この研究は、タイの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
食べ物や飲み物をうまく飲み込めない状態を「嚥下障害」といいます。脳卒中やパーキンソン病、加齢などさまざまな原因で起こり、低栄養や誤嚥性肺炎などにつながることがあります。嚥下障害のある人向けには、ペースト状などに硬さや形を調整した食事が用いられますが、見た目や食感が単調で食欲がわきにくく、食べる量が減りやすいことが課題とされています。
そこで注目されているのが、ペースト状の食材を層状に積み重ねて形をつくる3Dフードプリンターです。飲み込みやすさを保ちながら、見た目の良い形に仕上げられる可能性があります。ただし、プリンターで使う「フードインク」には、ノズルからなめらかに押し出せること、押し出した後に形が崩れないことなど、特有の性質が求められます。
研究チームが原料に選んだのは、タイ北部で「カイ」と呼ばれ、伝統的に食べられてきた淡水藻(シオグサの一種、Cladophora glomerata)です。生のカイは水分が約90%と傷みやすいため、著者らの以前の研究で50℃で乾燥させた粉末が使われました。しかし、この粉末だけでは立体形状を保てるだけの粘りや弾力が足りません。そこで本研究では、とろみ付けや食感調整に使われる食品素材であるキサンタンガムとコンニャクガム(こんにゃく由来の多糖類)を加え、印刷しやすく、飲み込みやすさの基準にも合うインクの配合を探ることを目的としました。
何を調べたか
研究チームは、カイ粉末に対するキサンタンガムとコンニャクガムの合計量を3〜9%の範囲とし、両者の割合を変えた16通りの配合を用意しました。配合は「応答曲面法」と呼ばれる統計的な実験計画の手法で決められています。これは、少ない試行回数で複数の材料の量と結果との関係を数式で表し、最適な組み合わせを予測するための方法です。
それぞれのインクを市販のフード3Dプリンターで直方体の形に印刷し、主に次の性質を測りました。食感については、硬さ、付着性(べたつき)、凝集性(まとまりやすさ)を機器で測定しました。印刷については、設計どおりの寸法にどれだけ近く仕上がったかを示す「印刷精度」と、冷蔵で24時間置いた後の形の変化(変形率)を調べました。さらに、インクから水がしみ出す「離水」の程度も評価しています。
あわせて、嚥下障害向け食品の基準に照らした評価も行われました。用いられたのは、国際的な嚥下食の分類であるIDDSI(フォークやスプーンを使った簡易試験で判定)、日本の嚥下困難者用食品の許可基準、そして日本の「ユニバーサルデザインフード(UDF)」の区分です。このほか、流動特性や顕微鏡による内部構造の観察も行われました。
主な結果
論文によると、2種類のガムの配合によってインクの性質は大きく変わりました。とくに硬さの差が大きく、キサンタンガムが比較的多く(6〜7%程度)、コンニャクガムが少なめから中程度(2〜3%程度)の配合で硬くなる傾向がみられました。一方、まとまりやすさ(凝集性)はコンニャクガムの割合が高いほど大きくなる傾向があり、著者らはコンニャクガムの保水性やゲルをつくる性質が関わっている可能性を挙げています。
印刷精度はどの配合でも約92〜96%と比較的高く、設計した形に近い仕上がりが得られたと報告されています。冷蔵後の変形率は配合によって差があり、両方のガムを同程度ずつ含む配合(キサンタンガム約4.4%、コンニャクガム約4.1%)では0.2%未満と、形がよく保たれていました。著者らは、2種類のガムが互いに補い合って働いたためと考えています。
統計モデルは、各性質の変動をおおむね85〜98%程度説明できたとされています。そのうえで、合計6%以上のガムを含み、キサンタンガムとコンニャクガムの比が1:2から3:1の範囲にある配合で、印刷精度が94%を超え、評価に用いた3つの嚥下食基準すべてに適合したと報告されました。また、数値計算による最適化では、キサンタンガム5.263%、コンニャクガム3.188%の配合が、目標とした性質を総合的に最もよく満たすと予測されています。
研究が示すこと
この研究は、そのままでは形を保てない淡水藻の粉末でも、キサンタンガムとコンニャクガムの量と割合を調整することで、3Dプリンターで形をつくれ、かつ嚥下障害向けの基準にも沿うインクに近づけられることを示しました。地域で伝統的に食べられてきた藻類を、飲み込みやすさと見た目の両方に配慮した食品づくりに生かすための、配合の手がかりを示した研究といえます。
著者:Yonn Pwint Phyu(Food Science and Technology Program, School of Agro-Industry, Mae Fah Luang University, Chiang Rai 57100, Thailand)、Saroat Rawdkuen(Food Science and Technology Program, School of Agro-Industry, Mae Fah Luang University, Chiang Rai 57100, Thailand)、Nattaya Konsue(Food Science and Technology Program, School of Agro-Industry, Mae Fah Luang University, Chiang Rai 57100, Thailand)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yonn Pwint Phyu, Saroat Rawdkuen, Nattaya Konsue. Formulation Optimization of Cladophora glomerata (Kai)-Based 3D Food Inks Using Xanthan Gum and Konjac Gum for Dysphagia-Friendly Applications. Foods 2026-10-10. DOI: 10.3390/foods15203595. 原著ライセンス:CC BY.