この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:LWT

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

ワインづくりで残る「搾りかす」に注目した研究

ワインを造ると、ブドウの皮や種、果梗(房の軸)などからなる固形の副産物が残ります。これが「ブドウ搾りかす(グレープポマス)」です。著者らによると、搾りかすはブドウ重量の20〜25%を占め、世界で年間約1000万トン発生しています。しかし長く低価値の廃棄物と見なされ、廃棄や埋め立て、焼却で処理されてきました。その結果、含まれている有用成分が失われ、環境負荷やコストの問題も生じてきたと論文は指摘しています。

搾りかすにはポリフェノールなどの成分が豊富に含まれることが知られ、有効活用に向けた研究が進んでいます。ただ、ワインと搾りかすのあいだで成分がどのように分かれるのかは体系的に調べられていませんでした。また、赤ワインと白ワインでは造り方が違うため搾りかすの成分も異なると考えられますが、その違いと背景にある仕組みも十分には分かっていませんでした。研究チームはこの点を明らかにし、搾りかすを目的に応じて使い分けるための基礎を示すことを目指しました。

赤ワイン・赤の搾りかす・白の搾りかすを比べる

試料はいずれも、中国・寧夏回族自治区銀川のワイナリーで2024年に収穫されたブドウに由来します。比較したのは、カベルネ・ソーヴィニヨンで造った赤ワイン、その醸造で出た赤ブドウの搾りかす、そしてシャルドネの白ワイン醸造で出た白ブドウの搾りかすの3種類です。

研究チームは複数の方法を組み合わせました。まず糖・アルコール・酸度などの基本的な性状を測りました。次に、試料が活性酸素などのラジカルを消す力や還元する力を複数の方法で評価し、これを抗酸化能の指標としました。さらに、狙った成分の量を個別に測る「ターゲット定量」と、試料に含まれる多数の代謝物(生物の働きで生じる小さな分子)をまとめて検出して比べる「ノンターゲット・メタボロミクス」を行いました。搾りかすは液体抽出物として、ワインと同じ単位で比較されています。

製法の違いも比較の前提になっています。赤ワインは発酵中も果皮を果汁に浸けておく「醸し」を行います。一方、白ワインは搾った直後に果汁と果皮を分けます。このため、果皮と果汁が触れる時間が大きく異なります。

主な結果:赤の搾りかすはポリフェノールが豊富、白は別系統の成分が多い

赤ワインと赤の搾りかすを比べると、搾りかすのほうが総フラボノイドを3.6倍多く含んでいました。赤い色素であるアントシアニンは成分によって大きく差があり、ペチュニジンでは最大で約320倍の差が報告されています。カテキン類やフェノール酸、レスベラトロールなど、アントシアニン以外のポリフェノールも、測定したほとんどの成分で搾りかすのほうが有意に多くなりました。抗酸化能の指標もすべて搾りかすのほうが高く、著者らはポリフェノールが搾りかすに多く残ることがこの高い抗酸化能を支えていると説明しています。ノンターゲット解析でも、注釈が付いた代謝物に占めるフェノール酸の割合は、搾りかすで35.2%、ワインで10.6%でした。

赤と白の搾りかすの比較では、代謝物の全体像がはっきり分かれました。赤の搾りかすでは、フラボノイドとアントシアニンを作る代謝経路に関わる物質が多く蓄積していました。赤の搾りかすは白に比べて、没食子酸が2.49倍、レスベラトロールが20.4倍多く含まれていました。白の搾りかすでは、アントシアニンは検出限界未満でした。

一方、白の搾りかすで多かったのは、カロテノイド、テルペノイド、植物ステロールでした。これらは赤の搾りかすにはほとんど含まれていませんでした。著者らは、白では共通の上流の原料物質がフラボノイド系ではなく、メバロン酸経路と呼ばれる別の合成経路へ優先的に流れていると解釈しています。これらの成分については、抗炎症作用や免疫調節作用との関連が報告されています。ただし論文は、そうした知見の多くが試験管内や細胞での研究に基づくものであり、人での効果は確立していないと明記しています。

この研究が示すこと

この研究は、搾りかすが単にワインの「出がらし」ではないことを示しました。搾りかすはそれ自体が特徴のある成分の集まりであり、赤と白では製法の違いを反映して中身が大きく異なります。赤の搾りかすはアントシアニンやフラボノイド、フェノール酸を、白の搾りかすはカロテノイドやテルペノイド、植物ステロールを特徴としています。

著者らは、こうした違いを踏まえ、それぞれの搾りかすの性質に合わせて利用法を考える必要があると述べています。一方で、今回の結果は単一の品種・単一の収穫年に基づき、代謝物の同定の一部は網羅的解析による推定であることも論文は断っています。ワイン産業の廃棄物を資源として生かすうえで、何がどこにどれだけ残るのかを示す基礎データとなる研究です。

著者:Yue Wang(Institute of Future Food Technology, JITRI, Yixing, 214200, China)、Tianhua Bai(Ningxia Agricultural Reclamation Wine Industry Co., Ltd, Yinchuan, China)、Keyu CHEN(Institute of Future Food Technology, JITRI, Yixing, 214200, China)、Jiajia You(Institute of Future Food Technology, JITRI, Yixing, 214200, China)、Minglong Shao(Institute of Future Food Technology, JITRI, Yixing, 214200, China)、Zhina Qiao(Institute of Future Food Technology, JITRI, Yixing, 214200, China)、Yanan Hao(College of Food Science and Engineering, Ningxia University, Yinchuan, 750021, China)、Huiling Zhang(College of Food Science and Engineering, Ningxia University, Yinchuan, 750021, China)、Yanan Li(Institute of Future Food Technology, JITRI, Yixing, 214200, China)、Zhiming Rao(Institute of Future Food Technology, JITRI, Yixing, 214200, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yue Wang, Tianhua Bai, Keyu CHEN, et al. Comparative metabolomics reveals polyphenol enrichment and pathway-specific metabolic divergence in red versus white grape pomace. LWT 2026-10-01. DOI: 10.1016/j.lwt.2026.120025. 原著ライセンス:CC BY.