著者の所属・活動拠点の国は、スペインです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ケフィアは、ケフィアグレインと呼ばれる粒状の塊を牛乳に加えて作る伝統的な発酵飲料です。グレインの中には乳酸菌、酢酸菌、酵母が多糖類の基質に包まれて共存しており、発酵中に糖を有機酸やアルコールなどに変えます。近年は乳を使わない植物性の発酵飲料への関心が高まり、果汁や野菜などを原料にした「ケフィア風飲料」の開発が進んでいます。
ケフィアグレインには、牛乳で育つミルクケフィアグレインと、砂糖水で育つウォーターケフィアグレインがあり、含まれる微生物の顔ぶれが異なります。著者らによると、果汁を使ったケフィア風飲料についてはこれまでも研究がありますが、ビタミンやミネラルが発酵でどう変わるか、また同じ条件で二種類のグレインを比べた研究は限られていました。そこで研究チームは、オレンジジュースを原料として二種類のグレインによる発酵を比較し、成分、微生物、抗菌活性、ビタミン・ミネラル、香り成分の変化を調べました。
どのように調べたか
研究チームは、加熱処理をしていない市販の搾りたてオレンジジュース(砂糖や保存料を加えていない果汁100%)を使いました。ビタミンなど熱に弱い成分の損失を避けるため、加熱殺菌はあえて行っていません。ジュース50mLに対して、あらかじめ活性化させたグレインを1.5g加え、室温(約20℃)で撹拌せずに48時間発酵させました。
二種類のグレインごとに多数の瓶を用意し、4時間から48時間までの決められた時点で瓶を取り出して分析しました。調べた項目は、pH、糖、有機酸、エタノールなどの濃度、乳酸菌・酢酸菌・酵母などの生菌数、指標となる細菌の増殖をどれだけ抑えるかで評価した抗菌活性、ビタミンとミネラルの量、香りに関わる揮発性成分です。香りについては、各成分の濃度を人が匂いを感じ始める濃度で割った値を使い、香りへの寄与の可能性を見積もりました。ただし、人による官能評価は行っていません。
主な結果
どちらのグレインでも、乳酸菌、酢酸菌、酵母がジュースの中で増えました。発酵終了時の菌数は、1mLあたりおよそ乳酸菌が100万〜1000万個、酢酸菌が10万〜100万個、酵母が約1億個の水準でした。
二種類のグレインには違いが見られました。ウォーターケフィアグレインでは発酵の早い段階で乳酸が多くつくられ、24時間後の乳酸濃度はミルクケフィアグレインより高くなりました。一方、48時間後の乳酸はミルクケフィアグレインのほうがわずかに多い結果でした。酢酸、エタノール、抗菌活性は、ウォーターケフィアグレインのほうが一貫して高くなりました。糖の使い方も異なり、どちらもショ糖がブドウ糖と果糖に分解された後に消費されましたが、ウォーターケフィアグレインはブドウ糖を優先して使うため、一時的に果糖がたまりました。著者らは、ウォーターケフィアグレインの酵母がオレンジジュースのような酸性の環境により適応していると考えています。
pHは最初の32時間ほとんど変わらず、48時間の時点で低下しました。論文はその理由として、ジュースにもともと含まれていたクエン酸やリンゴ酸などの比較的強い酸が微生物に使われ、代わりに比較的弱い乳酸や酢酸がつくられたため、酸の量が増えても酸性度がすぐには強まらなかったと説明しています。終盤には酢酸が急増しており、著者らは、酵母がつくったエタノールを酢酸菌が酢酸に変えたことを示唆するものとしています。
エタノール濃度は体積比で、ミルクケフィアグレインが24時間後0.08%、48時間後0.59%、ウォーターケフィアグレインが24時間後0.92%、48時間後1.37%でした。論文は、ウォーターケフィアグレインの飲料はどちらの時点でも、いくつかの国でノンアルコール飲料の基準とされる0.5%を超え、48時間後には欧州連合でアルコール度数の表示が必要となる1.2%も超えたと指摘しています。また48時間後の酢酸濃度は、ほかの果汁系ケフィア風飲料の報告値よりかなり高く、強い酸味や刺激につながる可能性があるとして、24時間程度の短い発酵のほうが適した組成になりうると述べています。ただし、官能評価を行っていないため、味への影響は確かめられていないとしています。
栄養面では、ミルクケフィアグレインで発酵させた場合に、カリウム、リン、マグネシウム、カルシウムの増加が大きく見られました。一方、ビタミンB1、B2、Cはどちらのグレインでも発酵中に減少しました。香り成分の構成は発酵で大きく変わり、香りへの寄与が見込まれる成分の特徴は、バルサム調や柑橘調が中心の状態から、特に48時間後にはフルーティーで甘い特徴へと移りました。
研究が示すこと
この研究は、オレンジジュースがミルクケフィアグレインとウォーターケフィアグレインのどちらでも発酵できること、そしてグレインの種類と発酵時間によって、酸やアルコールの量、微生物、ミネラルやビタミン、香りの特徴が大きく変わることを示しました。著者らは、乳を使わないケフィア風飲料の開発に両方のグレインが使える可能性があるとまとめています。
同時に、発酵を長く続けるとアルコールや酢酸が多くなるため、目的とする飲料に合わせてグレインと発酵時間を選ぶ必要があることも示されました。なお、各グレインについて発酵は一回の実験として行われており、論文は、異なるロットのグレインやジュースでも同じ結果になるかは今後の確認が必要だとしています。
原著論文の著者・所属:Eduardo Balvis Outeiriño(Department of Systems Engineering and Automation, Faculty of Sciences, University of Vigo, Ourense Campus, As Lagoas s/n, 32004 Ourense, Spain)、Marta Abajo Justel(Industrial Biotechnology and Environmental Engineering Group “BiotecnIA”, Department of Analytical and Food Chemistry, University of Vigo, Ourense Campus, As Lagoas s/n, 32004 Ourense, Spain)、Nelson Pérez Guerra(Industrial Biotechnology and Environmental Engineering Group “BiotecnIA”, Department of Analytical and Food Chemistry, University of Vigo, Ourense Campus, As Lagoas s/n, 32004 Ourense, Spain)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Eduardo Balvis Outeiriño, Marta Abajo Justel, Nelson Pérez Guerra. Orange Juice as a Substrate for Milk and Water Kefir Grains: Production and Characterization of Novel Kefir-like Beverages. Foods 2026-10-04. DOI: 10.3390/foods15193544. 原著ライセンス:CC BY.