この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Nutrients

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

血液中の脂質(コレステロールや中性脂肪)のバランスが崩れた状態は「脂質異常症」と呼ばれ、心血管疾患の重要な危険因子として知られています。食事との関わりも深いとされますが、これまでの栄養疫学は個々の栄養素や食品と病気の関係に注目することが多く、実際の食生活全体をとらえにくいという課題がありました。そこで近年は、日常的に食べている食品の組み合わせ全体を「食事パターン」として分析する手法が用いられています。

中国は地域によって食文化が大きく異なり、南部の沿岸部は米を主食に野菜・果物・魚介類・鶏肉を多く食べ、蒸す・ゆでるといった調理法が好まれる、比較的あっさりした低塩の食事が特徴とされます。熱帯に位置する海南省では熱帯の果物や野菜が一年を通じて手に入り、独自の食習慣がみられます。研究チームは、こうした海南省の中高年の食事パターンを明らかにし、それが脂質異常症とどう関連しているかを調べることを目的としました。中国の食事ガイドライン(2022年)が提唱する「東方健康食事パターン」は東部沿岸地域の伝統的な食事をもとにしたものですが、熱帯である海南省でも同様の関連がみられるかは分かっていなかった、と論文は説明しています。

何をどう調べたか

著者らは、海南省の自然人口を対象とした慢性疾患のコホート研究の初回調査データを用いました。調査は2020年6月から2021年6月にかけて行われ、東西南北と中部にあたる5つの地域(瓊海市、東方市、三亜市、海口市、瓊中県)から地区を無作為に選ぶ多段階のクラスター抽出法が採られています。対象は海南省に5年以上居住する35〜74歳の人で、質問票調査・身体計測・血液生化学検査のすべてを受けた人が分析対象となりました。登録時の1万6559人のうち3種類の検査すべてを完了したのは5433人で、さらに登録前から高血圧・糖尿病・脂質異常症と診断されていた人を除いた4748人が主たる分析に含まれました。

食事の把握には、過去1年間に各食品群をどのくらいの頻度で食べたかを尋ねる「食物摂取頻度調査票(FFQ)」が使われ、訓練を受けた調査員が対面で聞き取りました。そのうえで因子分析という統計手法を用い、一緒に摂られやすい食品群のまとまりから食事パターンを抽出しています。脂質異常症は中国の脂質管理ガイドライン(2024年)に沿って判定され、総コレステロール、中性脂肪、LDLコレステロール、HDLコレステロールの4つの指標のいずれかが基準を外れた場合に該当するとされました。

分析では各食事パターンの得点を低い順に4等分(Q1〜Q4)し、最も低いQ1を基準として、各群で脂質異常症を持つ「オッズ」が何倍かをロジスティック回帰で推定しています。年齢・性別・婚姻状況・職業といった属性に加え、喫煙、飲酒、お茶を飲む習慣、朝食の有無、BMI、高血圧、糖尿病といった要因の影響を段階的に調整した結果が報告されています。

主な報告結果

参加者4748人は男性2327人(49.0%)、女性2421人(51.0%)で、年齢の中央値は47歳でした。このうち3321人(69.9%)が脂質異常症に該当したと報告されています。

因子分析からは4つの食事パターンが抽出されました。著者らはそれぞれを「現代的ファストフードパターン」「肉中心パターン」「果物・野菜パターン」「食用油と小麦パターン」と名づけています。

複数の要因を調整した解析では、肉中心パターンの最上位群(Q4)は、最下位群と比べて脂質異常症のオッズが高く(オッズ比1.380、95%信頼区間1.102〜1.729)、著者らはこれを38%高いオッズと表現しています。一方、果物・野菜パターンではQ2(0.800)、Q3(0.790)、Q4(0.630)のいずれでもオッズが低く、食用油と小麦パターンでもQ2(0.843)とQ4(0.818)で低い値が報告されました。オッズ比が1より小さいことは、その群で脂質異常症を持つ人の割合が相対的に低かったことを意味します。

個別の脂質指標についても報告があります。中性脂肪が高い状態については、肉中心パターンでQ2からQ4にかけてオッズが高く、逆に果物・野菜パターンでは低い値が示されました。HDLコレステロールが低い状態については、現代的ファストフードパターンと肉中心パターンの最上位群でオッズが高く、あらかじめ定めた指標である東方健康食事パターンの得点が高い群では低い値が報告されています。

ただし著者らは、この研究が一時点のデータを比較する横断研究であるため因果関係は示せないこと、食事調査が摂取量ではなく頻度を尋ねるものでエネルギーや栄養素の量を推定できないこと、多数の比較を行ったため0.05に近いp値の結果は偶然の可能性があること、対象者が1万6559人から4748人に絞られたことで選択の偏りが生じうることなどを限界として挙げています。

この研究が示すこと

著者らは、海南省の中高年では肉中心の食事パターンが脂質異常症と正の関連を示し、果物・野菜のパターンおよび食用油と小麦のパターンが逆の関連を示したと結論づけています。これは果物・野菜や不飽和脂肪酸を多く含む食事の特徴が、この集団で脂質異常症のオッズの低さと結びついていたことを意味します。

これまで東部沿岸地域を中心に語られてきた食事パターンと代謝の関係について、熱帯である中国南部の集団を対象に検討した点が、この研究の位置づけとして示されています。地域ごとに異なる食文化を踏まえた形で、食生活全体と血中脂質の関わりを見ていく手がかりを与える報告といえます。

著者:Shilong Guo(Key Laboratory of Tropical Translational Medicine of Ministry of Education, School of Public Health, Hainan Academy of Medical Sciences, Hainan Medical University, Haikou 571199, China)、Hailing Su(Key Laboratory of Tropical Translational Medicine of Ministry of Education, School of Public Health, Hainan Academy of Medical Sciences, Hainan Medical University, Haikou 571199, China)、Miaolin Han(Key Laboratory of Tropical Translational Medicine of Ministry of Education, School of Public Health, Hainan Academy of Medical Sciences, Hainan Medical University, Haikou 571199, China)、Yixi Zhang(Key Laboratory of Tropical Translational Medicine of Ministry of Education, School of Public Health, Hainan Academy of Medical Sciences, Hainan Medical University, Haikou 571199, China)、Qiuyun Cheng(Haikou Center for Disease Control and Prevention, Haikou 571199, China)、Fan Zhang(Key Laboratory of Tropical Translational Medicine of Ministry of Education, School of Public Health, Hainan Academy of Medical Sciences, Hainan Medical University, Haikou 571199, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Shilong Guo, Hailing Su, Miaolin Han, et al. Distinct Dietary Patterns Are Differentially Associated with Dyslipidemia Among Middle-Aged and Older Adults in Southern China. Nutrients 2026-09-24. DOI: 10.3390/nu18193154. 原著ライセンス:CC BY.