著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref

研究の目的:動物で示された茶の働きを人で確かめる

糖尿病、肥満、脳卒中、心臓病などをまとめた「心代謝疾患」は、世界で慢性疾患による病気や死亡の主な原因です。その予防と管理では食事の工夫が基本とされています。ただし食習慣は地域ごとに大きく違うため、その土地の食生活になじむ食品を見つけることが課題になっています。

研究チームが注目したのは、中国の後発酵茶「茯磚茶(ふくせんちゃ)」です。茯磚茶は16世紀の明代に陝西省で生まれ、中国北部や西部の国境地域に暮らす人々が日常的に飲んできました。製造の途中で「金花」と呼ばれる黄色いカビを茶葉の中で育てる工程が特徴で、その主な菌はユーロチウム・クリスタタムです。緑茶のような発酵させない茶と比べると、ポリフェノールが少なく、多糖類が多いとされています。

動物実験では、茯磚茶が腸内細菌の構成を変えることを通じて、脂質の低下など心代謝の健康に良い作用を示すと報告されてきました。しかし、人を対象としたランダム化比較試験による確かな証拠はありませんでした。そこで著者らは、健康な成人が茯磚茶を毎日飲むと、血中脂質、血管の働き、腸内細菌がどう変わるかを12週間の試験で調べました。

調べた方法:茶を飲むグループとお湯を飲むグループを比較

試験は2021年9月から11月にかけて、中国北部の農村地域で行われました。参加者は20〜65歳の健康な男女120人です。高血圧や糖尿病などの持病がある人、抗菌薬やプロバイオティクスを最近使った人、習慣的に茶を飲む人などは対象から外しました。参加者はくじ引きに相当する方法で、茯磚茶を飲むグループと対照グループに60人ずつ分けられました。

茶のグループは、6グラムの茶葉が入ったカプセルを専用の装置で淹れた茶300ミリリットルを1日2杯(茶葉で1日12グラム分)、12週間飲みました。対照グループは同じ量のお湯を飲みました。両グループとも普段どおりの食事と運動を続けるよう指示されています。なお、参加者自身はどちらのグループかを知っている「非盲検」の設計です。

開始時と12週後に、血液中のコレステロールや中性脂肪を測りました。血管の働きは2種類の検査で評価しています。一つは、腕を血圧計の帯でしばらく締めて開放したとき、急に増える血流に反応して動脈がどれだけ広がるかを見る「血流依存性血管拡張反応(FMD)」で、血管の内側を覆う内皮細胞の働きを反映します。もう一つは、ニトログリセリンを舌の下に含んだときの動脈の広がりを見る「ニトログリセリン誘発性血管拡張反応(NMD)」で、内皮を介さない血管の反応を調べるものです。さらに開始時、6週後、12週後の便を集め、便に含まれる遺伝子をまとめて読み取る「メタゲノム解析」で腸内細菌の種類と構成を調べました。

途中で10人が離脱し、最後まで参加した110人(各グループ55人)のデータが解析されました。食事記録や身体活動の調査では、期間中にグループ間で目立った違いや変化は見られなかったと報告されています。

主な結果:悪玉コレステロールの低下と血管の広がりやすさの改善

茶のグループでは、いわゆる悪玉コレステロールであるLDLコレステロールが12週間で平均0.36ミリモル/リットル下がりました。対照グループでははっきりした変化がありませんでした。年齢、性別、飲酒、喫煙を考慮して時間による変化をグループ間で比べた解析でも、茶のグループの低下は対照より有意に大きく、その差は0.40ミリモル/リットルでした。一方、総コレステロール、中性脂肪、HDLコレステロールについては、グループ間の変化の違いは統計的に有意ではありませんでした。

血管の働きでは、茶のグループのFMDが平均5.45ポイント、NMDが平均5.35ポイント上昇しました。対照グループではどちらも有意な変化はありませんでした。グループ間の比較でも、茶のグループの改善は有意に大きいと報告されています。開始時のFMDは茶のグループのほうが低めでしたが、開始時の値をそろえて比べる追加の解析でも差は残りました。著者らは、この改善は開始時の偏りでは説明できないと述べています。

腸内細菌については、一人の腸内にいる細菌の種類の多さや偏りの少なさ(アルファ多様性)に変化はありませんでした。一方、人と人の間で比べた細菌の全体的な構成(ベータ多様性)には、6週後と12週後にグループ間で小さいながらも統計的に検出できる違いが現れました。

