著者の所属・活動拠点の国は、韓国です。
掲載誌:Metabolites
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
骨格筋は、体を動かす力や運動能力だけでなく、体の代謝の調整にも関わります。研究チームによると、骨格筋の量は中年期から年に約1%ずつ減り始め、重い場合には80〜90歳までに半分ほどが失われることもあります。筋肉量の減少には、年齢や性別、栄養不足、身体活動、病気、ホルモンなど多くの要因が関わるとされています。
これまでにも食事の内容と筋肉量の関係は調べられてきました。ただし著者らによると、多くの研究は食事を一度しか評価しておらず、炭水化物・たんぱく質・脂質という三大栄養素の配分の組み合わせで人を分類したものではありませんでした。アジアの人々を長期間追跡した研究も限られていました。そこで研究チームは、韓国の大規模な地域住民コホート(同じ集団を長期間追いかける調査)のデータを使い、三大栄養素の比率にもとづく食事パターンが、40〜69歳の成人の筋肉量減少の起こりやすさとどう関係するかを調べました。
どのように調べたか
分析には、2001〜2002年に始まった韓国ゲノム疫学研究(KoGES)の参加者9516人(男性4505人、女性5011人)のデータが使われました。食事内容は、過去1年間に食べた食品の頻度と量を尋ねる食物摂取頻度調査票で、開始時と2005〜2006年の追跡調査時の2回評価されました。
参加者は、摂取エネルギーのうち各栄養素が占める割合で4つのグループに分けられました。炭水化物が65%を超える「高炭水化物型」、脂質が30%を超える「高脂質型」、たんぱく質が20%を超える「高たんぱく型」、そして韓国の食事摂取基準の範囲(炭水化物55〜65%、脂質15〜30%、たんぱく質7〜20%)に収まる「標準型」です。韓国の伝統的な食事が炭水化物中心であることを反映し、参加者の大半(8055人)が高炭水化物型に分類されました。
筋肉量は、体に微弱な電流を流して体組成を推定する生体電気インピーダンス法で測り、身長の影響を除くために身長の2乗で割った値を指標としました。主な分析では、開始時より少しでも筋肉量が減った時点を「筋肉量減少」と定義しました。年齢、性別、身体活動、喫煙、飲酒、体格、総エネルギー摂取量、持病、学歴、世帯収入、開始時の筋肉量などの影響を統計的に調整し、途中で食事パターンが変わることも考慮した分析を行いました。
主な結果
追跡期間の中央値は5.6年で、その間に6971人(73.3%)で開始時より筋肉量が減っていました。標準型と比べると、高炭水化物型では筋肉量減少が起こるリスク(ハザード比)が1.12倍、高たんぱく型では1.20倍と、統計的に意味のある高さでした。高脂質型には意味のある関連は見られませんでした。
一方で研究チームは、この結果が条件によって変わることも報告しています。減少の基準を「3%以上」「5%以上」、あるいは測定機器の誤差を上回る減少に厳しくすると、高炭水化物型・高たんぱく型の関連は弱まり、統計的に意味のある差ではなくなりました。また、筋肉量の平均的な減り方を時間の経過に沿って比べた分析では、どの食事パターンのグループでも筋肉量は時間とともに減っており、減り方の速さにグループ間で有意な差は見られませんでした。
このほか、追跡中の食事パターンの変化に注目した分析では、標準型を維持した人と比べて、高炭水化物型・高脂質型・高たんぱく型へ変わった人で減少リスクが高いことが示されました。また、65歳以上では高たんぱく型でリスクが高いという結果もありました。ただし著者らは、これらは人数や該当者が少ない探索的な結果であり、体調の悪化や筋肉量の減少そのものが食事を変えるきっかけになった可能性(逆の因果関係)も否定できないとしています。
結果が意味すること
著者らは、今回の関連を炭水化物やたんぱく質そのものが筋肉に悪影響を与えることを示すものとは解釈していません。高炭水化物型の人は年齢が高く、収入が低い人や高血圧の人が多いなど、比率以外の特徴も持っていました。また、エネルギー比率はある栄養素が増えれば他が減るという相対的な値であり、たんぱく質の絶対量や食品の種類、食事全体の質までは反映しません。さらに、今回の結果は筋肉量の減少を見たもので、筋力を含めて診断されるサルコペニア(加齢に伴う筋肉の衰え)を評価したものではありません。
研究チームは、これらの知見を結論ではなく予備的なものと位置づけ、三大栄養素の比率だけでは中高年の筋肉量の維持を十分に説明できない可能性があると結論づけています。
原著論文の著者・所属:Yuji Jeong(Department of Family Medicine, St. Vincent’s Hospital, College of Medicine, The Catholic University of Korea, Seoul 06591, Republic of Korea)、Seok-Won Son(Department of Family Medicine, St. Vincent’s Hospital, College of Medicine, The Catholic University of Korea, Seoul 06591, Republic of Korea)、Se-Hong Kim(Department of Family Medicine, St. Vincent’s Hospital, College of Medicine, The Catholic University of Korea, Seoul 06591, Republic of Korea)、Ha-Na Kim(Department of Family Medicine, St. Vincent’s Hospital, College of Medicine, The Catholic University of Korea, Seoul 06591, Republic of Korea)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yuji Jeong, Seok-Won Son, Se-Hong Kim, et al. Macronutrient-Based Dietary Patterns and the Risk of Muscle Mass Decline in Middle-Aged and Older Adults: A Prospective Community-Based Cohort Study. Metabolites 2026-08-11. DOI: 10.3390/metabo16080568. 原著ライセンス:CC BY.