この研究は、ロシアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Current Issues in Molecular Biology

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref

研究の目的

ヨーグルトやケフィアなどの発酵乳製品は、微生物(スターター培養)の働きによって牛乳が変化したものです。その過程で、牛乳に元々含まれていたタンパク質や糖、脂質が分解されたり作り変えられたりして、さまざまな小さな分子が生まれます。研究チームは、こうした微生物由来の分子の多くが人の健康に影響しうる生物活性を持つことに着目しました。

そこで著者らは、牛乳と、標準的なスターター培養を用いて作られた4種類の伝統的な発酵乳製品について、含まれる代謝物(メタボローム)とペプチド(ペプチドーム)の全体像を調べることを目的としました。ペプチドとは、タンパク質が分解されてできるアミノ酸が数個〜数十個つながった断片のことです。

何を、どのように調べたか

分析の対象となったのは、ヨーグルト、発酵乳、市販の培養菌を使ったケフィア、そしてケフィアグレイン(種菌の粒)を使ったケフィアを含む15種類の乳製品です。比較の基準として、脂肪含量の異なる牛乳の試料も用いられました。

これらの試料は、摂氏4度での冷蔵保存中、賞味期間の7日目と14日目の2時点で分析されました。手法としては、ペプチドの分析に超高速液体クロマトグラフィー質量分析(UPLC-MS/MS)が、それ以外の成分には対象ごとに条件を調整したガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)が使われています。いずれも、あらかじめ特定の物質だけを狙い撃ちするのではなく、含まれている分子を幅広く検出する「非標的」の手法です。調べられたのは、ペプチド、アミノ酸、長鎖・中鎖・短鎖の脂肪酸、そして単糖・二糖とその誘導体という4種類の分子群でした。

主な報告結果

これらの製品からは、合計348種のペプチド、37種のアミノ酸、30種の脂肪酸、23種の単糖・二糖が同定されました。

著者らはさらに、既存のデータベースを用いたコンピュータ上の照合(イン・シリコ解析)によって、検出されたペプチドのうち41種を生物活性を持つ可能性のあるペプチドとして注釈づけました。これら41種のペプチドは、分岐鎖アミノ酸(BCAA)、オロト酸(ビタミンB13)、d-フェニル乳酸、5-フェニル吉草酸、ミオイノシトール(ビタミンB8)とともに、保存期間中に発酵製品の中で蓄積していったと報告されています。

なお著者らは、これらの分子が実際に生物活性を示すかどうかは、本研究では実験的に検証していないと明記しています。生物活性が「ありそうだ」という推定は、あくまでデータベース照合に基づくものです。

この研究が示すこと

発酵乳製品は、作られた時点で成分が固定される静的な食品ではなく、冷蔵庫の中に置かれている間も分子レベルでの変化が続いている──この研究が描き出したのは、そうした姿です。しかも、その変化の方向は、生物活性を持つ可能性のあるペプチドやビタミン類が増えていく側でした。

同時にこの研究は、発酵乳製品に含まれる分子の目録を網羅的に示したものであり、それらが人の体に何をもたらすかを確かめたものではありません。何が、いつ、どれだけ存在しているのかを把握することは、その先の問いに取り組むための土台にあたります。

著者:Maxim S. Sheludchenko(Health&Nutrition LLC, Krasnogorsk, Moscow Region 143421, Russia)、Elena V. Kovalenko(Health&Nutrition LLC, Krasnogorsk, Moscow Region 143421, Russia)、Olesya O. Shoshina(Health&Nutrition LLC, Krasnogorsk, Moscow Region 143421, Russia)、Vera E. Odintsova(Nobias Technologies LLC, Sirius, Krasnodar Region 354340, Russia)、Stanislav I. Koshechkin(Nobias Technologies LLC, Sirius, Krasnodar Region 354340, Russia)、Olesya I. Volokh(Health&Nutrition LLC, Krasnogorsk, Moscow Region 143421, Russia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Maxim S. Sheludchenko, Elena V. Kovalenko, Olesya O. Shoshina, et al. Peptidome and Metabolome Profiling of Fermented Milk Products Reveal Accumulation of Bioactive Compounds During Cold Storage. Current Issues in Molecular Biology 2026-09-01. DOI: 10.3390/cimb48090955. 原著ライセンス:CC BY.