この研究は、ニュージーランドの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Food Research International
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
牛乳の中で脂肪は「脂肪球」という小さな粒として存在し、その表面は乳脂肪球膜(MFGM)と呼ばれる薄い膜で覆われています。この膜にはコレステロールが含まれており、膜の中で脂質が規則正しく並んだ領域(液体秩序ドメイン)をつくる役割を担うと考えられています。
研究チームは、このコレステロールを植物由来のステロールであるβ-シトステロールで置き換えたときに、同じように秩序だった領域が形成されるのかどうかを調べることを目的としました。
調べた方法
著者らは、β-シクロデキストリンという物質を使って乳脂肪球膜からコレステロールを最大94%取り除き、その一部をβ-シトステロールで置き換えたクリームを用意しました。そのうえで、コレステロールを除いただけのもの、天然のままのものと比較しています。
評価には、共焦点レーザー走査顕微鏡とゼータ電位の測定によって脂肪球が壊れていないかを確認する方法、リン脂質やスフィンゴミエリンの含有量の測定、膜の乱れの目安としてキサンチンオキシダーゼという酵素の活性を測る方法、そして共焦点ラマン顕微鏡によって膜内の脂質の鎖がどのように並んでいるかを観察する方法が用いられました。
報告された主な結果
β-シトステロールで置き換えたクリームでは、コレステロールを除いたものや天然のものに比べて脂肪球が大きくなったと報告されています。一方で、顕微鏡観察とゼータ電位の測定からは、脂肪球そのものの構造の保たれ方には影響がなかったとされています。ステロールの置換によって総リン脂質量は減少しましたが、スフィンゴミエリンの量は変わりませんでした。
膜の乱れの目安としたキサンチンオキシダーゼの活性は、コレステロールを取り除いた後に上昇し、β-シトステロールで置き換えた後には低下しました。著者らはこれを、膜の外側の二重層のまとまりが部分的に回復したことを示すものと解釈しています。
共焦点ラマン顕微鏡による観察では、膜内の脂質鎖の並び方がステロールの種類によって変化することが示されました。コレステロールを除くと脂質のアルキル鎖の詰まり方がゆるみ、膜の性質のばらつきが増えました。β-シトステロールで置き換えると鎖の詰まり方は部分的に戻ったものの、膜はより乱れて組成のばらつきが大きい状態になったと報告されています。
この結果が示すこと
著者らは、今回の実験モデルの物理化学的な条件のもとでは、β-シトステロールがコレステロールに依存した膜の秩序を完全には再現しない可能性があると述べています。ステロールの置き換えは膜のまとまりをある程度取り戻す一方で、分子レベルの並び方は元通りにはならないという点が、この研究から見えてくる姿です。
著者:R. Vaseghi Bakhshayesh(Bioeconomy Science Institute, Palmerston North, New Zealand)、M. Waterland(Riddet Institute, Massey University, Palmerston North, New Zealand)、C. Thum(Bioeconomy Science Institute, Palmerston North, New Zealand)、D. W. Everett(Riddet Institute, Massey University, Palmerston North, New Zealand)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):R. Vaseghi Bakhshayesh, M. Waterland, C. Thum, et al. Structural impact of cholesterol depletion and phytosterol enrichment in milk fat globule membranes. Food Research International 2026-09-01. DOI: 10.1016/j.foodres.2026.120713. 原著ライセンス:CC BY.