著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Frontiers in nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的
モリンガ(ワサビノキ)は熱帯・亜熱帯で広く育つ樹木です。特に葉は、食品や伝統的な薬用素材としてよく使われています。葉にはポリフェノールと呼ばれる植物成分の一群が含まれ、抗酸化作用などの生理活性をもつことが多くの研究で報告されています。
植物中のポリフェノールには2つのタイプがあります。溶媒で簡単に取り出せる「可溶性ポリフェノール」と、細胞壁の糖やたんぱく質に化学結合していて取り出しにくい「不溶性結合型ポリフェノール」です。結合型を遊離させる方法には、酸やアルカリによる化学処理や酵素処理があります。ただし著者らによると、化学処理には環境や人体への負荷があり、酵素処理には不安定さとコストの高さという課題があります。
そこで研究チームは、微生物を利用する固体発酵に注目しました。固体発酵とは、材料を液体に浸さず、適度に湿らせた固形の状態で微生物を育てる方法です。研究チームは、多様な分解酵素を作ることで知られる黒麹菌(アスペルギルス・ニガー)でモリンガ葉を発酵させ、ポリフェノールの量と働きがどう変化するかを調べました。
何を調べたか
研究チームはまず、温度、水分量、発酵日数、菌の接種量という4つの条件を組み合わせて試験しました。統計的な実験計画法を用いて、総ポリフェノール量が多くなる発酵条件を探しています。最終的に採用したのは、温度30℃、水分60%、発酵8日間、葉1グラムあたり1000万個の胞子という、扱いやすさも考慮した条件です。
そのうえで、14日間の発酵中に2日ごとに試料を採取し、次の項目を測定しました。
・細胞壁を分解する酵素(キシラナーゼ、セルラーゼ類、β-グルコシダーゼ)の活性 ・可溶性と不溶性結合型、それぞれのポリフェノール量 ・抗酸化活性(試験管内での4種類の測定法で評価)
さらに、発酵前の葉と8日間発酵させた葉については、液体クロマトグラフィーで個々のポリフェノール成分を分析しました。あわせて、糖や脂肪の消化に関わる酵素(α-アミラーゼ、α-グルコシダーゼ、リパーゼ)の働きを抽出物がどの程度抑えるかも、試験管内で調べています。
主な結果
発酵中の酵素活性はどれも、初めは低く、いったん高まってから下がる傾向を示しました。中でもキシラナーゼの活性は終始最も高く、8日目に最大となりました。
可溶性ポリフェノールの量も、増えてから減る推移をたどりました。最大となったのは8日目で、乾燥重量1グラムあたり没食子酸換算で約147ミリグラムでした。これに対して、不溶性結合型ポリフェノールは大きく減少しました。
可溶性ポリフェノールの量は、細胞壁分解酵素の活性と強い正の相関を示しました。著者らはこの結果から、黒麹菌の作る酵素が葉の細胞壁を壊し、結合していたポリフェノールが遊離して可溶性の形に移った可能性があると考えています。ただし、これは相関分析にもとづく推測として示されたものです。
成分分析では、標準物質として用意した21種類のうち19種類が確認されました。発酵後の可溶性画分では、複数の成分が増えていました。増加した成分には、カテキンやエピカテキンといった「フラバン-3-オール」と呼ばれるフラボノイドの仲間が含まれます。たとえばカテキンは約2倍に増えています。また、バニリンは発酵した葉でのみ検出されました。
可溶性ポリフェノールの抗酸化活性も、発酵とともに高まった後に低下しました。最大となった時期は、4つの測定法のうち1つでは6日目、残りの3つでは8日目です。最大時の値は、発酵開始時と比べて約70〜87%高くなっていました。一方、不溶性結合型の抗酸化活性はゆるやかに低下しました。また、カテキン類は4つの抗酸化指標すべてと強い正の相関を示しました。著者らは、これらの成分が抗酸化能の主な担い手だと考えています。
消化酵素の阻害試験では、発酵した葉の抽出物は3種類の酵素すべてについて、酵素の働きを半分に抑えるのに必要な濃度が、発酵前の抽出物より低くなりました。つまり、同じ濃度ではより強い阻害を示したことになります。なお、市販の阻害薬とは濃度の表し方が異なり、直接は比べられません。著者ら自身もこの点を限界として挙げています。
研究が示すこと
この研究は、黒麹菌でモリンガ葉を固体発酵させると、次のような変化が起きたことを測定結果として報告しています。
・可溶性ポリフェノールが増え、不溶性結合型が減った ・試験管内での抗酸化活性が高まった ・消化酵素を阻害する力が発酵前より強くなった
取り出しにくい結合型が酵素の働きで可溶性の形へ移ったという仕組みは、著者らが相関などから推測したものです。直接確かめられたわけではありません。それでもこの研究は、植物素材のポリフェノールを引き出す加工方法として微生物発酵が一つの候補になりうることを、モリンガ葉を例に、具体的な発酵条件とともに示しています。
原著論文の著者・所属:Yang M(College of Food Science and Technology, Yunnan Agricultural University, Kunming, China.)、Pang S(College of Food Science and Technology, Yunnan Agricultural University, Kunming, China.)、Luo L(College of Food Science and Technology, Yunnan Agricultural University, Kunming, China.)、Zao X(Miyi County Agriculture and Rural Bureau, Panzhihua, China.)、Deng X(Ganzi Tibetan Autonomous Prefecture Center for Disease Control and Prevention, Ganzi, China.)、Tian Y(Engineering Research Center of Development and Utilization of Food and Drug Homologous Resources, Ministry of Education, Yunnan Agricultural University, Kunming, China.)、Li Y(College of Food Science and Technology, Yunnan Agricultural University, Kunming, China.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yang M, Pang S, Luo L, et al. Phenolic compounds and antioxidant activities of moringa leaf processed by solid-state fermentation with <i>A.niger</i>. Frontiers in nutrition 2026-10-05. DOI: 10.3389/fnut.2026.1970171. 原著ライセンス:CC BY.