この研究は、アメリカ、ペルーの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜウキクサに着目したのか

急性栄養失調は、低・中所得国における5歳未満児の死亡の主要な原因であり続けています。論文によれば、2022年には推定1億4,800万人の子どもが発育阻害の状態にあり、4,500万人が消耗症(体重が身長に対して著しく少ない状態)にありました。また、低栄養は5歳未満児の全死亡の45%に関与していると報告されています。

こうした状況がとりわけ深刻なのが、紛争や政情不安、経済の崩壊、気候災害が重なる人道危機下の地域です。著者らは、こうした場面では輸入に頼る既製の治療食(RUTF)の供給網が途切れやすく、現地で栽培でき、安価で、栄養的にも十分な代替手段が急務だと述べています。

そこで本総説は、水面に浮かぶ小さな水生植物であるウキクサ類のうち、人の食用として研究の蓄積があるWolffia globosa、Wolffia arrhiza、Lemna minorの3種を取り上げ、栄養組成・食品としての安全性・生産の拡大しやすさという観点から、治療食の候補としての適性を検討したものです。なお本稿は既存の公表文献を整理した総説であり、著者らが新たに臨床試験を行ったものではありません。

どのように調べたか

著者らは、PubMed、Scopus、Web of Science、JSTORといった査読文献のデータベースを対象に、3種の学名に加えて、人による摂取、消化性、重金属の蓄積、天日乾燥と微生物といった語を組み合わせて英語で検索しました。出版年に制限は設けず、英語で発表された論文に絞っています。

集めた査読論文・ランダム化比較試験・技術報告は手作業で選別され、ウキクサを人の食料として扱ったもの、その栄養価、食品安全性、乾燥方法、食べ方、受容性を論じたものが採用されました。一方、燃料利用や排水処理のみを扱い人の食料としての価値に結びついていない研究は対象外とされています。公開済みの二次データのみを用いたため、倫理審査は不要だったと記されています。

報告された主な内容

まずタンパク質についてです。論文が整理した組成分析では、乾燥重量あたりのタンパク質含量は最大でW. globosaが48.2%、W. arrhizaが50.9%、L. minorが39.1%に達すると報告されています。必須アミノ酸も幅広く含まれ、多くの項目でFAO/WHOが示す摂取推奨値に達するか上回る水準が見られたとされます。

タンパク質の「質」を示す指標についても報告があります。W. globosaではタンパク質消化率で補正したアミノ酸スコア(PDCAAS)が89%、W. arrhizaでは消化性必須アミノ酸スコア(DIAAS)が0.75と報告され、著者らはこれを質の高いタンパク質と評価しています。DIAASの0.75という値は、引用された研究では小麦の0.40やエンドウの0.64を上回るものです。鉄や亜鉛、ビタミンB12といった微量栄養素、抗炎症性などが報告される生理活性成分も含まれると整理されています。

生産面の特徴も本総説の要点です。ウキクサは地球上で最も成長の速い植物の一つとされ、4〜5日でバイオマスが倍増し、2〜5日で収穫できる大きさに達します。1平方メートルあたり1日で最大およそ177gのバイオマスを生み出し、タンパク質1kgあたりの必要水量は従来作物と比べて最大90%少ないと報告されています。耕作可能な土地を必要とせず、幅広い温度やpHに耐えることも、供給網が途絶えた地域での利点として挙げられています。

一方で著者らは、ただちに応用するには二つの大きな制約があると明確に述べています。第一に脂質含量が乾燥重量の0.5〜9.6%と低く、少量で大量のエネルギーを速やかに補う必要がある重度急性栄養失調の治療において、標準的なRUTFに比べてエネルギー密度が不足する点です。第二に、水中で育つ性質ゆえに、培地となる水の汚染状況によっては重金属を蓄積しやすい点です。オキサル酸やフィチン酸といった、ミネラルの吸収を妨げうる成分(抗栄養因子)の量は一般的な野菜と同程度であり、病原体のリスクも天日乾燥や加熱によって管理可能だと整理されていますが、重金属については栽培水の慎重な監視が必要だとしています。

さらに著者らは、現在の証拠には栽培の失敗例や導入がうまくいかなかった事例に関するデータが欠けている可能性があり、そのぶん評価が偏りうると注意を促しています。そのうえで、文脈に即した厳密な利益とリスクの評価、低・中所得国での管理された栽培試験、栄養失調の集団を対象としたランダム化比較試験が、実現可能性を客観的に見極めるために必要だと結論づけています。

この整理が示すこと

著者らの評価は、ウキクサ類を既存の治療食の置き換えとして推すものではありません。タンパク質の量と質、微量栄養素、そして土地をほとんど選ばない生産効率という点では有望な材料である一方、エネルギー密度の低さと水由来の汚染リスクという具体的な条件が、単独での治療食としての使用を妨げているという線引きが示されています。

供給が政治情勢に左右されやすい人道危機の現場で、現地で育てられる食料源をどう評価すべきか。この総説は、その判断に必要な材料と未解明の点を並べて示したものだといえます。

著者:Adriana E. Hernani-Rodrigo(Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health)、Shilah F. Waters(Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health)、Laura S. Valderrama Figueroa(Independent Researcher)、January G. Msemakweli(Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health)、Nicole LaRuta-Rosas(Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health)、Marcelo Buhezo-Chamon(Asociación Benéfica PRISMA)、Robert H. Gilman(Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Adriana E. Hernani-Rodrigo, Shilah F. Waters, Laura S. Valderrama Figueroa, et al. Duckweed (Wolffia globosa, Wolffia arrhiza, and Lemna minor) as novel therapeutic food for acute malnutrition and famine alleviation in low- and middle-income countries and humanitarian crisis settings. Frontiers in Nutrition 2026-09-14. DOI: 10.3389/fnut.2026.1835959. 原著ライセンス:CC BY.