赤紫色の小さな実をつけるカシス(ブラックカラント)は、ジャムやジュース、お菓子の香り付けなどでおなじみの果実です。実はこのカシス、これまでの研究でベリー類のジュースが強い殺菌力を持つ可能性が報告されてきました。今回紹介する論文は、そうした知見をさらに掘り下げ、カシス果実から作られたさまざまな抽出物が、口の中に存在する複数の細菌に対してどの程度の効果を示すのかを調べたものです。
研究でわかったこと
研究チームは、収穫したばかりのカシス果実から5種類の異なる抽出物を用意しました。具体的には、果実まるごとから作った「全果実ジュース(AFJ)」、単純に絞っただけの「絞りジュース(SJ)」、透析処理をしていない果実成分(NDFM)、果皮由来のアルコール抽出画分(AFBS)、果皮由来の水性抽出画分(AQFBS)の5種類です。これらを、口腔内に生息する複数の細菌――歯周病との関連が知られるグラム陰性菌(Fusobacterium nucleatum、Aggregatibacter actinomycetemcomitans、Porphyromonas gingivalis)や、う蝕(虫歯)に関わるとされるグラム陽性菌(Streptococcus mutansなど複数のレンサ球菌、Actinomyces naeslundii、Enterococcus faecalis)と直接接触させる実験を行いました。
その結果、5種類の抽出物のうち最も効果が高かったのは「全果実ジュース(AFJ)」でした。このジュースは、F. nucleatum、P. gingivalis、S. gordoniiという3種の細菌を完全に抑え込み、A. actinomycetemcomitans、A. naeslundii、E. faecalisについても菌の数を大きく減らしたと報告されています。抽出物ごとの殺菌効果の強さを比較すると、全果実ジュース(AFJ)が最も強く、次いで果皮のアルコール抽出画分(AFBS)、絞りジュース(SJ)、果皮の水性抽出画分(AQFBS)、非透析成分(NDFM)の順だったとされています。また全体の傾向として、グラム陰性菌の方がグラム陽性菌よりもカシス抽出物の影響を受けやすかったことも示されました。さらに興味深い点として、全果実ジュースの効果は、口腔ケア製品にも使われる消毒成分である0.2%クロルヘキシジン溶液による効果と同程度だったとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、あくまで実験室内で培養した細菌に抽出物を直接作用させた基礎的な検証であり、人が実際にカシスを食べたり、その抽出物を口に含んだりした場合に同じ効果が体内で得られるかどうかを示したものではありません。論文の著者らも、カシス果実抽出物が口腔内のバイオフィルム(歯垢のような細菌の集合体)形成を抑える可能性について、さらなる研究が必要だと述べています。一つの研究として興味深い結果ではありますが、これだけで「カシスを食べれば口の中の細菌が減る」といった結論が確定したわけではない点には注意が必要です。
まとめ
今回の研究では、カシス果実から作られた全果実ジュースが、口腔内に存在するいくつかの細菌、特にグラム陰性菌に対して強い抑制効果を示し、その効果は消毒薬であるクロルヘキシジンに匹敵する場合もあったと報告されています。カシスという身近な果実が持つ意外な一面を示す基礎研究として、今後どのように研究が発展していくのか注目されるところです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:カシス果実抽出物の抗菌特性(BMCコンプリメンタリー・メディシン・アンド・セラピーズ・2026年08月)