この研究は、メキシコの研究機関の研究論文です。
掲載誌:BMC Pregnancy and Childbirth
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を明らかにしようとした研究か
妊娠中の栄養は、子宮の中で育つ胎児の成長を左右する重要な要素です。とくに妊娠糖尿病(妊娠中に見つかる高血糖の状態)がある場合、母体の高血糖や胎児への栄養の届き方が変わるため、胎児が大きく育ちすぎるといった問題が起こりやすいことが知られています。原著は妊娠糖尿病の特徴を、慢性的なインスリン抵抗性(インスリンが効きにくい状態)が続いた結果として膵臓のβ細胞の働きが損なわれることと説明しています。
従来の研究は「ある一つの食品」や「ある一つの栄養素」と出生時の結果を結びつけて調べることが多く、著者らは、それでは普段の食事全体の複雑さをとらえきれないと述べています。そこで、複数の食品群の食べ方の組み合わせを「食事パターン」としてとらえる方法に注目しました。論文によれば、メキシコでは妊娠糖尿病のある女性の食事パターンと胎児の成長についての研究はまだ限られています。研究チームは、メキシコの妊娠糖尿病のある妊婦が妊娠後期(第3三半期)にとっていた食事のパターンと、胎児の成長との関連を評価することを目的としました。
どのように調べたか
用いられたのは「Healthy Pregnancy Means Future(健康な妊娠は未来を意味する)」という追跡型のコホート研究のデータです。産科・婦人科・新生児医療の専門施設で2015年8月から2018年5月までに妊娠糖尿病と診断された18〜49歳の女性のうち、127人が今回の解析対象になりました。スクリーニングは妊娠24〜28週に50gブドウ糖負荷による検査で行われています。
食事の情報は、メキシコで妥当性が確認された食物摂取頻度調査票(ふだん何をどれくらいの頻度で食べているかを尋ねる質問票。ここでは81項目)を使い、訓練を受けた栄養士が聞き取りました。対象は妊娠中の直近3か月の習慣的な食事で、調査は妊娠糖尿病の診断前に1回だけ行われています。食品は、米国の食事の質の指標の構成要素をもとにした分類に、トウモロコシを使った食品、根菜・いも類、伝統的なメキシコ料理といったメキシコの食文化に即した群を加えて整理されました。そのうえで主成分分析という統計手法により、食べ方の組み合わせを少数のパターンにまとめています。
胎児の成長は、専門の超音波検査担当者が各妊婦健診のたびに超音波検査で測定しました。頭の横幅(大横径)、頭の周囲長、腹部の周囲長、大腿骨の長さを測り、これらから推定胎児体重を算出しています。1人あたり最大6回の繰り返し測定が行われ、同じ胎児を繰り返し測ったデータの性質を考慮できる混合効果モデルで、食事パターンと胎児の成長との関連が検討されました。母体の体重は妊娠24週から出産まで各健診時に測られ、妊娠前のBMIに応じた推奨範囲(米国医学研究所の基準)と比べて、妊娠後期の体重増加が不足・適正・過剰のいずれかに分類されています。参加者は、質問票から評価された自分の食事の状況を知らされていませんでした。
報告された主な結果
著者らは4つの食事パターンを特定し、それぞれ「でんぷん(Starch)」「甘いもの(Sweets)」「脂質とたんぱく質(Fats & Proteins)」「果物と野菜(Fruits and Vegetables)」と名づけました。「でんぷん」はトウモロコシを使った食品と根菜・いも類が中心、「甘いもの」は砂糖を加えた食品と加糖飲料が中心、「脂質とたんぱく質」は油脂や飽和脂肪、伝統的なメキシコ料理、動物性たんぱく質、乳製品、塩分の多い食品、精製した小麦製品が中心でした。「果物と野菜」は、野菜と果物に加えて乳製品、魚やナッツ由来のたんぱく質を多く含むパターンです。
解析の対象となった127人の平均年齢は28.8歳、妊娠前のBMIの平均は27.5kg/m²、妊娠後期の体重増加の平均は7.7kgでした。8割以上が主婦で、約70%に2型糖尿病の家族歴がありました。出生した子どもについては、平均在胎週数38.9週、平均体重3.2kgと報告されています。
胎児の計測値と推定体重のいずれについても、「でんぷん」「甘いもの」「脂質とたんぱく質」の3つのパターンには統計的に意味のある関連はみられませんでした。一方、「果物と野菜」パターンについては、母体の体重増加との組み合わせ(交互作用)に意味のある関連が認められました。交互作用とは、ある要因の影響の出方が別の要因の状態によって変わることを指します。体重増加が適正だった女性を基準にすると、体重増加が不足していた女性(胎児計測値でβ=-1.24、p=0.011、推定胎児体重でβ=-188.00、p=0.029)と過剰だった女性(同じ順にβ=-1.35、p=0.037、β=-262.48、p=0.020)では、「果物と野菜」パターンと胎児の成長の関係が異なっていました。また、母体の体重増加そのものについても、不足群では胎児の計測値と推定体重が、過剰群では計測値が、適正群に比べて低い値を示していました。
