加齢とともに気になりやすくなる口臭。その主な原因は、口の中の細菌が作り出す「揮発性硫黄化合物(VSC)」と呼ばれるガス状の物質だとされています。歯みがきやマウスウォッシュ以外のアプローチとして、口の中の細菌バランスを整える「プロバイオティクス」の活用が注目されつつありますが、高齢者を対象にその効果を確かめた研究はまだ限られています。今回、タイのナレスワン大学歯学部の研究チームが、乳酸菌の一種を使った補給がこうした口臭の指標にどう影響するかを調べ、その結果がサイエンティフィック・リポーツに2026年08月に掲載予定です。
どんな試験が行われたのか
研究の対象となったのは、口臭があると臨床的に診断された高齢者30人(男性6人、女性24人、平均年齢70.5±4.3歳)です。試験は「ランダム化二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験」という手法で行われました。これは、参加者本人にも研究者にも、どちらが本物の製剤でどちらが偽薬(プラセボ)かを分からないようにしたうえで、同じ参加者が期間を分けて両方を試す、信頼性の高い比較方法です。参加者は、Lacticaseibacillus paracasei TISTR 2688という乳酸菌株を含むサプリメントと、プラセボを、それぞれ別の期間中に毎日摂取しました。
効果の判定には、「Oral Chroma™」という機器を使い、口臭の原因とされる3種類のガス(硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイド)の濃度を測定しました。あわせて、歯垢の付き具合を示す「プラーク指数」、歯ぐきの炎症を示す「歯肉指数」、歯ぐきからの出血のしやすさを示す「出血指数」も、試験開始時・7日目・14日目の3回にわたって評価されています。
研究でわかったこと
30人全員が試験を完了しました。プロバイオティクスを摂取した期間では、開始時と比べて14日目にプラーク指数・歯肉指数・出血指数のいずれも統計的に有意な改善がみられたと報告されています。さらに、口臭の原因となる3種類の揮発性硫黄化合物(硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイド)の濃度についても、プロバイオティクス摂取群では7日目・14日目の両方で有意な減少が確認されました。一方、プラセボを摂取した期間ではこうした有意な変化は見られなかったとされています。論文では、この揮発性硫黄化合物の減少幅は小さなものではなく、試験期間を通じて一貫した傾向であったと述べられています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
著者らは、Lacticaseibacillus paracasei TISTR 2688の補給が、高齢者における口腔内の状態の改善や揮発性硫黄化合物の減少と関連していたとしたうえで、この乳酸菌株が口臭対策の補助的な手段として役立つ可能性を示唆しています。ただし、これは30人という比較的小規模な集団を対象にした一つの試験の結果であり、著者ら自身も、より大規模な参加者数と長期の追跡調査を伴う今後の研究が必要だと述べています。口臭の原因や口腔内の状態は個人差も大きいため、この結果がそのまま誰にでも当てはまるかどうかは、今後の研究の積み重ねを待つ必要があります。
まとめ
今回の研究は、特定の乳酸菌株を含むサプリメントの摂取が、高齢者の口臭に関わる揮発性硫黄化合物の濃度や、プラーク・歯肉・出血といった口腔内の指標の変化と関連していたことを、二重盲検のクロスオーバー試験という手法で示したものです。特定の食品や成分が口臭を「治す」と断定するものではなく、あくまで一つの臨床試験として得られた知見であり、今後さらに研究が積み重ねられることが期待されます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Patcharaphol Samnieng, Praweena Sopapornamorn, Suttipalin Suwannakul. Effectiveness of probiotic supplementation in reducing halitosis among older adults: a randomized, double-blind, placebo-controlled crossover trial. サイエンティフィック・リポーツ (2026). DOI: 10.1038/s41598-026-66697-6. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.