この研究は、ニュージーランドの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Sustainable Food Proteins
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を明らかにしようとしたのか
食品の3Dプリントでは、ペースト状の材料をノズルから押し出して積み上げ、立体的な形を作ります。この材料を研究では「インク」と呼びます。植物由来でたんぱく質を多く含むインクは関心を集めていますが、たんぱく質を加えることでインクの流れやすさ・形の保ちやすさ(レオロジー特性)がどう変わり、印刷した形がどれだけ設計どおりに仕上がるか(造形の忠実度)については、分かっていることが限られている、と著者らは述べています。
理由の一つとして著者らが挙げるのは、実際の配合では流動性を高める添加物(フロー・エンハンサー)や安定剤が使われることが多く、それらが小麦やたんぱく質といった主成分そのものの寄与を見えにくくしてしまう点です。そこでこの研究は、こうした添加剤を一切使わない小麦粉とえんどう豆たんぱく質のインク系について、配合・レオロジー特性・印刷性能のあいだの量的な関係を定めることを目的としたと報告されています。
どのように調べたか
著者らは、小麦粉をベースとしたインクにえんどう豆たんぱく質分離物(PPIと略されます。えんどう豆からたんぱく質を取り出して濃縮した素材です)を配合しました。水分含量は全体に対して45%から65%の範囲で変え、PPIは乾燥重量を基準に小麦粉と置き換える形で加え、PPIと小麦粉の比は0対100から35対65までの範囲をとっています。
さらに、温度を20℃から50℃まで変えた条件でもインクの性質と印刷結果を調べ、温度の影響を検討したと報告されています。
主な報告結果
PPIの割合を高めるほど、インクの粘弾性率(押し出された後に自分の形を保つ弾力的な性質の指標)と、せん断を受けた後の粘度が高くなったと報告されています。その結果、インクが自らの重さを支える能力は向上しました。一方で、せん断後に粘度が元へ戻る回復は弱まったとされています。ノズルを通るときインクは強い力で変形(せん断)を受けるため、押し出された直後にどれだけ素早く粘りを取り戻すかは、形の崩れにくさに関わる性質です。
温度を20℃から50℃へ上げた条件では、損失係数(tan δ)が有意に増加し、3Dプリントの忠実度が下がったと報告されています。損失係数は、材料の性質が固体的な弾性寄りか液体的な流れ寄りかを示す指標で、値が大きいほど流れやすい側に傾きます。著者らはこれを、小麦粉−PPIインクが温度に依存することを示すものと位置づけています。
最も高い印刷忠実度が得られたのは、20℃でPPI配合率25%、水分含量が全体の50%という条件だったと報告されています。
この研究が示すこと
著者らは、高たんぱく質インクの3Dプリント忠実度が、粘弾性・せん断後の回復・温度に対する応答という複数の性質の組み合わせによって決まることを、これらの結果が示していると述べています。
また、流動性を高める添加物や安定剤を含まないこの系は、たんぱく質と炭水化物それぞれの成分がインクのレオロジーと印刷適性にどう寄与しているかを見分けるための、条件がはっきりしたモデル系になる、と著者らは位置づけています。配合や温度といった基本的な条件が造形結果に結びつくという関係が、量的に整理された点が報告の中心です。
著者:Chengyi Yang(Department of Food Science University of Otago Dunedin New Zealand)、Sze Ying Leong(Department of Food Science University of Otago Dunedin New Zealand)、Jessie King(Department of Food Science University of Otago Dunedin New Zealand)、Esther H.‐J. Kim(New Zealand Institute for Bioeconomy Science Limited Lincoln New Zealand)、Marco P. Morgenstern(New Zealand Institute for Bioeconomy Science Limited Lincoln New Zealand)、Mei Peng(Department of Food Science University of Otago Dunedin New Zealand)、Kevin H. Sutton(New Zealand Institute for Bioeconomy Science Limited Lincoln New Zealand)、Indrawati Oey(Department of Food Science University of Otago Dunedin New Zealand)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Chengyi Yang, Sze Ying Leong, Jessie King, et al. Wheat‐Based Inks With Pea Protein Incorporation for 3D Printing Free of Flow Enhancers and Stabilizers: Effects on Rheological Properties and Printing Fidelity. Sustainable Food Proteins 2026-09-28. DOI: 10.1002/sfp2.70088. 原著ライセンス:CC BY.