日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

2型糖尿病の治療では食事の見直しが基本です。しかし、食べ物の好みや味の感じ方が食事の選び方に影響するため、食事療法を長く続けるのは難しいとされています。著者らによると、2型糖尿病の患者さんは糖尿病のない人に比べて甘味を感じにくい傾向があると報告されています。また、肥満のある人は脂肪の多い食品や甘い食品など、エネルギーの高い食品を好む傾向があることも知られています。一方で、こうした好みを変える実践的な方法はまだ限られています。

だしは昆布、煮干し、しいたけなどからとる和食の基本で、うま味成分のグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸を含みます。これらは組み合わさることで、うま味を互いに強め合います。これまでの研究は、うま味調味料の成分であるグルタミン酸ナトリウムを単独で調べたものが中心でした。食事の前にだしを飲むという日常的な方法が2型糖尿病の人の食の好みに影響するかどうかは、調べられていなかったといいます。そこで研究チームは、食前のだし摂取を続けられるかどうか(実施可能性)と、それが食の好みや甘味の感じ方に影響するかを確かめるため、予備的な試験を行いました。

どのように調べたか

対象は大阪大学医学部附属病院に通院する2型糖尿病の成人です。参加者をくじ引きのような方法(ランダム化)で2群に分け、4週間比較しました。だし群は、粉末だし2.5グラムを約50ミリリットルのお湯に溶かしたものを朝食前と夕食前に飲みました。お湯群は、同じ量のお湯だけを同じタイミングで飲みました。どちらの群に割り当てられたかは、参加者にも味覚を評価する担当者にも分かる形(オープンラベル)で実施されました。

最も重視した評価項目は「甘味の閾値(いきち)」の変化です。これは、薄い砂糖水から順に口に含み、甘いと正しく分かった最も低い濃度のことで、値が低いほど甘味を敏感に感じ取れることを意味します。このほか、著者らが開発した日本人向けの食の好み質問票を用いて、炭水化物の多い食品や脂肪の多い食品などをどの程度好むかを0〜100の尺度で評価しました。塩味やうま味の感じ方、血液検査の値、体組成、食事内容も調べました。最初の4週間の後、両群は飲むものを入れ替えてさらに4週間続けましたが、前の期間の影響が残る可能性があるため、この後半の結果は記述的にまとめるにとどめています。

当初は40人の参加を計画していました。しかし募集が予定より進まず、実際にランダム化されたのは20人(各群10人)でした。そのため著者らは、この研究を予備的な試験と位置づけ、効果に関する分析はすべて探索的なものとして扱っています。

主な結果

4週目の評価を終えたのは20人中18人(90%)で、だしを指示どおり飲めた割合は97%でした。8週間の研究期間中に有害事象は起きませんでした。

主な評価項目である甘味の閾値の変化について、両群の差は1リットルあたりマイナス5.2グラムでした。この差は統計的に意味のある差ではなく(p=0.19)、お湯に比べてだしが優れていることは示されませんでした。

探索的な分析では、だし群の中で、甘くない脂肪の多い食品と甘い炭水化物食品への好みの点数が、4週間でいずれも約11点下がっていました。ただし、お湯群と比べた差はそれぞれ約11点、約8点で、統計的に意味のある差ではありませんでした。また、開始時に甘味を感じにくかった人のうち、正常な範囲まで改善したのは、だし群では5人中3人、お湯群では4人中0人でした。この差も統計的には意味のあるものではなく(p=0.17)、人数が非常に少ないため慎重に解釈すべきだとしています。血液検査の値、体組成、食事内容には、4週間で統計的に意味のある変化はみられませんでした。

著者らは解釈上の注意点も挙げています。参加者数が少ないこと、どちらの群かを参加者と評価者が知っていたため期待が結果に影響しうること、お湯は香りや味の点でだしと条件がそろっていないため、うま味そのものの効果を切り分けられないこと、そして味覚検査を繰り返すことで検査に慣れた影響がありうることです。

この研究が示すこと

この研究では、食前にだしを飲む方法は参加者が無理なく続けられることが示されました。一方で、甘味の感じ方や食の好みについて、お湯を上回る効果は確認されていません。だし群で見られた好みや甘味の感じ方の変化は、治療効果の証拠ではなく、今後確かめるべき仮説を生む手がかりとして位置づけられています。著者らは、これらの変化が本当にあるのかを確かめるには、より大規模で独立した試験による確認が必要だとしています。

原著論文の著者・所属:Akiko N. Beppu(Department of Metabolic Medicine, Graduate School of Medicine, The University of Osaka)、Kento Mitsushio(Department of Metabolic Medicine, Graduate School of Medicine, The University of Osaka)、Megu Y. Baden(Department of Lifestyle Medicine, Graduate School of Medicine, The University of Osaka; Department of Metabolic Medicine, Graduate School of Medicine, The University of Osaka)、Takuya Kagisaki(Department of Metabolic Medicine, Graduate School of Medicine, The University of Osaka)、Sarasa Kato(Department of Metabolic Medicine, Graduate School of Medicine, The University of Osaka)、Tomomi Horii(Department of Lifestyle Medicine, Graduate School of Medicine, The University of Osaka; Department of Metabolic Medicine, Graduate School of Medicine, The University of Osaka)、Chisaki Ishibashi(Department of Metabolic Medicine, Graduate School of Medicine, The University of Osaka)、Yoshiya Hosokawa(Department of Metabolic Medicine, Graduate School of Medicine, The University of Osaka)、Yuya Fujishima(Department of Metabolic Medicine, Graduate School of Medicine, The University of Osaka)、Junji Kozawa(Department of Diabetes Care Medicine, Graduate School of Medicine, The University of Osaka; Department of Metabolic Medicine, Graduate School of Medicine, The University of Osaka)、Hitoshi Nishizawa(Department of Metabolic Medicine, Graduate School of Medicine, The University of Osaka; Department of Metabolism and Atherosclerosis, Graduate School of Medicine, The University of Osaka)、Yusuke Furuya(Cancerscan, Inc, Tokyo, Japan)、Akio Yonekura(Cancerscan, Inc, Tokyo, Japan)、Takatoshi Yamashita(Kubara Honke Group Co., Ltd, Fukuoka, Japan)、Taro Kawabe(Kubara Honke Group Co., Ltd, Fukuoka, Japan)、Iichiro Shimomura(Department of Metabolic Medicine, Graduate School of Medicine, The University of Osaka)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Akiko N. Beppu, Kento Mitsushio, Megu Y. Baden, et al. Effects of pre-meal dashi consumption on food preferences and sweet taste sensitivity in patients with type 2 diabetes: a pilot randomized controlled trial. Frontiers in Nutrition 2026-10-28. DOI: 10.3389/fnut.2026.1903008. 原著ライセンス:CC BY.