著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。

掲載誌:Bioactive Compounds in Health and Disease

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

腸と肺の意外なつながりに注目

腸と肺は体の中で離れた場所にありますが、免疫の働きを通じて互いに影響し合っていると考えられています。このつながりは「腸肺軸」と呼ばれます。腸内細菌が作る物質が血液で運ばれること、腸で訓練を受けた免疫細胞が肺へ移動すること、共通の免疫の信号を使うことなどが、その経路として挙げられています。腸内細菌のバランスの乱れ、食事の変化、抗菌薬の使用などでこのつながりが崩れることが、ぜんそく、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)といった呼吸器の病気に関わっていると報告されてきました。

この論文は、腸肺軸の中で特に「短鎖脂肪酸」に焦点を当て、これまでの研究成果をまとめたミニレビューです。短鎖脂肪酸とは、食物繊維が大腸で腸内細菌に発酵されてできる酢酸、プロピオン酸、酪酸などの物質です。著者は、短鎖脂肪酸が肺の炎症をどのような仕組みで調整しうるのか、病気ごとにどのような報告があるのか、そして食事や細菌を使った応用の考え方と課題を整理しています。

短鎖脂肪酸はどのように肺に働きかけるのか

レビューによると、短鎖脂肪酸は大腸で大部分が吸収され、血液に乗って肺にも届きます。ただし、肝臓などで代謝されるため、血液中の濃度は大腸の中と比べて大きく下がります。3種類のうち、血液中で最も多く残るのは酢酸だとされています。肺の免疫細胞や気道の表面の細胞には短鎖脂肪酸を受け取る受容体があり、気道の洗浄液からも短鎖脂肪酸が検出されることが紹介されています。

著者は、肺の炎症を抑える方向に働く主な仕組みとして二つを挙げています。一つは、FFAR2(GPR43)とFFAR3(GPR41)と呼ばれる細胞表面の受容体を介した働きです。肺の中の免疫細胞である肺胞マクロファージなどでこの受容体が刺激されると、炎症を引き起こす物質(TNF-α、IL-6、IL-1βなど)の産生が抑えられたり、好中球という白血球の動きが調整されたりすることが報告されています。もう一つは、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)という、遺伝子の働きを抑える方向に作用する酵素を阻害する働きです。これにより、過剰な免疫反応を抑える役割を持つ「制御性T細胞」が増えやすくなる、気道の表面のバリア機能が強まるといった変化が報告されています。

一方で著者は、HDACを阻害する作用は比較的高い濃度で現れるため、通常の血液中の濃度では十分に起こらない可能性があり、大腸の中や吸入した場合の気道などで意味を持ちうると指摘しています。

病気ごとに報告されている結果

ぜんそくについては、主にマウスを使った研究で、高食物繊維の食事や短鎖脂肪酸の投与により、気道が刺激に過敏に反応する状態、アレルギー性の炎症に関わる好酸球の増加、粘液の産生が減ったことが紹介されています。妊娠中の母親の高食物繊維食が子のアレルギー性気道疾患を防いだという研究や、乳児期のプロピオン酸がGPR41を通じてその後のぜんそく発症を防いだという研究も取り上げられています。

ARDSや急性肺障害については、動物モデルで酢酸や酪酸が好中球の肺への流入や、肺の血管と肺胞の間のバリアの破綻を抑えたという報告がまとめられています。23件の動物実験を統合した分析では、短鎖脂肪酸の投与により肺障害の程度、炎症性物質、死亡率が低下したと報告されています。COPDについては、たばこの煙で作ったモデルで、酪酸がIL-13を作る自然リンパ球(ILC2)や粘液の産生を減らしたことなどが紹介されています。

人を対象とした研究は限られています。子どもでは便中の短鎖脂肪酸が少ないことがぜんそくのリスクの高さと関連していたこと、COPD患者ではたんの中の短鎖脂肪酸が健康な人より少なく、その低さが気道の炎症や粘液による気道の詰まりと関連していたことが紹介されています。また喫煙については、人とマウスの両方で、短鎖脂肪酸を作る細菌と便中の短鎖脂肪酸を減らすと報告され、この腸内細菌の乱れが全身の炎症の増加や肺機能の悪化と相関していたとされています。ぜんそくの子どもに水溶性の食物繊維を与えたランダム化比較試験では、主な評価項目で有意な改善は見られなかった一方、安全で受け入れやすかったと報告されています。またARDSでは、短鎖脂肪酸を直接投与した患者でのランダム化比較試験はまだ行われていないとされています。

応用への道筋と残る課題

著者は、短鎖脂肪酸を増やす方法として、食物繊維を多く含む食事、腸内の有用な細菌を育てる「プレバイオティクス」(イヌリンやフラクトオリゴ糖など)、生きた細菌を摂る「プロバイオティクス」、短鎖脂肪酸そのものの投与を挙げています。さらに、細菌の発酵でできた有効成分を利用し、生きた細菌を腸に定着させる必要がない「ポストバイオティクス」を新しい方向性として位置づけています。ただし、プロバイオティクスの臨床試験の結果は一定していないとされています。

このレビューが示すのは、短鎖脂肪酸が腸内細菌と肺の免疫をつなぐ重要な仲介役として、動物実験では複数の呼吸器疾患にわたって炎症を抑える方向の働きを示してきたということです。同時に、効果は量、投与経路、病気の段階、もともとの腸内細菌の状態によって変わりうること、条件によっては炎症を促す場合もあることが十分に理解されていないことも示されています。著者は、人での効果を確かめるには、適切な量や投与経路、対象となる患者の選び方、長期的な安全性を検討したしっかりした臨床試験が必要だとまとめています。

原著論文の著者・所属:Danik Martirosyan(Functional Food Institute , 4659 Texas Street , San Diego , CA 92116 , USA; Functional Food Institute , San Diego , 92116 CA , USA)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Danik Martirosyan. Bridging the gut-lung axis and functional food science: Short-chain fatty acids as key regulators. Bioactive Compounds in Health and Disease 2026-08-08. DOI: 10.31989/bchd.v9i8.2053. 原著ライセンス:CC BY.