著者の所属・活動拠点の国は、ベルギーです。

掲載誌:American Journal of Clinical Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

食物繊維は大腸で腸内細菌に発酵され、酢酸・プロピオン酸・酪酸といった「短鎖脂肪酸」が作られます。短鎖脂肪酸は、腸の内側にある内分泌細胞に働きかけてホルモンの分泌を促すほか、血液に入って全身の臓器にも作用すると考えられています。ただし、大腸で作られた短鎖脂肪酸の多くは、大腸の細胞や肝臓で使われてしまいます。そのため、全身を巡る血液中にはわずかしか届きません。

ベルギーの研究チームは、短鎖脂肪酸が吸収される場所に注目しました。小腸の細胞は主にブドウ糖やアミノ酸をエネルギー源とし、短鎖脂肪酸をあまり使いません。そこで著者らは、短鎖脂肪酸を小腸に届けると血中濃度は大腸より高くなると予想しました。一方、食欲に関わる腸ホルモンを出す「L細胞」は、小腸の終わりから大腸にかけて多く分布しています。このため、ホルモンの反応は大腸に届けたほうが強いという仮説も立てました。

どのように調べたか

試験には18〜50歳で標準体重の健康な成人28人が参加しました。各参加者は、1週間以上の間隔をあけて3回来院し、それぞれ異なるカプセルを無作為な順番で飲みました。このように一人が全条件を試す方法を「クロスオーバー試験」と呼びます。参加者には、どのカプセルを飲んだかが知らされませんでした。

カプセルには酢酸・プロピオン酸・酪酸のナトリウム塩を6対2対2で混ぜたもの、合計230ミリモルが入っていました。論文によると、この量は特定の食物繊維約20グラムの発酵で生じる量に相当します。小腸向けには、被覆のない通常のカプセルを使いました。大腸向けには、小腸の終わり付近の酸性度で初めて溶けるよう設計された被覆付きカプセルを使いました。比較の基準として、短鎖脂肪酸を含まないプラセボ(偽薬)カプセルも用意しました。

参加者は来院前の3日間、食物繊維の少ない食事を続けました。当日は食物繊維を含まない朝食とともにカプセルを飲み、その後8時間にわたって30分ごとに採血を受けました。測定したのは、食欲を抑える働きをもつ腸ホルモンのGLP-1とPYY、血中の短鎖脂肪酸、血糖、インスリン分泌の目安となるCペプチドです。あわせて、空腹感や満腹感などを線上に印をつける方式で自己評価してもらいました。主な評価項目は、8時間の間にGLP-1とPYYがどれだけ増えたかの総量です。

主な結果

届ける場所によって、ホルモンの反応ははっきり異なりました。PYYは仮説どおり、大腸に届けたほうが小腸より多く分泌されました。一方GLP-1は予想に反し、小腸に届けたほうが大腸より多く分泌されました。小腸向けではホルモンが服用後1.5〜4時間ごろに早く増え、大腸向けではより遅い時間帯に増えました。この時間差は、カプセルが腸内を進む速さと合っていました。

血中の短鎖脂肪酸は、酢酸・プロピオン酸・酪酸のいずれも、8時間全体で見て小腸向けのほうが大腸向けより多く検出されました。これも研究チームの仮説と一致する結果です。その一方で、どちらの場所に届けても血糖とCペプチドの値は変わりませんでした。

食欲の自己評価では、プラセボと比べると、どちらの届け方でも満腹感が増すなど食欲が抑えられる方向の変化が見られました。小腸向けでは4項目すべてに、大腸向けでは3項目に変化がありました。ただし、小腸向けと大腸向けを直接比べた場合、評価に有意な差は認められませんでした。また、大腸向けでは下痢や軟便、便意の切迫といったおなかの症状が多く報告されました。腹痛は、どちらの届け方でもやや増えました。

著者らは考察で、GLP-1の結果について解釈を示しています。小腸側のL細胞は主にGLP-1を、大腸側のL細胞はGLP-1とPYYの両方を出すという性質の違いが関係している可能性がある、というものです。また、今回のGLP-1の上昇は体内で通常みられる範囲にとどまり、一時的なものだったと述べています。

研究が示すこと

この研究は、同じ量の短鎖脂肪酸でも、小腸と大腸のどちらに届くかによって、血中にどれだけ現れるか、どの腸ホルモンがどれだけ出るか、食欲がどう感じられるかが変わることを、人での試験で示しました。著者らは、短鎖脂肪酸の生理的な働きを考えるうえで、腸のどこに届くかという「場所」が重要な要素になると結論づけています。

原著論文の著者・所属:Riet Rosseel(Department of Chronic Diseases and Metabolism, Faculty of Medicine, Translational Research in Gastrointestinal Disorders (TARGID), KU Leuven, Leuven, Belgium)、Greet Vandermeulen(Department of Chronic Diseases and Metabolism, Faculty of Medicine, Translational Research in Gastrointestinal Disorders (TARGID), KU Leuven, Leuven, Belgium)、Tessa Dehau(Department of Chronic Diseases and Metabolism, Faculty of Medicine, Translational Research in Gastrointestinal Disorders (TARGID), KU Leuven, Leuven, Belgium)、Kristin Verbeke(Department of Chronic Diseases and Metabolism, Faculty of Medicine, Translational Research in Gastrointestinal Disorders (TARGID), KU Leuven, Leuven, Belgium. Electronic address: [email protected])

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Riet Rosseel, Greet Vandermeulen, Tessa Dehau, et al. Small intestinal compared with colonic short-chain fatty acid delivery drives distinct systemic concentrations and endocrine responses in humans: a randomized, crossover trial. American Journal of Clinical Nutrition 2026-08-10. DOI: 10.1016/j.ajcnut.2026.101470. 原著ライセンス:CC BY.