著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Open Access Journal of Gerontology & Geriatric Medicine
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ジアシルグリセロール(DAG)油は、体脂肪、特に内臓脂肪の蓄積を抑えると報告されてきた機能性の食用油です。一般的な食用油の主成分であるトリアシルグリセロール(TAG)が、グリセロールという骨格に脂肪酸が3本結合した形なのに対し、DAGは2本だけが結合した形をしています。著者らは、これまでのランダム化比較試験で体脂肪に関する効果が比較的一貫して報告されている一方、血中脂質への効果は研究によって結果が分かれることも紹介しています。また、こうした試験の対象は主に中年や過体重の成人で、高齢者に限った比較試験の証拠はまだないとしています。
こうした油が日常の調理に使われるようになっても、揚げ物に使ったときの劣化や安全性を体系的に調べたデータは乏しいのが現状です。DAGは分子内に脂肪酸の結合していない部分(遊離のヒドロキシ基)が多いため、長時間加熱すると加水分解が進みやすいと理論的に考えられてきました。研究チームはこの点に着目し、パーム油を原料とするDAG油を厳しい条件で揚げ調理に使い、中国の国家規格が定める廃棄基準と比べて、実際の使用期間内に安全上の問題が生じるかを確かめました。著者らは、従来の油より優れていると示すことではなく、安全に使える範囲を根拠に基づいて示すことが目的だと述べています。
どのように調べたか
試験に用いたのはDAGを約40%含むパーム系DAG油で、比較対象には揚げ油として広く使われている通常のパーム油を用いました。どちらの油も、トコフェロール(ビタミンEの仲間)系の酸化防止剤を含んでいます。2.8キログラムの油を約190℃に保ち、湯通しして水気を拭いたジャガイモの薄切りを1回3分ずつ繰り返し揚げました。2時間ごとに200グラムの油を取り出して測定に回し、同じ量の新しい油を足すだけにとどめました。研究チームは、この補充の少ないやり方を、通常の飲食店での使い方より劣化が速く進む加速条件と位置づけています。揚げ続けた時間は、現在の飲食店で油を交換せずに連続使用する最長時間とされる8時間です。
主な判定の指標には「酸価」を用いました。酸価は、油が分解してできる遊離脂肪酸の量を示す値です。中国の食品安全国家標準GB 2716-2018は、揚げ油の酸価が1グラムあたり水酸化カリウム5ミリグラム(5 mg KOH/g)に達したら廃棄するよう定めています。補助的な指標として、油の酸化が進んだ段階で生じる物質の量を表す「p-アニシジン価」も測りました。なお、揚げ油の評価によく使われる「極性化合物」という指標は、DAG自体が極性化合物として数えられてしまい、DAG油では値が実際より高く出るため、この研究では使っていません。
主な結果
揚げる時間が長くなるにつれて、どちらの油も酸価が上がりました。8時間後、パーム油は0.30から0.77 mg KOH/gに、DAG油は0.75から1.35 mg KOH/gに上昇しました。DAG油はもともとの値が高く、上がり方も急で、加水分解が進みやすいという予想と一致していました。ただし、8時間を通じて両方の油とも廃棄基準の5 mg KOH/gを大きく下回っていました。DAG油の最高値でも基準の約27%にとどまり、韓国が使用済み揚げ油に採用しているより厳しい基準値2.5 mg KOH/gも下回っていました。
一方、p-アニシジン価は両方の油で大きく上昇しました。8時間後の値は、パーム油が83.82、DAG油が136.32で、後半はDAG油のほうが高くなりました。著者らは、一般に使われているパーム油でも同じように急な上昇が見られたことから、酸化の進行には主に加速条件の厳しさが影響しているとみています。また、DAG油と通常の油の揚げ調理での比較では酸化の指標に大きな差がなかったとする先行研究も挙げています。ただし、GB 2716-2018にはp-アニシジン価の基準がないため、この値は2つの油の酸化の程度を比べるためだけに使い、基準を満たすかどうかの判定は酸価で行っています。
この研究が示すこと
著者らは、DAG油が通常の油より加水分解しやすいこと自体は認めたうえで、重要なのは使用が許される期間内に到達する酸価の水準だと述べています。今回の厳しい条件でも、DAG油の酸価は規制基準に対して十分な余裕を保ち、一般的なパーム油と同じく基準を満たす範囲に収まりました。研究チームはこの結果をもとに、DAG系の揚げ油を使える安全の範囲を示すことができ、高齢者を含め揚げ物を食べる人の食事に、体脂肪の面で役立つ機能性の揚げ油として使えることを支持すると結論づけています。
同時に、著者らはいくつかの限界も挙げています。今回の条件は通常の調理より厳しく、揚げた食材もジャガイモ1種類だけでした。そのため、通常の使い方では数値が異なると考えられます。また、測定したのは酸価とp-アニシジン価だけで、加工中に生じうる汚染物質(3-MCPDエステルやグリシジルエステル)は別に評価する必要があります。さらに、DAGの体脂肪に関する効果は主に過体重などの一般成人での研究に基づくもので、高齢者にそのまま当てはめるには慎重さが必要だとしています。今回の研究は、揚げ油としてのDAG油について、規制された指標の上では通常の油と同じ範囲で使えることを、具体的な数値で示したものといえます。
原著論文の著者・所属:Bian Wu*、Yanan Shi(INNOBIO Corporation Limited, Dalian, Liaoning, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Bian Wu*, Yanan Shi. A Fat-Reducing Diacylglycerol Edible Oil and Its Deep-Frying Stability. Open Access Journal of Gerontology & Geriatric Medicine 2026-08-05. DOI: 10.19080/oajggm.2026.09.555774. 原著ライセンス:CC BY.