種のレベルでは、茶のグループで、短鎖脂肪酸という物質を作る細菌(ロゼブリア・ホミニス、ブラウティア・ステルコリスなど)や、ラクトバチルス・アミロリティカスが増える傾向が見られました。これらの細菌は脂質の値や血管の働きと相関していたと報告されています。ただし、多数の種を同時に検定したことを補正すると、どの種の差も統計的な有意性を保ちませんでした。そのため著者ら自身が、これらは探索的な結果として受け止めるべきだとしています。腸内細菌が持つ代謝経路の分析も同様に、探索的な位置づけです。

この研究が示すこと

この研究は、動物実験が中心だった茯磚茶の研究に、人を対象とした比較試験のデータを加えたものです。健康な成人が12週間毎日茯磚茶を飲んだところ、お湯を飲んだ場合と比べてLDLコレステロールが下がり、血管の広がりやすさを示す指標が改善しました。腸内細菌の全体的な構成にもわずかな変化が見られました。

ただし、この試験は参加者数を事前の計算ではなく実施可能性に基づいて決めた予備的な研究で、参加者は自分が茶を飲んでいることを知っていました。また、腸内細菌の変化と脂質や血管の改善との結びつきは相関として観察されたもので、細菌の変化が改善をもたらしたとまでは示されていません。著者らは、茯磚茶を毎日飲むことは手軽で取り入れやすい食習慣の選択肢になりうると結論づけています。今回の結果は、その可能性を人のデータで初めて裏づける一歩と位置づけられます。

著者:Fuqiang Liu(Department of Cardiovascular Medicine, Shaanxi Provincial People's Hospital, Xi’an, China)、Fuqiang Liu(Key Laboratory of Integrated Traditional Chinese and Western Medicine for Atherosclerosis, Research Office of Shaanxi Administration of Traditional Chinese Medicine, Xi’an, China)、Ying Lv(Department of Cardiovascular Medicine, Shaanxi Provincial People's Hospital, Xi’an, China)、Ying Lv(Key Laboratory of Integrated Traditional Chinese and Western Medicine for Atherosclerosis, Research Office of Shaanxi Administration of Traditional Chinese Medicine, Xi’an, China)、Ting Wang(Department of Cardiovascular Medicine, Shaanxi Provincial People's Hospital, Xi’an, China)、Ting Wang(Key Laboratory of Integrated Traditional Chinese and Western Medicine for Atherosclerosis, Research Office of Shaanxi Administration of Traditional Chinese Medicine, Xi’an, China)、Chune Li(Center for Brain Science, The First Affiliated Hospital of Xi’an Jiaotong University, Xi’an, China)、Chune Li(Center for Translational Medicine, The First Affiliated Hospital of Xi’an Jiaotong University, Xi’an, China)、Yudan Zhang(Center for Brain Science, The First Affiliated Hospital of Xi’an Jiaotong University, Xi’an, China)、Yudan Zhang(Center for Translational Medicine, The First Affiliated Hospital of Xi’an Jiaotong University, Xi’an, China)、Lin Liu(Department of Cardiovascular Medicine, Shaanxi Provincial People's Hospital, Xi’an, China)、Lin Liu(Key Laboratory of Integrated Traditional Chinese and Western Medicine for Atherosclerosis, Research Office of Shaanxi Administration of Traditional Chinese Medicine, Xi’an, China)、Xin Hu(Key Laboratory of Fu Tea Processing and Utilization, Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Xianyang, Shaanxi, China)、Yan Liang(Key Laboratory of Fu Tea Processing and Utilization, Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Xianyang, Shaanxi, China)、Feng Zhu(Center for Brain Science, The First Affiliated Hospital of Xi’an Jiaotong University, Xi’an, China)、Feng Zhu(Center for Translational Medicine, The First Affiliated Hospital of Xi’an Jiaotong University, Xi’an, China)、Junkui Wang(Department of Cardiovascular Medicine, Shaanxi Provincial People's Hospital, Xi’an, China)、Junkui Wang(Key Laboratory of Integrated Traditional Chinese and Western Medicine for Atherosclerosis, Research Office of Shaanxi Administration of Traditional Chinese Medicine, Xi’an, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Fuqiang Liu, Fuqiang Liu, Ying Lv, et al. Daily consumption of Fuzhuan brick tea improves lipid profile and vascular function associated with modulation in gut microbiota composition in healthy adults: a pilot randomized controlled trial. Frontiers in Nutrition 2026-09-01. DOI: 10.3389/fnut.2026.1827773. 原著ライセンス:CC BY.