日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Food Chemistry

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究のねらい

食品の3Dプリントは、材料をノズルから押し出して層状に積み重ね、形のある食品をつくる技術です。一人ひとりに合わせた食品づくりや、持続可能な製造につながる方法として期待されています。一方で、材料の配合や加工条件によって押し出しが不安定になったり、設計どおりの形が保てなかったりしやすいという課題があります。さらに、品質の評価は多くの場合、印刷が終わった後に製造ラインの外で行われています。

研究チームは、印刷中の材料の成分をその場で把握できれば、品質の管理に役立つと考えました。そこで、押し出しの工程に近赤外分光法を組み込み、材料が積み重ねられている最中に成分をリアルタイムで監視する仕組みを検討しました。近赤外分光法は、物質に近赤外線を当て、どの波長の光がどれだけ吸収されるかから、成分の情報を読み取る手法です。

調べたこと

著者らは、近赤外光が材料を通り抜ける「透過方式」で測定できる専用のノズルを作り、押し出しながら測定できるようにしました。材料には、コーンスターチ(トウモロコシのでんぷん)、海藻由来の増粘・ゲル化成分であるκ-カラギーナン、糖アルコールの一種であるD-ソルビトールを用いました。

これら3つの成分について、それぞれ濃度を変えた系列を別々に用意し、各成分が印刷のしやすさや、できあがった構造の品質にどう影響するかを評価しました。成分の見積もりには、部分最小二乗回帰(PLSR)と呼ばれる統計的な手法を用いています。これは、多数の波長で得られたスペクトルのデータと成分濃度との関係を学習し、測定したスペクトルから濃度を予測するための方法です。構造の評価には、内部を断面として観察できるX線CTも使われました。

主な結果

論文によると、PLSRを使うことで、3つの成分すべてについて、押し出し中の濃度を精度よく予測できたと報告されています。

成分ごとの影響も示されています。コーンスターチでは、試した濃度のうち20.0重量%で、X線CTの代表的な断面において、設計した内部構造が最もはっきり保たれていました。一方、22.0重量%を超えると、本来材料が積まれているはずの部分に意図しない空洞ができるなど、CTで見える不規則さが全体として目立ったといいます。

κ-カラギーナンでは、0.5重量%のとき設計した内部の開口部が最もよく保たれ、0.8重量%を超えると、隣り合って積まれた材料の筋同士がくっついて一体化しやすい傾向が見られました。D-ソルビトールは水分を保つ性質を高めましたが、4.0重量%を超えると、印刷した塔状の造形物が横に傾くのが目で見て分かり、積み重ねた後に自分の形を支える力が弱まったことが示されました。

さらに研究チームは、印刷中にわざと成分濃度を変化させる実験を行いました。その結果、リアルタイムの予測値はこうした濃度の変化を追うことができ、測定値をもとに人が手動で調整を加える操作にも役立ったと報告しています。

この研究が示すこと

著者らは、これらの結果から、でんぷん系食品の3Dプリントにおいて、印刷中の成分をリアルタイムに監視することが実現可能であることが示されたとしています。また、こうした監視は、将来的に自動でフィードバック制御を行うための基礎になると位置づけています。印刷後の検査に頼るだけでなく、つくっている最中に材料の状態を見ながら品質を保つという考え方を、具体的な装置と結果で示した研究だといえます。

原著論文の著者・所属:Shaoyang Gao(Graduate School of Bioagricultural Sciences, Nagoya University, Furo-Cho, Chikusa, Nagoya 4648601, Japan)、Tetsuya Inagaki(Graduate School of Bioagricultural Sciences, Nagoya University, Furo-Cho, Chikusa, Nagoya 4648601, Japan)、Hao Jiang(College of Food Science and Engineering, Northwest A&F University, Yangling, Shaanxi 712100, China)、Satoru Tsuchikawa(Graduate School of Bioagricultural Sciences, Nagoya University, Furo-Cho, Chikusa, Nagoya 4648601, Japan. Electronic address: [email protected])、Te Ma(Graduate School of Bioagricultural Sciences, Nagoya University, Furo-Cho, Chikusa, Nagoya 4648601, Japan. Electronic address: [email protected])

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Shaoyang Gao, Tetsuya Inagaki, Hao Jiang, et al. Integrated in-line transmission NIR monitoring and PLSR-based composition prediction for starch-based 3D food printing. Food Chemistry 2026-08-23. DOI: 10.1016/j.foodchem.2026.150847. 原著ライセンス:CC BY.