著者の所属・活動拠点の国は、イタリア、スウェーデンです。

掲載誌:Clinical and Experimental Dental Research

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

飲み物の「酸っぱさ」と歯の関係を確かめる

酸を含む飲食物によって歯の硬い組織が少しずつ溶けて失われる状態は「酸蝕(さんしょく)による歯の摩耗」と呼ばれ、一度失われた組織は元に戻りません。原因の一つとして、清涼飲料水や果汁、ワインなどの酸性の飲み物が挙げられています。

飲み物がどれだけ歯に影響しうるかは、pHの低さだけでは決まりません。著者らによると、飲み物に含まれる酸の総量、酸の種類、カルシウムやリンの量なども関わります。さらに口の中では、唾液が酸を薄めて洗い流し、中和し、歯を守る働きをしています。そのため、実験室で飲み物そのものの酸性度を測っても、実際に口の中で何が起きるかはそのまま分かりません。

研究チームは、これまでの研究の多くが実験室での測定にとどまり、飲み物の酸性度と口の中のpH変化を同じ枠組みで調べた例が少ないことに注目しました。そこで、アルコール飲料とノンアルコール飲料について、実験室での測定と人の口の中での測定を組み合わせ、酸を生じさせる性質(酸産生性)を比べることを目的としました。

実験室と口の中の両方で測定

対象は市販の8種類の飲み物です。伝統的製法(瓶内二次発酵)とタンク方式の2種類のスパークリングワイン、赤ワイン、白ワイン、アルコール入りのソフトドリンク、ノンアルコールのソフトドリンク、ピルスナービール、オレンジジュースが選ばれ、すべて室温(22℃)で調べられました。

実験室では、まず各飲み物の最初のpHを測りました。次に「滴定酸度」を調べました。これは、飲み物に少しずつアルカリ(水酸化ナトリウム)を加え、決められたpHに達するまでにどれだけ必要かを測るものです。必要な量が多いほど、中和しにくい酸を多く含んでいることを示します。

口の中での測定には、健康な成人ボランティア19人が最後まで参加しました。対象はスパークリングワイン2種類、アルコール入りとノンアルコールのソフトドリンク、ビール、オレンジジュースの6種類で、比較のために普通の水も用いました。参加者は飲み物10mLを1分間口に含んでから吐き出し、その後30分間にわたり、前歯の表側と裏側、奥歯の山の部分の3か所で、細い電極を使って歯の表面のpHを繰り返し測定しました。

結果をまとめる指標の一つとして、研究チームはpH7.5を共通の基準線とし、それより下がったpHの深さと続いた時間を合計した値(AUC7.5)を算出しました。値が大きいほど、酸性への傾きが大きい、あるいは長く続いたことを意味します。ただし著者らは、7.5という値は比較のための便宜的な基準であり、歯が溶け始める境目を示すものではないと説明しています。

pHの低さと中和しにくさは一致しなかった

実験室での測定では、最初のpHが最も高かったのはビール(4.43)、最も低かったのはノンアルコールのソフトドリンク(2.56)でした。一方、pH8.3まで中和するのに必要なアルカリの量が最も多かったのはオレンジジュース(約195mg)と伝統的製法のスパークリングワイン(約193mg)で、最も少なかったのはビール(66mg)でした。つまり、最もpHが低い飲み物が、最も中和しにくい飲み物とは限らないことが示されました。

口の中での測定では、水を除くすべての飲み物で、口に含んだ直後に歯の表面のpHが下がりました。その後、どの飲み物でも10〜15分ほどで元の値に近づき、30分後の最終的なpHは、いずれも開始前と有意な差がありませんでした。

飲み物どうしを比べると、pHの平均的な最低値が最も低かったのは伝統的製法のスパークリングワイン(6.20)でした。pHの下がり幅は2種類のスパークリングワインで最も大きく(どちらも0.80)、ノンアルコールのソフトドリンクとビールでは小さめ(どちらも0.50)でした。AUC7.5も伝統的製法のスパークリングワインが最も大きく(26.2)、水が最も小さい値(10.4)でした。著者らは、この伝統的製法のスパークリングワインが、実験室でも中和に多くのアルカリを必要とし、口の中でも最も大きな反応を示したことから、今回の条件では酸の影響が比較的長く残りやすかったと考えています。

飲み物の酸性度は複数の側面から見る必要がある

この研究から伝わるのは、飲み物が口の中に与える酸の影響は、表示されるようなpHの値だけでは判断しきれないということです。中和のしにくさや、唾液による回復の速さを含めて考える必要があると著者らは述べています。

同時に、著者らは結果の受け止め方にも注意を促しています。今回測ったのはpHの短時間の変化であり、歯のエナメル質などが実際に溶けたかどうかを直接測ったものではありません。参加者は唾液の中和力が高い健康な成人で、飲み方も「10mLを1分間含む」という決められた方法でした。1回の摂取後にpHが速やかに戻ったことは唾液の守る働きを示していますが、酸性の飲み物を頻繁に、あるいは長時間とる場合の積み重なった影響がないことを意味するものではないとしています。

著者らは、歯への影響を考える際には、飲み物自体の性質に加えて、飲む頻度や飲み方、唾液の状態など一人ひとりの条件をあわせて見ることが大切だとまとめています。

原著論文の著者・所属:Riccardo Guazzo(Department of Neurosciences, Institute of Clinical Dentistry University of Padua Padua Italy)、Eriberto Bressan(Department of Neurosciences, Institute of Clinical Dentistry University of Padua Padua Italy)、Anna Lehrkinder(Department of Cariology, Institute of Odontology, Sahlgrenska Academy University of Gothenburg Gothenburg Sweden)、Guglielmo Campus(Department of Cariology, Institute of Odontology, Sahlgrenska Academy University of Gothenburg Gothenburg Sweden)、Edoardo Stellini(Department of Neurosciences, Institute of Clinical Dentistry University of Padua Padua Italy)、Cristiano Tomasi(Department of Periodontology, Institute of Odontology, Sahlgrenska Academy University of Gothenburg Gothenburg Sweden)、Peter Lingström(Department of Cariology, Institute of Odontology, Sahlgrenska Academy University of Gothenburg Gothenburg Sweden)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Riccardo Guazzo, Eriberto Bressan, Anna Lehrkinder, et al. An In Vitro and In Vivo Assessment of Acidogenicity of Several Alcoholic and Non‐Alcoholic Beverages. Clinical and Experimental Dental Research 2026-10-01. DOI: 10.1002/cre2.70462. 原著ライセンス:CC BY.