この研究は、ニュージーランドの研究機関の研究論文です。

掲載誌:American Journal of Clinical Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

果物や野菜、全粒穀物、豆類などを中心とする健康的な食事に、赤身肉(牛肉や羊肉)をどの程度取り入れるのが望ましいかは、いまも議論が続いています。観察研究では赤身肉の摂取量が多いほど慢性疾患のリスクが高いという関連が報告されてきました。しかし著者らは、他の要因の影響や、加工肉と未加工肉が一緒に扱われがちな点から、因果関係ははっきりしていないと指摘しています。また、これまでの介入研究の多くは、食事を厳密に管理した条件で行われていました。日常生活に近い条件で適量の赤身肉を食べた場合の影響は、あまり分かっていません。

研究チームが注目したのは、多価不飽和脂肪酸の状態です。多価不飽和脂肪酸にはオメガ3脂肪酸などが含まれます。オメガ3脂肪酸のうちEPAやDHAは主に魚介類から摂取されますが、牛や羊の肉も、DPA(ドコサペンタエン酸)などの長鎖オメガ3脂肪酸の供給源になり得ます。さらに、牧草で育てた牛や羊の肉は、穀物で仕上げた肉より長鎖オメガ3脂肪酸を多く含む傾向があるとされています。そこで本研究は、健康的な食事に牧草飼育の赤身肉を適量加えた場合と、肉の代わりに植物由来の代替肉を使う菜食とで、血中の多価不飽和脂肪酸の状態が変わるかを主な目的として調べました。あわせて、心血管や代謝の健康に関わる指標と、血中の脂質の詳しい組成も比較しました。

どのように調べたか

研究はニュージーランドで行われました。対象は18〜35歳の健康な成人80人で、同居して食事を共にする2人1組(40組)として募集されました。参加者は組ごとに2つの食事法のどちらかに無作為に割り付けられ、自宅での普段の生活の中で10週間取り組みました。

両グループとも、卵や乳製品を含む菜食を基本としました。毎週、夕食3回分(2人分)の菜食ミールキットが届きます。そのうえで「フレキシタリアン」グループには、牧草飼育の牛肉と羊肉が週3食分提供されました。フレキシタリアンとは、菜食を中心にしながら肉も適度に食べる食べ方のことです。もう一方の菜食グループには、主に大豆やエンドウ豆のたんぱく質と植物油から作られた市販の代替肉が提供されました。グループ間の差をはっきりさせるため、参加者は鶏肉、豚肉、魚介類、加工肉、配布品以外の赤身肉や代替肉を避けるよう指示されました。食事内容は記録アプリで確認されました。

開始時、5週目、10週目に空腹時の血液を採取し、血漿中の脂肪酸、血圧、コレステロール、血糖、インスリンなどの指標と、数百種類の脂質分子を測定しました。なお、当初の主要評価項目は赤血球中の脂肪酸でした。しかし効果の評価に先立って測定データの品質に問題が見つかったため、同じ来院時に保存されていた血漿を使って脂肪酸の状態を評価したと論文は説明しています。

主な結果

78人が10週間の介入を終えました。食事記録によると、菜食グループの肉の摂取量は週約5.3食分からほぼゼロに減りました。一方、フレキシタリアングループでは10週目にも週約3.3食分を維持しており、両グループの食事ははっきり分かれていました。

最も明確な違いが見られたのはオメガ3脂肪酸のDPAです。フレキシタリアングループの血漿DPAは、開始時36.4、5週目37.6、10週目38.0μmol/Lとほぼ安定していました。一方、菜食グループでは開始時の40.5μmol/Lから5週目に35.2μmol/Lへ低下し、10週目には39.7μmol/Lと開始時に近い値まで戻りました。この時間的な変化の違いは、複数の脂肪酸をまとめて検定したことを考慮した補正の後でも統計的に意味のあるものでした。ただし、どの時点でも両グループの値そのものに有意な差はありませんでした。EPAにも同様の傾向が見られましたが、補正後は有意ではなく、著者らは持続的な効果ではなく変化の仕方の違いとして解釈しています。DHAなど他の主な脂肪酸では、グループ間で異なる変化は見られませんでした。

血圧、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪、血糖、インスリンといった心血管・代謝の指標では、グループ間で異なる変化は認められませんでした。インスリンの効きにくさを示す指標(HOMA-IR)は期間中に上昇しましたが、これは食事法に関係なく両グループで見られた変化でした。

血中の脂質259種類を詳しく調べた解析では、補正後も有意だったのは「PE-O 39:6」という、エーテル結合を持つリン脂質の一種だけでした。この脂質はフレキシタリアングループでは安定または増加し、菜食グループでは最初の5週間に減少しました。ただし著者らは、この変化が心血管・代謝の指標の変化を伴っておらず、生物学的な意味はまだ分からないとしています。

研究が示すこと

論文は、健康的で植物性食品中心の食事に牧草飼育の赤身肉を適量取り入れても、代替肉に置き換えた場合と比べて、10週間の範囲では従来の心血管・代謝の指標に悪影響は見られなかったと結論づけています。また、赤身肉を含む食事は血漿DPA濃度の維持と関連していたと報告しています。

一方で、対象は健康な若年成人に限られ、期間も10週間と短いものでした。提供した肉や代替肉の脂肪酸組成も直接測定されていません。そのため著者らは、高齢者や持病のある人、長期の影響などにそのまま当てはめることはできないと述べています。この研究は、肉を食べるか代替肉に置き換えるかという選択が、日常に近い条件で血中の一部のオメガ3脂肪酸にどう反映されるかを具体的に示した報告といえます。

著者:Lillian C. Morton(Discipline of Nutrition, School of Medical Sciences, Faculty of Medical and Health Sciences, The University of Auckland, Auckland, New Zealand. Electronic address: [email protected])、David Cameron‐Smith(Riddet Institute, Massey University, Palmerston North, New Zealand)、Nicola Gillies(Discipline of Nutrition, School of Medical Sciences, Faculty of Medical and Health Sciences, The University of Auckland, Auckland, New Zealand)、Karl Fraser(Riddet Institute, Massey University, Palmerston North, New Zealand; Smart Foods and Bioproducts, Bioeconomy Sciences Institute, Palmerston North, New Zealand)、Andrea Braakhuis(Discipline of Nutrition, School of Medical Sciences, Faculty of Medical and Health Sciences, The University of Auckland, Auckland, New Zealand)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Lillian C. Morton, David Cameron‐Smith, Nicola Gillies, et al. Pasture-Raised Red Meat Compared with Plant-Based Meat Alternatives Within Healthy Dietary Patterns: Effects on Polyunsaturated Fatty Acid Status and Cardiometabolic Health in a Randomized Dietary Intervention. American Journal of Clinical Nutrition 2026-10-01. DOI: 10.1016/j.ajcnut.2026.101564. 原著ライセンス:CC BY.