著者の所属・活動拠点の国は、パナマです。
掲載誌:Beverages
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的:飲む前ではなく「消化した後」を調べる
健康志向の高まりで、果物を使った機能性飲料の開発が進んでいます。ただし著者らは、飲料の価値は含まれる成分の量だけでは決まらず、消化された後にどれだけ吸収されうる状態で残るかが重要だと指摘しています。この「消化後に食品から溶け出し、吸収されうる状態になる割合」をバイオアクセシビリティ(生体利用可能性の前段階の指標)と呼びます。
研究チームは、パイナップル、青リンゴ、ショウガ、シナモンを使った飲料を設計しました。パイナップルにはフェノール酸やフラボノイド、シナモンにはプロアントシアニジン、ショウガにはジンゲロールやショウガオールといった成分が含まれます。これらの材料はパナマで一年中手に入り、比較的安価なことも選んだ理由として挙げられています。
この飲料をもとに3種類の配合を作りました。F1は追加成分なし、F2は水溶性食物繊維のイヌリンを加えたもの、F3はイヌリンに加えて、糖アルコールの一種であるミオイノシトールも加えたものです。研究の目的は、これら3配合の抗酸化能とバイオアクセシビリティを、模擬消化の前後で比べることでした。
どのように調べたか
消化の再現には、国際的に標準化された試験管内の消化モデル(INFOGEST)を研究室の条件に合わせて調整して用いました。口、胃、小腸に相当する段階を順に、消化液と消化酵素を加えて体温に近い37℃で処理します。
抗酸化性は、性質の異なる3つの方法で測りました。フェノール化合物などの還元力をみるフォーリン・チオカルト法、特定のラジカル(不安定で反応しやすい分子)を消す力をみるABTS法、鉄を還元する力をみるFRAP法です。消化前と消化後の値の比を百分率にしたものをバイオアクセシビリティとしました。
なお、飲料は炭酸飲料として設計されましたが、泡が測定を妨げるため、分析はすべて炭酸を含まない試料で行われました。
主な結果:測定法と配合で答えが変わる
飲料の基本的な性質では、3配合ともpHは3.61で変わりませんでした。一方、糖度の目安となる可溶性固形分はF1からF3へと高くなりました。食物繊維量はF3で特に高く(100mLあたり0.83g、F2は0.10g)、F2とF3のイヌリン量は同じであるため、著者らはミオイノシトールが分析時の繊維の回収に影響した可能性を挙げています。
フォーリン・チオカルト法では、消化前はイヌリンを加えたF2とF3の値が高かったものの、消化後は3配合とも同程度に下がりました。消化後に残った割合は、F1が約95%だったのに対し、F2は約33%、F3は約39%にとどまりました。
ABTS法では逆に、消化後に値が上がり、バイオアクセシビリティは125〜143%と100%を超えました。著者らは、消化によって食物繊維などに結合していた成分が放出されたり、より反応しやすい形に変化したりした可能性を挙げています。ただし、消化酵素そのものが測定に反応した可能性があり、それを差し引くための対照(飲料の代わりに水を消化する試験)を設けていなかったため、この値は慎重に解釈すべきだとしています。
FRAP法では、消化後に残った割合はF1で約4.6%と低く、F2とF3では約11%と、イヌリンなどを加えた配合のほうが高い結果でした。このように、同じ飲料でも測定法によって消化後の姿は大きく異なりました。
この研究が示すこと
著者らは、消化後の抗酸化反応は測定法と配合によって大きく変わり、一つの方法だけでは複雑な飲料の機能を表しきれないと結論づけています。また、イヌリンやミオイノシトールの添加が消化後の挙動に与える影響は、消化前の成分からは予測できなかったとしています。
一方で、試験管内の消化モデルは実際の体内での吸収までは再現しておらず、得られた値は吸収された量ではなく溶け出した量の推定です。ミオイノシトールのみを加えた配合は作られていないため、その単独の効果も区別できていません。
それでも、機能性飲料の開発では原料の抗酸化性を測るだけでなく、消化を模した条件で最終製品を評価する必要がある、というのがこの研究から伝わる要点です。
原著論文の著者・所属:Gisselle Del Carmen Chang Fossatti(Natural Science Department, Faculty of Science and Technology, Technological University of Panama, Panama City 0819-07289, Panama)、Rosa Itzela Quintero Montenegro(Innovative Science and Technology in Food, Faculty of Science and Technology, Technological University of Panama, Panama City 0819-07289, Panama)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Gisselle Del Carmen Chang Fossatti, Rosa Itzela Quintero Montenegro. Antioxidant Capacity and In Vitro Bioaccessibility of Phenolic Compounds in a Functional Fruit–Spice Beverage Enriched with Inulin and Myo-Inositol. Beverages 2026-08-12. DOI: 10.3390/beverages12080093. 原著ライセンス:CC BY.