この研究は、イランの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Scientific Reports
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ食事の「パターン」を調べたのか
食生活が心臓や血管、代謝の健康に関わることは広く知られています。しかし研究チームは、実際の食事は多くの食品や栄養素が組み合わさって成り立っているため、単一の栄養素や食品だけを取り上げる従来の方法では全体像をとらえにくいと指摘しています。そこで近年注目されているのが「食事パターン」という考え方です。これは、ふだんよく一緒に食べられている食品のまとまりを統計的に抽出し、食生活全体の傾向として扱う手法です。
著者らは、食事パターンに関する知見の多くが欧米の集団から得られており、中東地域のデータは比較的乏しいと述べています。また、この手法で抽出されるパターンはその集団特有の食文化を反映するため、地域ごとに検討する必要があるとしています。こうした背景から本研究は、イラン南部のカヴァール・コホート研究に参加した、慢性疾患のない成人における主要な食事パターンを特定し、心血管・代謝に関わるリスク指標、とくに血中脂質との関連を調べることを目的としました。
調査の方法
対象は、カヴァール・コホート研究の参加者のうち、見かけ上健康な成人3050人です。平均年齢は約45歳で、53.7%が男性でした。糖尿病、高血圧、心血管疾患、腎不全、脂肪肝と診断された人は、既存の病気が食習慣や検査値に影響する可能性を避けるため、解析から除外されています。
食事の内容は、妥当性が検証済みの半定量食物摂取頻度調査票(ふだん何をどのくらいの頻度で食べるかを尋ねる質問票)で把握しました。得られたデータをもとに、主成分分析という統計手法で食事パターンを抽出し、各参加者がそれぞれのパターンにどの程度当てはまるかを点数化しています。評価した指標は、総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪(トリグリセリド)、空腹時血糖、収縮期・拡張期血圧です。解析では年齢、性別、BMI、身体活動量、喫煙、たばこ製品の使用、飲酒、違法薬物の使用、総エネルギー摂取量の影響を統計的に調整しました。
なお本研究は、ある一時点のデータを横断的に分析した設計です。著者らは、この設計では因果関係を確かめられないこと、質問票による食事調査には思い出しの誤差が伴うこと、また多重比較の調整を行っていないことを限界として挙げています。
報告された主な結果
研究チームは五つの食事パターンを特定し、これらで食事摂取の全体のばらつきの45.8%が説明されたと報告しています。五つは、「混合伝統型」「甘味・飲料型」「動物性・高脂肪型」「精製穀物型」「西洋型/ファストフード型」と名づけられました。
脂質を連続した数値として扱った解析では、動物性・高脂肪型と西洋型/ファストフード型に当てはまる度合いが高い人ほど、総コレステロールとLDLコレステロールの値が高いという関連がみられました。ただし、臨床の基準値で「高コレステロール」かどうかを二分して調べた解析では、この二つのパターンとの有意な関連は認められませんでした。著者らはこの違いについて、値の全体にわたる緩やかな関連が基準値超えの有無という区分には表れなかった可能性、あるいは二分することで統計的な検出力が下がった可能性を挙げています。
一方、混合伝統型については、連続値の解析と二分した解析の両方で総コレステロールおよびLDLコレステロールとの正の関連が認められました。このパターンには野菜、果物、豆類、ナッツに加えて、乳製品や塩気の強い食品も含まれており、著者らは飽和脂肪やナトリウムの摂取量が増えることで植物性食品の利点が打ち消された可能性を考察しています。あわせて、「伝統的」という名前は必ずしも健康に良いパターンを意味せず、影響は構成食品全体の組み合わせによって決まると述べています。
甘味・飲料型では、中性脂肪との逆の関連(当てはまる度合いが高いほど値が低い)が観察されました。著者らはこれを通常の予想に反する結果として扱い、このパターンに紅茶やコーヒーの多量摂取が含まれること、甘い食品の申告漏れの可能性、多数の検定を行ったことによる偶然の所見の可能性を挙げ、慎重な解釈を求めています。精製穀物型については、いずれの指標とも有意な関連はみられませんでした。また、五つのパターンはいずれも空腹時血糖と有意な関連を示しませんでしたが、著者らはこれを、代謝疾患のある人を除外したために血糖値のばらつきが小さくなった設計上の影響が考えられると説明しています。
この研究が示すこと
この研究は、イラン南部の成人という特定の集団において、食生活の全体的な傾向が血中脂質の水準と結びついていることを示しました。とくに注目されるのは、動物性・高脂肪型や西洋型/ファストフード型といった予想通りのパターンだけでなく、「伝統的」と名づけられたパターンもコレステロール値の高さと関連していたという点です。著者らは、心血管・代謝への影響はパターンの名前や中心となる食品だけでは決まらず、そのパターンを構成するすべての食品群の組み合わせによって左右されると結論づけています。食事と健康の関係を読み解くには、食生活の全体像を見る必要があるということです。
著者:Armin Ebrahimzadeh(Gastroenterohepatology Research Center, Shiraz University of Medical Sciences, Shiraz, Iran)、Ali Reza Safarpour(Gastroenterohepatology Research Center, Shiraz University of Medical Sciences, Shiraz, Iran)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Armin Ebrahimzadeh, Ali Reza Safarpour. Dietary patterns and lipid profiles among Iranian adults: a cross-sectional analysis of the Kavar cohort study. Scientific Reports 2026-09-18. DOI: 10.1038/s41598-026-72150-5. 原著ライセンス:CC BY.