週間後には、ポストバイオティクス群が7.4回、プラセボ群が8.7回となり、ポストバイオティクス群のほうが統計的に有意に少なくなりました。プラセボと比べた差は1週間あたりおよそ1.3回で、論文はこれを「わずかではあるが統計的に有意な減少」と表現しています。

1週間のうち排便があった日数も、開始前は両群とも6.5〜6.6日でしたが、4週間後にはポストバイオティクス群が5.5日、プラセボ群が6.3日となり、3週目と4週目でポストバイオティクス群のほうが少なくなりました。ただし著者らは、副次的な項目については多重性の調整を行っておらず、探索的な観察として慎重に解釈すべきだと述べています。

重要な点として、著者らは排便回数の減少が便秘の方向に傾いたものではなかったと報告しています。便の量が減ることも、硬い便が増えることも、便秘に関する症状が増えることもありませんでした。便の水分量も、介入期間中は両グループで差がありませんでした。論文は、排便を過度に抑えてしまうことが下痢止め薬の既知の問題点であるのに対し、今回はそうした方向への変化は見られなかったと位置づけています。

腸内細菌については、菌の種類の豊富さには両群で差がなく、シャノン多様性指数でポストバイオティクス群が高くなる傾向(p = 0.053)が見られたと報告されています。個々の菌属では有意差のあるものもありましたが、効果の大きさはおおむね小さく、腸内細菌群集全体が一貫して変化したとは認められませんでした。安全性については、試験期間中に有害事象の報告はありませんでした。検査値が基準範囲から外れた人の割合に群間差が見られた項目もありましたが、いずれも資格を持つ試験担当医が臨床的に意味のあるものではないと判断しています。

一方で、質問票による自己申告の結果は方向が一致しませんでした。GSRSと出雲スケールの下痢に関する下位スコアは両群で低下しましたが、4週目にはプラセボ群のほうが低い値でした。著者らはこの食い違いについて、症状の負担がもともと軽い健康な人では症状の感じ方や報告が複雑であること、試験に参加して排便に注意が向くこと自体が症状の申告を増やす可能性があること、GSRSのような尺度がもともと症状のある集団向けに作られていることを挙げ、慎重な解釈を求めています。全体のスコアが悪化したわけではなく、消化器に関する有害事象も増えていないことから、この介入はよく受け入れられたと述べています。

限界としては、無作為化したにもかかわらず便の水分量、胸やけスコア、一部の菌属の相対量に開始時点での群間差があったこと、副次的な多数の評価項目に多重性の調整を行っていないことなどが挙げられています。またプラセボ群でも排便回数が持続的に減っており、著者らは消化器の試験ではプラセボ効果がよく知られていることを指摘し、今回の群間差は背景にあるプラセボ反応を超えたわずかな効果として解釈すべきだとしています。

この研究が示すこと

この研究は、病気と診断されるほどではないけれども排便回数が多く便が軟らかいと感じている健康な成人という、これまであまり検討されてこなかった人たちを対象にしています。著者らによれば、同じポストバイオティクスについての過去の研究は症状のある患者を対象としており、今回の報告はその観察を健康な集団へ広げたものだという点に意義があります。

報告された変化は、薬のように大きく排便を止めるものではなく、便の量や硬さを犠牲にしない範囲での穏やかな減少でした。著者らは、排便のリズムが変わった可能性を示す所見だとしつつ、その性質や程度は直接評価していないと明記しています。作用の仕組みについても、加熱処理した菌体に残る構成成分が腸の細胞や免疫に働きかけるといった生物学的にあり得る仮説は挙げられていますが、今回の試験はそれを直接調べる設計ではなく、現時点のデータから仕組みについて結論は出せないと述べられています。

つまりこの研究が伝えているのは、生きていない微生物の調製物であっても、排便の回数という測定できる腸の働きに対して、プラセボを上回るわずかな変化をもたらしうるということです。同時に、客観的な記録と本人の症状の感じ方が必ずしも一致しないという、健康な人を対象にした研究ならではの難しさも浮かび上がっています。

著者:Nize Otaru(Health, Nutrition & Care (HNC), dsm-firmenich, 4303 Kaiseraugst, Switzerland)、Erik Eckhardt(dsm-firmenich Houdan SAS, 78550 Houdan, France)、Matthew R. Hayward(dsm-firmenich, Lexington, MA 02421, USA)、Tomoya Isaji(NOF CORPORATION, Kawasaki 210-0865, Kanagawa, Japan)、Yuki Kamioka(NOF CORPORATION, Kawasaki 210-0865, Kanagawa, Japan)、Britt Blokker(Health, Nutrition & Care (HNC), dsm-firmenich, 4303 Kaiseraugst, Switzerland)、Gabriel Vinderola(Instituto de Lactología Industrial (Consejo Nacional de Investigaciones Científicas y Técnicas—Universidad Nacional del Litoral), Santa Fe S3000, Argentina)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Nize Otaru, Erik Eckhardt, Matthew R. Hayward, et al. A Postbiotic Containing <i>Limosilactobacillus fermentum</i> CNCM I-2998 and <i>Lactobacillus delbrueckii</i> subsp. <i>lactis</i> CNCM I-4831 Reduces Bowel Movement Frequency in Healthy Adults with Self-Reported Unusually Frequent and Soft Stools. Microorganisms 2026-09-01. DOI: 10.3390/microorganisms14091939. 原著ライセンス:CC BY.