この結果を著者らは、体重増加が不足あるいは過剰だった場合には「果物と野菜」パターンは胎児の計測値・体重と負の関連を示した一方、体重増加が適正だった女性では、このパターンへの当てはまりが強いほど胎児の成長の指標がより良好だった、とまとめています。なお、この研究は妊娠糖尿病の女性における食事パターンと胎児の成長全般の関連を調べたもので、在胎週数に対して小さい/大きいといった極端な結果に焦点を当てた解析ではありません。統計的な検出力の制約もあったと説明されています。
この報告が示していること
著者らは研究の限界も挙げています。食事の評価は質問票に基づくため、記憶に頼ることによる誤りや、調理法の細部をとらえにくいこと、望ましく答えようとする偏りが避けられません。また、診断後にはすべての参加者が医学的栄養療法(個別の食事指導と、臨床的に必要な場合のインスリン治療)を受けており、追跡中の胎児の成長に影響した可能性はあるものの、ほぼ全員に同じ内容が実施されたため、その影響は関連を弱める方向に働きやすかったと述べています。個人ごとの取り組み方や反応の違いを完全に除くことはできないとも記しています。
この研究が伝えているのは、妊娠糖尿病のある妊婦の食事を「何を食べたか」だけで単独に見るのではなく、妊娠中の体重の増え方とあわせてとらえる視点の大切さです。果物と野菜を中心とする食事の意味合いが、体重増加が適正な場合とそうでない場合とで異なって現れたという報告は、食事と体重管理が切り離せないものであることを、この集団のデータを通して示しています。
著者:María-Socorro Parra-Cabrera(Center for Research in Mathematics Application Unit, City of Aguascalientes, Mexico, Aguascalientes, 20259, México)、Ignacio Méndez‐Gómez‐Humarán(Center for Research in Mathematics Application Unit, City of Aguascalientes, Mexico, Aguascalientes, 20259, México)、Marcia Galván-Portillo(Center for Research in Population Health, Cuernava, México)、Marta Rivera-Pasquel(Center for Research in Nutrition and Health, Instituto Nacional de Salud Pública, Cuernavaca, 62100, México)、Aileen Moreno-Sullivan(Center for Research in Nutrition and Health, Instituto Nacional de Salud Pública, Cuernavaca, 62100, México)、Eric Monterrubio‐Flores(Center for Research in Nutrition and Health, Instituto Nacional de Salud Pública, Cuernavaca, 62100, México)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):María-Socorro Parra-Cabrera, Ignacio Méndez‐Gómez‐Humarán, Marcia Galván-Portillo, et al. Maternal dietary patterns and their associations with fetal growth in Mexican pregnant women with gestational diabetes: results from the healthy pregnancy means future cohort. BMC Pregnancy and Childbirth 2026-09-22. DOI: 10.1186/s12884-026-09906-4. 原著ライセンス:CC BY.