著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Aquaculture nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的
養殖魚の生産を増やすため、集約的な養殖では糖質や脂質を多く含む高エネルギーの配合飼料が広く使われています。著者らは序論で、こうした飼育が魚の病気や過剰な脂肪の蓄積を招きやすく、養殖の持続的な発展の妨げになっていると指摘しています。そこで、悪影響をやわらげる飼料添加物の探索が進められてきました。
この研究で注目したのはミオイノシトール(以下MI)という物質です。著者らによると、MIは魚の体の状態を保つうえで欠かせない物質で、成長の調節や細胞膜の形成など多くの働きに関わります。ただし多くの魚は体内で十分な量を作れません。ほかの動物や魚では、MIが糖の利用を高めたり脂肪の蓄積を抑えたりしたという報告があります。一方、実際の養殖に近い高糖質・高脂肪の飼料でMIをどれだけ加えればよいかは、ほとんど調べられていませんでした。
研究チームは中国で養殖される黄河コイを対象に二つの目標を立てました。一つは、MIが糖と脂質の代謝(糖脂質代謝)をどのような分子の仕組みで調節するのかを探ることです。もう一つは、高糖質・高脂肪飼料に加えるMIの最適な量を決めることです。
どのように調べたか
研究チームは6種類の飼料を用意しました。コイの通常の栄養必要量に合わせた対照飼料、糖質と脂質を増やした高糖質・高脂肪飼料、そして高糖質・高脂肪飼料にMIを1kgあたり125mg、250mg、500mg、1000mg加えた4種類です。高糖質・高脂肪飼料は、栄養面の負荷をかけて代謝の乱れを再現するモデルとして使われました。
試験は中国河南省の池に設置したいけすで行いました。体重約57gの黄河コイ540匹を18のいけすに30匹ずつ分け、それぞれの飼料で飼育しました。
試験後には、体重の増え方などの成長の指標、血液や肝膵臓の糖・脂質の値、組織の状態、糖代謝に関わる酵素の働き、遺伝子やタンパク質の発現を調べました。肝膵臓は、魚で肝臓とすい臓の働きを担う器官です。さらに、MIの量と各指標の関係を回帰分析で曲線に当てはめ、最も効果の大きい添加量を推定しました。
主な結果
試験終了時の生存率は、すべての群で100%でした。高糖質・高脂肪飼料にMIを加えると、1kgあたり125mgと250mgの群で、MIを加えない高糖質・高脂肪群より体重の増え方が有意に大きくなりました。250mg以上の群では、体重に占める肝膵臓の重さの割合も低くなりました。
高糖質・高脂肪飼料は、血液中のブドウ糖を増やしました。肝膵臓でも、総コレステロール、中性脂肪、肝臓の損傷の目安となる酵素(GOT、GPT)が増えました。MIを加えると、250mg群では血中ブドウ糖が下がり、HDLコレステロールが上がりました。250mg群と500mg群では、肝膵臓の総コレステロールと中性脂肪が下がりました。GOTとGPTの働きも抑えられました。ただし、体の酸化を防ぐ酵素(総SOD)の働きは、1000mg群ではむしろ高糖質・高脂肪群より低くなりました。添加量によって効果に違いがあったことになります。
組織の観察では、高糖質・高脂肪飼料を与えたコイの肝膵臓で、細胞が肥大し、内部に空洞のような部分(空胞)が目立ちました。MIを加えるとこの変化がやわらぎ、空胞の割合は250mg群で最も小さくなりました。高糖質・高脂肪飼料で増えた肝臓のグリコーゲン(糖の貯蔵形態)も、MIの添加で減りました。
分子レベルでは、MIの添加で次の変化が報告されました。糖を新たに作る経路に関わる遺伝子の発現が下がり、250mg群では糖を分解する経路に関わる遺伝子の発現が上がりました。インスリンの信号を伝えるPI3K/Akt経路では、タンパク質が働く状態を示すリン酸化が増えました。脂肪酸の合成に関わる遺伝子は抑えられ、脂肪酸の分解に関わる遺伝子は250mg群で高まりました。胆汁酸の代謝を調節するFXR/SHP経路では、高糖質・高脂肪飼料で発現が上がった遺伝子が、500mg群で下がりました。
回帰分析では、成長の指標から求めた最適添加量は1kgあたり251〜260mgでした。血液や肝膵臓の指標、酵素の働きを総合すると230〜475mgとなり、著者らはこの範囲を推奨しています。
研究が示すこと
著者らは、高糖質・高脂肪飼料にMIを加えることで、黄河コイの成長が改善し、糖と脂質の代謝の乱れや肝膵臓の異常がやわらいだと結論づけています。これらの変化は、PI3K/Akt経路やFXR/SHP経路、糖脂質代謝に関わる遺伝子や酵素の変化と関連していたと報告されています。
結果は、MIの効果が添加量によって異なり、多ければよいわけではないことも示しています。著者らは、本研究が魚におけるMIの代謝調節の仕組みを理解する手がかりとなり、淡水養殖の配合飼料づくりの参考になるとしています。
原著論文の著者・所属:Xiao Yan(Aquatic Animal Nutrition and Feed Research Team College of Fisheries Henan Normal University Xinxiang 453007 Henan Province China henannu.edu.cn)、Xin Long(Aquatic Animal Nutrition and Feed Research Team College of Fisheries Henan Normal University Xinxiang 453007 Henan Province China henannu.edu.cn)、Rumeng Qiao(Aquatic Animal Nutrition and Feed Research Team College of Fisheries Henan Normal University Xinxiang 453007 Henan Province China henannu.edu.cn; College of Life Sciences Henan Normal University Xinxiang 453007 Henan Province China henannu.edu.cn)、Peng Pang(Aquatic Animal Nutrition and Feed Research Team College of Fisheries Henan Normal University Xinxiang 453007 Henan Province China henannu.edu.cn)、Junli Wang(College of Life Sciences Henan Normal University Xinxiang 453007 Henan Province China henannu.edu.cn)、Shaoyang Zhi(Aquatic Animal Nutrition and Feed Research Team College of Fisheries Henan Normal University Xinxiang 453007 Henan Province China henannu.edu.cn)、Jiali Mi(Aquatic Animal Nutrition and Feed Research Team College of Fisheries Henan Normal University Xinxiang 453007 Henan Province China henannu.edu.cn)、Mingming Niu(Aquatic Animal Nutrition and Feed Research Team College of Fisheries Henan Normal University Xinxiang 453007 Henan Province China henannu.edu.cn)、Chaobin Qin(Aquatic Animal Nutrition and Feed Research Team College of Fisheries Henan Normal University Xinxiang 453007 Henan Province China henannu.edu.cn)、Liping Yang(Aquatic Animal Nutrition and Feed Research Team College of Fisheries Henan Normal University Xinxiang 453007 Henan Province China henannu.edu.cn)、Guoxing Nie(Aquatic Animal Nutrition and Feed Research Team College of Fisheries Henan Normal University Xinxiang 453007 Henan Province China henannu.edu.cn; College of Fisheries Xinyang Agriculture and Forestry University Xinyang 464000 Henan Province China xyafu.edu.cn)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yan X, Long X, Qiao R, et al. Dietary Myo-Inositol Improves Growth Performance and Glycolipid Metabolism in Yellow River Carp (<i>Cyprinus carpio haematopterus</i>) Fed High-Carbohydrate-High-Fat Diets: Involvement of PI3K/Akt and FXR/SHP Pathways. Aquaculture nutrition 2026-10-25. DOI: 10.1155/anu/4324808. 原著ライセンス:CC BY.