著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

中国東北地方の酸菜は、白菜を乳酸菌で発酵させた塩分控えめの伝統的な漬物です。発酵の過程で乳酸を中心とする有機酸などが生まれ、穏やかで心地よい酸味が生じます。漬物を作ると漬け汁が副産物として残りますが、この汁には有機酸やフェノール類などの成分が含まれています。

肉は加熱調理で香ばしい風味が生まれる一方、脂質の過度な酸化などによって、生臭さや油焼けしたようなにおい(オフフレーバー)が出ることがあります。研究チームは、酸菜の漬け汁が持つ有機酸がこうした不快なにおいを和らげる可能性に注目しました。これまで酸菜の肉製品への利用はソーセージやすり身などで報告されてきましたが、蒸して作る肉まんの具で、水の代わりに漬け汁をどれだけ使うと風味がどう変わるかは報告されていなかったといいます。そこで著者らは、置き換える割合の違いが、豚肉まんの具の香り成分と食べたときの評価にどう影響するかを体系的に調べました。

どのように調べたか

研究チームは、豚肉に調味料などを加えて作る具のうち、水分として加える液体(肉の重さの32%)を酸菜の漬け汁に置き換えました。置き換えの割合は0%(水のみ)、25%、50%、75%、100%の5段階です。具を生地で包んで肉まんにし、20分蒸したあと、具だけを取り出して分析しました。蒸した具の酸性度を示すpHは、置き換えなしの6.80から、100%置き換えでは5.42まで下がり、漬け汁が多いほど酸性に傾いていました。

香りについては、においのもととなる空気中に出やすい成分(揮発性有機化合物)を、成分を分離して種類と量を調べる二つの分析法(GC–MSとGC–IMS)で測定しました。さらに、においや味をセンサーでとらえる電子鼻・電子舌も使いました。あわせて、訓練を受けた30人の評価者が、外観、香り、食感、口当たり、酸味の5項目を採点する官能評価を行い、具に含まれる脂肪酸の構成も調べています。

主な結果

論文によると、置き換えの割合によって香り成分の構成も官能評価も大きく変わりました。GC–MSでは全体で80種類、GC–IMSでは66種類の香り成分が見つかりました。GC–MSで検出された成分の種類は、0%で46種類、25%で54種類、50%で64種類、75%で66種類、100%で65種類でした。

最も目立ったのは75%置き換えの具です。香り成分の種類が最も多く、総量も最大で、官能評価の総合点も最も高くなりました。香り成分の総量は、置き換えなしの1kgあたり約12,349µgから、75%置き換えでは約31,496µgと155%増えたと報告されています。一方、100%まで置き換えると総量は約22,248µgに減りました。著者らは、漬け汁を多く使うと持ち込まれるフェノール類やビタミンCが、生じた香り成分どうしの二次的な反応を促し、成分が消費された可能性を挙げています。

成分の種類ごとに見ると、具の特徴的な香りに最も寄与していたのはアルデヒド類で、75%置き換えでは32種類が検出されました。研究チームは、漬け汁で具が酸性に傾き、脂質の分解からアルデヒド類が生じる経路が優勢になったと解釈しています。また、漬け汁の有機酸が肉に含まれるアルコール類と結びつくことで、果物のような香りなどを持つエステル類も増えました。なお、酸菜に特徴的な硫黄を含む香り成分は、どの具からも検出されませんでした。蒸す間に失われたためと考えられています。

統計的な手法で、置き換え割合の違いを見分けるのに重要な香り成分を絞り込んだところ、19種類が選ばれました。脂肪酸は17種類が測定され、オレイン酸の仲間である成分が全体の55.90%、パルミチン酸が21.78%を占めていました。

研究が示すこと

著者らは、水の一部を酸菜の漬け汁に置き換えることで、豚肉まんの具の不快なにおいが抑えられ、不飽和脂肪酸の割合が高まり、全体としておいしさが向上したと結論づけています。ただし、置き換えるほど良いわけではなく、今回の条件では75%前後で香りの豊かさと評価が最も高くなりました。論文自身はこの成果を、漬け汁が蒸した肉の具の風味をどう変えるかについての予備的な知見と位置づけています。漬物を作るときに残る漬け汁が、伝統的な酸菜肉まんの風味づくりに生かせる可能性を、成分分析の面から示した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Dezhuang Gong(National & Local Joint Engineering Research Center of Storage, College of Food Science and Technology, Bohai University, Jinzhou, 121013, China)、Mengzhou Wang(National & Local Joint Engineering Research Center of Storage, College of Food Science and Technology, Bohai University, Jinzhou, 121013, China)、Chunling Li(National & Local Joint Engineering Research Center of Storage, College of Food Science and Technology, Bohai University, Jinzhou, 121013, China)、Zhitang Liang(Foshan Shunde Junling Kitchenware Co., Ltd., Foshan 528000, China)、Danshi Zhu(National & Local Joint Engineering Research Center of Storage, College of Food Science and Technology, Bohai University, Jinzhou, 121013, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Dezhuang Gong, Mengzhou Wang, Chunling Li, et al. Northeastern Chinese Sauerkraut Juice as a Water Replacer in Pork Fillings: Flavor Profiles and Sensory Attributes. Foods 2026-09-26. DOI: 10.3390/foods15193443. 原著ライセンス:CC BY.