著者の所属・活動拠点の国は、中国、タイです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的:のみ込みやすく、栄養もとれるゲル食品を目指して
食べ物をうまくのみ込めない「嚥下障害」のある人は、誤って食べ物が気管に入る誤嚥を防ぐため、ピューレ状の食事やとろみをつけた飲み物に頼ることが多くあります。しかし、こうした食事は見た目が単調になりやすく、食欲や食事を続ける意欲を下げることがあると著者らは指摘しています。高齢者では、食べにくさと食欲の低下が重なると、エネルギーや栄養素が不足しやすくなります。
そこで研究チームが注目したのが、見た目や食感を調整しやすいゲル状の食品です。原料には、中国で広く養殖される淡水魚のハクレン(シルバーカープ)と、マナマコを使いました。ナマコは本来かたい食感のため、そのままでは嚥下障害のある人には向きません。著者らは、両者を組み合わせることでアミノ酸を補い合い、食感を整え、価値の低い原料も活用できると考えました。
研究の目的は、このハクレン・ナマコ複合ゲルに、こんにゃくの主成分である多糖「コンニャクグルコマンナン(KGM)」、または食物繊維の一種「イヌリン(INU)」を加えたとき、食感・のみ込みやすさ・消化のされ方がどう変わるかを明らかにすることです。
何を調べたか:食感の測定から模擬消化まで
研究チームは、ハクレンのすり身とナマコのペーストを7対3の割合で混ぜ、そこにKGMまたはイヌリンを0%、0.5%、1.0%、1.5%の濃度で加えました。これを円筒形の容器に詰めて90℃で30分加熱し、ゲルを作りました。
でき上がったゲルについて、かたさ・まとまりやすさ・付着しやすさなどを機械で測る食感分析、流れやすさや弾性を調べる測定、赤外線を使って分子どうしの結びつき方を調べる分析を行いました。さらに、嚥下食の国際的な分類基準であるIDDSI(国際嚥下食標準化イニシアチブ)の枠組みに沿って、フォークやスプーンを使った簡易試験でゲルを評価しました。
消化については、試験管内で胃と腸の消化を再現する「模擬消化」を、成人モデルと高齢者モデルの2通りで行いました。高齢者モデルでは消化酵素の濃度を低くし、胃の酸性度を弱め、腸での消化時間を長くするなど、加齢による消化機能の変化を反映させた条件を用いています。消化後の液については、消化率、アミノ酸の組成、抗酸化性を示す複数の指標も測定しました。
主な結果:KGMとイヌリンで異なる効果
KGMを加えると、ゲルのかたさは大きく下がりました。何も加えないゲルが最もかたく(0.333ニュートン)、1.0%のKGMを加えたゲルが最もやわらかい値(0.036ニュートン)でした。KGMを加えたゲルはやわらかすぎて、押しつぶした後に元の形に戻る性質(弾力性)が測定できないほどでした。一方、ゲル内部のまとまりやすさを示す値は上がり、食べ物が口の中でばらけにくくなる方向の変化でした。ただし、かむのに必要な力を示す咀嚼性はKGMで高くなっており、著者らは、KGMを加えすぎるとかむ負担が増える可能性にも触れています。イヌリンは、かたさにはっきりした影響を与えませんでした。
IDDSIの枠組みによる評価では、KGMを含むゲルは「レベル4(ピューレ状・非常に濃いとろみ)」、KGMを含まずイヌリンを加えたゲルは「レベル6(やわらかく一口大)」に分類され、著者らはどちらものみ込みに適した性質を示したと報告しています。一方で、KGMはゲルの色を暗くし、スプーンに食べ物が残りやすくなったことから、誤嚥のリスクを高めるおそれがあると論文は述べています。イヌリンを加えたゲルは色が明るく、スプーンへの残りも少なくなりました。
模擬消化では、成人モデルで、すべてのゲルの腸での消化率が90%を超えました。胃での消化率は、何も加えないゲルと1.0%イヌリンのゲルで低く、KGMを加えたゲルなどで高い傾向がみられ、この傾向は高齢者モデルでも共通していました。高齢者モデルの腸での消化率は、何も加えないゲルが、KGMやイヌリンを加えたゲルより高くなりました。
消化後の液には7種類の必須アミノ酸が含まれ、とくにリシンとグルタミン酸が多く含まれていました。また、消化液では試験管内で測る複数の抗酸化性の指標が高まりました。たとえば高齢者モデルの腸での消化液では、1.0%と1.5%のKGMを加えたゲルの鉄イオンを捕まえる能力が、何も加えないゲルの約2.5倍でした。著者らは、こうした変化を、消化の過程で短いペプチドなどが生じることと関連づけています。
この研究が示すこと
この研究は、同じ魚とナマコのゲルでも、加える多糖の種類と量によって、かたさ・まとまりやすさ・嚥下食としての分類・消化のされ方が変わることを示しました。KGMは大きくやわらかくする一方で、かむ負担や色、スプーンへの残りといった面で課題も伴い、イヌリンは見た目や扱いやすさの面で異なる特徴を持つという違いが浮かび上がっています。
なお、論文自身が限界として明記しているとおり、今回の消化の評価は試験管内の模擬消化にとどまり、嚥下障害のある高齢者が実際にのみ込めるかや、体内で栄養がどれだけ吸収されるかは調べられていません。抗酸化性も試験管内の測定値です。そのうえでこの研究は、嚥下障害のある人に向けて、食感と栄養の両面を考えたゲル食品を設計するための基礎的な手がかりを示したものといえます。
原著論文の著者・所属:Jingyi Huo(College of Food Science and Engineering, Dalian Ocean University, Dalian 116023, China)、Meiduo Xue(College of Food Science and Engineering, Dalian Ocean University, Dalian 116023, China)、Shengjun Chen(Key Laboratory of Aquatic Product Processing, Ministry of Agriculture and Rural Affairs, South China Sea Fisheries Research Institute, Chinese Academy of Fishery Sciences, Guangzhou 510300, China)、Yangli Chen(College of Food Science and Engineering, Dalian Ocean University, Dalian 116023, China)、Yumeng Wei(College of Food Science and Engineering, Dalian Ocean University, Dalian 116023, China)、Lijuan Xu(College of Food Science and Engineering, Dalian Ocean University, Dalian 116023, China)、Meng Li(College of Food Science and Engineering, Dalian Ocean University, Dalian 116023, China)、Xinru Fan(College of Food Science and Engineering, Dalian Ocean University, Dalian 116023, China)、Soottawat Benjakul(International Center of Excellence in Seafood Science and Innovation, Faculty of Agro-Industry, Prince of Songkla University, Hat Yai 90110, Thailand)、Qiancheng Zhao(College of Food Science and Engineering, Dalian Ocean University, Dalian 116023, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jingyi Huo, Meiduo Xue, Shengjun Chen, et al. Effects of Konjac Glucomannan and Inulin on the Gel Properties, Swallowing Characteristics, and In Vitro Digestion of Heat-Induced Silver Carp–Sea Cucumber Composite Gels for Dysphagia. Foods 2026-09-28. DOI: 10.3390/foods15193471. 原著ライセンス:CC BY.